マンション上階なら水害は大丈夫?地下設備が浸水した場合の生活への影響

マンションの上階なら、洪水で自宅まで水が上がってこない限り大丈夫と思うかもしれません。

しかし、水害では「部屋が浸水するか」と「その部屋で生活を続けられるか」は別の問題です。

上階の住戸に水が入らなくても、地下や1階にある電気設備が浸水すると、停電、断水、エレベーター停止が同時に起こることがあります。

実際、令和元年東日本台風では、高層マンション地下の高圧受変電設備が冠水し、停電によってエレベーターや給水設備などが一定期間使えなくなる被害が発生しました。 国土交通省

つまり上階に住んでいる人が確認したいのは、「何階なら水に浸からないか」だけではありません。

地下や低層階の設備が浸水しても、電気・水・移動手段をどこまで維持できるマンションなのかを見る必要があります。

上階でも生活できなくなる起点は地下の電気設備

特に影響が大きいのが「受変電設備」です。

受変電設備とは、電力会社から届いた電気をマンション内で使える状態に変え、各住戸や共用設備へ配るための設備です。

大規模なマンションでは、これが地下階や低層階の電気室に置かれていることがあります。

ここが浸水すると、外の電力会社から電気が届いていても、建物内部へ正常に電気を送れなくなることがあります。

その結果、自宅の照明やコンセントだけでなく、給水ポンプやエレベーターなど、建物全体で電気を使って動かしている設備へ影響が広がります。 国土交通省

国土交通省は電気設備の浸水対策として、設備を上階へ置く、設置位置を高くする、防水扉や止水板で水の侵入を防ぐといった方法を示しています。

つまり、水害時のマンションを見るときは、建物の高さより先に「重要な設備がどこに置かれているか」を見る必要があります。 国土交通省

地下設備が浸水すると上階では何が起こる?

設備ごとに見ると、生活への影響が分かりやすくなります。

浸水・停止する設備起こり得ること上階への影響
受変電設備建物全体または一部が停電照明・コンセント・共用設備などが使えない
給水ポンプ上階へ水を送れない蛇口から水が出なくなることがある
エレベーター設備エレベーター停止外出、買い物、水の運搬が階段になる
地下の排水ポンプ地下の水を排出しにくくなる設備の浸水範囲が広がる可能性
非常用発電設備停電時の予備電源が使えない本来残るはずだった設備まで停止する可能性

ただし、「地下が浸水したら必ず全部止まる」という意味ではありません。

電気系統の分け方、設備の位置、防水対策、非常用電源の接続先はマンションごとに違います。

その違いこそが、上階で生活を続けられるかどうかの境目です。

受水槽に水があっても上階で断水することがある

特に誤解しやすいのが水です。

水道局からマンションまで水が来ていても、高層階まで水を送るためのポンプが止まれば、上階では水が出なくなることがあります。

したがって、「地域が断水していない=自宅も水が出る」とは限りません。 大阪市公式ウェブサイト

ただし、停電と同時に必ず断水するとも限りません。

給水方式によって違います。

例えば、いったん水をためて屋上などの高い位置にある水槽へ送り、そこから各住戸へ給水しているマンションでは、水槽に残っている水がある間は使える場合があります。

一方、電動ポンプで直接上階へ水を送る仕組みでは、ポンプへの電源がなくなると上階への給水が難しくなります。 大阪市公式ウェブサイト

そのため、自分のマンションについて確認したいのは「受水槽があるか」だけではありません。

停電したとき、どの設備を使って自分の階まで水が届くのか。その設備に非常用電源があるのかまで確認して初めて判断できます。

なお、停電時でも低い階や共用水栓など一部だけ給水できる建物もあります。

水を確保できてもエレベーターが止まっていれば、高層階まで水を運ぶこと自体が大きな負担になります。大阪市水道局も、停電時の高層階への水運搬が大変になることから、各家庭での飲料水備蓄を呼びかけています。 大阪市公式ウェブサイト

エレベーターは電気が戻ればすぐ使えるとは限らない

高層階では、断水と同じくらい影響が大きいのがエレベーターです。

建物自体の停電だけでなく、エレベーターの昇降路の下部や関連設備が浸水して停止するケースもあります。

エレベーターメーカーにも、都市水害によって昇降路が浸水し、エレベーターが停止した事例があります。 東芝エレベータ

水に浸かった電気設備は、乾いたように見えるからといって、そのまま使用を再開できるものではありません。

経済産業省のガイドラインでも、浸水した受変電設備は排水後に清掃・点検を行い、再利用できるかどうかを電気工事業者や電気主任技術者、必要に応じてメーカー技術者が判断する流れを示しています。 経済産業省

したがって、「停電が直った=エレベーターもすぐ通常運転」とは限りません。

上階の生活を考えるときは、電気そのものの復旧と、エレベーターなど各設備の復旧を分けて考える必要があります。

非常用発電機があれば安心とは限らない

マンションに非常用発電機があると聞くと、停電しても普通に暮らせるように感じます。

しかし、見るべきなのは「非常用発電機があるか」だけではありません。

重要なのは、

  • 何の設備へ電気を送れるのか
  • 給水ポンプも対象なのか
  • エレベーターは何台動かせるのか
  • どれだけの時間運転できる想定なのか
  • 発電機や配電設備自体が浸水しない場所にあるのか

という点です。

国土交通省・経済産業省の浸水対策ガイドラインでは、受変電設備だけでなく自家発電設備も浸水対策の対象としています。

電気設備そのものを高い場所へ置くことも対策として示されているため、「予備電源が地下にあるのか、浸水しにくい場所にあるのか」も確認材料になります。 経済産業省

つまり、非常用発電機の有無だけで水害後の生活継続を判断することはできません。

上階で在宅生活を続けられるかは4つに分けて考える

上階なら水害時も自宅に残れるかを考えるときは、「浸水しないから大丈夫」ではなく、次の4つを分けて考えると判断しやすくなります。

まずは自宅階が想定浸水深より上にあるかです。

国のハザードマップポータルでは洪水・内水・高潮などのリスクを確認できますが、地域によって公開されている情報は異なるため、市区町村が作成するハザードマップも併せて確認します。 地震防災ポータル

次が電気です。

受変電設備と非常用発電設備が浸水しにくい場所にあり、停電後も必要な設備へ電力を供給できるなら、生活を続けられる余地は大きくなります。

3つ目が水とトイレです。

飲料水を備蓄していても、生活用水がなく、さらにトイレが使えなければ長期間の在宅生活は厳しくなります。

東京都の防災資料でも、マンションで断水が長期化すると飲料水や生活用水の確保が難しくなり、在宅避難そのものが難しくなるとしています。 防災情報ナビゲーション

災害後に排水設備の安全が確認できていない場合も注意が必要です。

排水管などに問題がある状態で上階からトイレを流すと、下階で汚水があふれる可能性があるため、管理側の確認が取れるまでは携帯トイレを使うよう案内している自治体もあります。 千葉県公式サイト

最後が移動です。

エレベーターが止まった状態で何階まで日常的に階段を往復できるかは、人によって大きく違います。

健康な人が一時的に10階へ上るのと、高齢者、乳幼児がいる家庭、介助が必要な人が毎日生活するのとでは判断が変わります。

したがって、「建物にいられるか」ではなく、停電・断水・エレベーター停止が数日続いた場合でも、その世帯が生活を維持できるかまで考える必要があります。

「上階だから避難しなくていい」とも限らない

マンションの上階が想定浸水深より高くても、それだけで自宅待機を決めることはできません。

洪水だけでなく内水氾濫、高潮、土砂災害など、地域によって確認すべき災害が違います。

また、国のハザードマップでは「家屋倒壊等氾濫想定区域」や「浸水継続時間」などを確認できる地域があります。水が自室まで届かなくても、周囲が長期間浸水すれば外へ出られない可能性があります。 地震防災ポータル

実際の大雨時には、自治体の避難情報、マンションの防災計画、周囲の浸水状況を優先して判断してください。

特に、エレベーターが止まると移動が難しい人がいる家庭では、「設備が止まってからどうするか」ではなく、まだ安全に移動できる段階でどうするかを決めておく必要があります。

自分のマンションはどこを確認すればいい?

管理会社や管理組合に問い合わせるなら、「水害対策していますか」と聞くだけでは判断しにくいでしょう。

次のように具体的に聞くと、自分の部屋で生活を続けられるかが見えてきます。

「受変電設備と非常用発電設備は何階にありますか」

「停電すると自宅の階の水はすぐ止まりますか。給水ポンプは非常用電源で動きますか」

「非常用電源で動かせるエレベーターはありますか」

「地下や1階へ水が入った場合、電気室まで水が入らないような止水対策がありますか」

「地下設備が浸水した場合の復旧手順や連絡先は決まっていますか」

国土交通省のガイドラインでも、想定される浸水深や浸水継続時間を調べたうえで、電気設備の上階設置、止水板・防水扉、設備のかさ上げ、さらに被災後の連絡・点検・復旧体制まで準備する考え方が示されています。 国土交通省

「設備は地下です」という答えだけで危険と決める必要もありません。

地下にあっても、入口や換気口、配管部分まで含めて水の侵入を防ぐ設計になっている建物もあります。

反対に、非常用発電機があっても、その設備自体が浸水する位置にあったり、給水ポンプが非常用電源の対象外だったりすれば、期待していた機能が残らない可能性があります。

見るべきなのは設備名ではなく、水害が起きたあとに「電気・水・エレベーター・トイレ」のどこまで残る設計なのかです。

マンション上階の水害は「浸水しない」と「生活できる」を分けて考える

マンションの上階は、想定される水位より高ければ住戸への直接浸水を避けられる可能性があります。

しかし、それだけで「水害に強い部屋」とは判断できません。

地下や低層階にある受変電設備が浸水すれば、上階でも停電し、給水ポンプやエレベーターが止まることがあります。

最終的に確認したいのは、

自分の階まで水が来るか。

そしてもう一つ、

水が来なくても、その部屋で数日生活を続けられる建物なのか。

この2つです。

ハザードマップで土地の浸水リスクを確認したら、次はマンションそのものの設備配置と非常時の運用を確認してください。

「何階に住んでいるか」だけでは分からなかった、そのマンション固有の水害リスクが見えてきます。

地域によって違う点

洪水・内水・高潮のハザードマップ、公表されている浸水継続時間、避難先・避難情報などは地域によって異なります。

全国共通の「マンション○階以上なら安全」という基準はありません。

国のハザードマップポータルと、市区町村が公開している最新のハザードマップ・防災情報の両方を確認してください。 地震防災ポータル

出典

国土交通省|建築物における電気設備の浸水対策ガイドラインについて 資料を見る

国土交通省|「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」をとりまとめました 資料を見る

経済産業省|建築物における電気設備の浸水対策 資料を見る

大阪市水道局|停電によるビル・マンション等の断水に備えましょう 資料を見る

国土交通省・国土地理院|ハザードマップポータルサイト 確認する

東京都|東京防災・マンションでエレベーター・ライフラインが止まったときの対応 資料を見る

千葉県|マンション特有の課題と対策(マンション防災) 資料を見る