旧地名を土地購入前に調べる|今の町名では消えた水害の手掛かり

土地を探していると、現在の住所だけを見れば、水害とはあまり関係がなさそうに見える場所があります。

きれいに区画整理された住宅地。

「○○台」「○○ヶ丘」といった新しい町名。

近くに大きな川も見当たらない土地。

それでも昔の地図まで遡ると、現在とは違う地名が出てきたり、川・湿地・水田だったことが分かったりすることがあります。

そこで土地購入前の確認材料になるのが「旧地名」です。

ただし、

「昔の地名に沼が入っているから危険」

「○○台だから高台で安全」

と地名だけで土地を判定するものではありません。

旧地名は答えではなく、その土地の過去をもう一段調べるきっかけです。

旧地名が気になったら、旧版地図、土地の成り立ち、旧河道、過去の土地利用、現在のハザードマップまでつなげて確認します。

調べたいのは「昔の名前」より、その名前だった頃の土地

旧地名というと、

川
沼
池
沢
谷
窪
田
新田
江
浦
浜

など、水や低い土地を連想する文字が注目されます。

確かに昔の地名が、当時の地形や土地利用を知る手掛かりになることはあります。

しかし、文字だけから水害リスクを決めることはできません。

例えば「沼」という文字が人名など別の由来から付けられた地名もあります。

反対に、水に関係する文字が一切ない土地でも、昔の河道や湿地の上に住宅地ができている可能性があります。

土地購入前に本当に知りたいのは、

昔どんな名前だったのか

だけではありません。

その名前が使われていた時代に、

川はどこを流れていたのか。

水田や湿地ではなかったか。

周囲より低い土地ではなかったか。

その後どのように造成されたのか。

です。

旧地名は、その調査を始める入口として使います。

今の町名だけでは昔の土地の姿が見えないことがある

市町村合併、住居表示、区画整理、宅地開発などによって、現在の町名と昔の地名が異なる場所があります。

現在の地図では、道路と住宅が整然と並んでいても、古い地図では田畑や水路が広がっている場合があります。

国土地理院も、過去の地名の変遷を知りたい場合には旧版地図を確認するよう案内しています。

旧版地図は、明治以降に作成された過去の地形図です。

昔の集落名や地名だけでなく、

河川。

池・沼。

水田。

湿地。

道路。

堤防。

など、当時の土地の状態を確認できます。

つまり旧地名を調べる目的は、昔の名称を知って終わることではありません。

旧地名が使われていた時代の地図まで戻ることです。

「川・沼・池・谷」が出てきても、その土地をすぐ除外しない

旧地名を検索して、水を連想する文字が出てくると不安になります。

ただ、それだけで購入候補から外す必要はありません。

確認したいのは、

その名称が本当に地形由来なのか。

検討地そのものが低い場所だったのか。

近くに川・湿地・水路があったのか。

現在もその地形的な特徴が残っているのか。

です。

例えば広い大字の中に「沼」という文字が入っていたとしても、検討している一筆が実際に低湿地だったとは限りません。

逆に旧地名に水を連想する文字がなくても、その場所が旧河道だった可能性はあります。

文字よりも、土地そのものの位置と昔の地形を優先して確認します。

旧地名が普通の名前でも安心とは限らない

これは土地購入前には特に重要です。

旧地名を調べた結果、

水に関係する文字がない。

昔から同じような地名だった。

という場合でも、それだけで水害リスクが低いとは判断できません。

旧河道は、昔の川筋がその後埋められたり耕地になったりして、現在の町並みからは分からなくなっている場合があります。

国土地理院の治水地形分類図では、昔に川が流れていた場所を「旧河道」として確認できます。

旧河道のうち明瞭なものは、周囲の氾濫平野より1~2m程度低いことがあり、現在も水が集まりやすく、わずかな降雨でも浸水しやすいとされています。

つまり、

昔の名前は普通
↓
でも地形は旧河道

ということがあります。

旧地名に何が入っているかより、地形分類を確認した結果の方を重く見ます。

旧地名が気になったら最初に旧版地図を見る

土地購入前に旧地名を調べるなら、最初に候補地の現在位置を正確に確認します。

住所だけでなく、できれば地番まで分かると位置を特定しやすくなります。

その現在位置を基準に、昔の地図へ遡ります。

国土地理院では、明治以降に作成された2万5千分1、5万分1などの旧版地図を保存・提供しています。

過去の地名を知るだけなら旧版地図上の名称を確認します。

しかし水害前ラボで見たいのは名称だけではありません。

候補地の周囲に、

河川があった。

池や沼だった。

水田が広がっていた。

湿地だった。

河川の流路が現在と違った。

といった変化がないかを確認します。

ここで気になるものが見つかったら、次に地形分類へ進みます。

新旧地図を並べて見ると位置関係が分かりやすい

古い地図を単独で見ても、

「現在のどの場所なのか分からない」

ことがあります。

その場合は、新旧の地図を同じ位置で比較できるサービスを使う方法があります。

「今昔マップ on the web」では、明治期以降の旧版地形図と現在の地図を並べて表示できます。

例えば現在の住宅地を表示したまま年代を遡ることで、

昔は水田だった。

川の形が違う。

道路ができる前は低地だった。

といった変化を確認しやすくなります。

ただし、民間・研究用途のサービスだけを最終判断の資料にするのではなく、気になる土地が見つかったら国土地理院や自治体の資料でも確認します。

便利な地図は候補地を調べる入口として使います。

愛知県なら「明治期の低湿地」も確認できる

愛知県など中部地区では、国土地理院の「明治期の低湿地データ」を利用できます。

これは明治期に作成された地図から、

旧河道。

河川・湖沼。

水田。

湿地。

深田。

ヨシ原。

など、当時の低湿地を抽出したデータです。

現在の地図へ重ねて表示できるため、

現在は住宅街
↓
明治期には水田や湿地

という変化を確認できます。

ただし、このデータは主として土地の液状化との関連が深い区域を確認するための資料であり、「色が付いている=必ず洪水になる」という地図ではありません。

また古い地図を原典としているため、位置誤差にも注意が必要です。

土地購入の可否を単独で決める地図ではなく、土地の履歴を確認する一資料として使います。

旧河道・後背湿地が出たら旧地名よりこちらを重視する

昔の地図を見たあとに確認したいのが、地理院地図の地形分類です。

特に水害との関係で確認したいのは、

旧河道。

後背湿地。

氾濫平野。

谷底平野。

三角州。

干拓地。

などです。

例えば後背湿地は、自然堤防の背後や旧河道周辺などにできる周囲より低い土地です。

国土地理院では、後背湿地はわずかな降雨でも浸水しやすく、浸水深・浸水時間が大きくなる傾向があるとしています。

氾濫平野も、河川の堆積作用によって形成された低平地で、河川氾濫だけでなく内水氾濫が起こりやすい地形です。

ここまで確認できれば、

「昔の地名に水っぽい文字があった」

という推測から、

「この土地は実際にどのような地形の上にあるのか」

という判断へ進めます。

治水地形分類図では昔の川筋を複数の時代から確認できる

川の近くの土地なら、治水地形分類図も確認します。

治水地形分類図には現在の河川だけでなく、旧河道や旧堤防なども掲載されています。

旧河道については、

明治末期~大正初期。

大正末期~昭和初期。

昭和20年代。

昭和30年代後半~40年代前半。

という複数時期の旧版地図から、当時の河川水部を抽出した情報も確認できます。

つまり現在の川から数百m離れていても、

昔は川が蛇行していた場所。

河川改修前は川筋だった場所。

ということが分かる場合があります。

現在の川との距離だけで水害リスクを考えず、川が過去にどこを通っていたかも確認します。

ハザードマップが無色でも「安全」とは決めない

旧地名や昔の地形を調べたら、現在のハザードマップと重ねます。

国のハザードマップポータルサイトでは、

洪水。

内水。

高潮。

津波。

土砂災害。

などの災害リスクを確認できます。

土地購入時には、市町村が公開する最新の水害ハザードマップも確認します。

ただし、ハザードマップ上で浸水想定区域に入っていないことは「水害リスクがゼロ」という意味ではありません。

国土交通省も、不動産取引時の水害ハザードマップ説明について、対象物件が浸水想定区域外であることをもって水害リスクがないと誤認させないよう求めています。

したがって、

ハザードマップは無色
+
旧版地図では水田
+
地形分類では旧河道

という土地なら、

「ハザードマップが白だから終了」

ではなく、なぜ地形との違いがあるのかをもう一段確認します。

旧地名と現在のハザードマップが違っても矛盾ではない

例えば昔の地名が水に関係していたのに、現在の洪水ハザードマップでは浸水想定が小さい場合があります。

これは必ずしもどちらかが間違っているという意味ではありません。

昔と現在では、

河川改修。

堤防整備。

排水機場。

下水道。

土地造成。

道路や鉄道などの盛土。

など、周辺環境が変わっている可能性があります。

旧地名は過去の状態を調べる情報です。

ハザードマップは現在の一定条件に基づいて想定された情報です。

役割が違います。

旧地名に気になる要素があっても、現在の治水対策や土地の高さまで確認して、現在の土地として判断します。

「○○台」「○○丘」だから高い土地とも決めない

反対に、現在の地名が、

○○台。

○○丘。

○○ヶ丘。

のようになっていても、名前だけから台地・丘陵地と判断することはできません。

新しく開発された住宅地では、以前とは異なる町名が付けられることがあります。

確認したいのは「台」という文字ではなく、実際の地形です。

地理院地図では自然地形だけでなく、盛土地・切土地などの人工地形も確認できます。

昔の低い土地を盛土して現在の住宅地ができたのか。

丘陵を切って造成したのか。

もとの自然地形が現在まで残っているのか。

を確認します。

現在の町名から昔の土地を想像するのではなく、昔の地図まで戻ります。

旧地名を検索して終わらず、過去の浸水記録も探す

旧地名や地形分類で気になる土地があった場合、自治体が公開している過去の浸水記録も確認します。

自治体によっては、

過去の浸水実績図。

水害記録。

過去の災害資料。

河川の洪水記録。

などを公開しています。

また、国土地理院の地理院地図では、過去に発生した洪水・津波などの災害を伝える「自然災害伝承碑」を確認できます。

近くに洪水に関する伝承碑があれば、その地域でどのような被害が起きたのかを知る入口になります。

旧地名
↓
地形
↓
過去の災害

と情報が重なっている場合は、土地購入前にさらに詳しく確認する理由になります。

土地購入前なら「旧地名が何だったか」よりここまで確認する

旧地名調査の目的は、珍しい昔の町名を見つけることではありません。

土地購入前なら、次のようにつなげます。

現在の土地の位置を特定する。

旧版地図で旧地名と昔の土地利用を見る。

地形分類で旧河道・後背湿地・氾濫平野などを確認する。

ハザードマップで現在の洪水・内水・高潮などを見る。

自治体の過去の浸水履歴を探す。

現地で周囲・道路との高低差や排水状況を見る。

この順番で見ると、

「昔の名前が怖そうだからやめる」

という判断ではなく、

「この土地では何の水害リスクを詳しく調べる必要があるのか」

という判断に変わります。

旧地名は「危険な土地を当てる道具」ではない

土地探しでは、できるだけ簡単な基準で安全か危険かを判断したくなります。

しかし、

「川・沼・谷が付けば危険」

「台・丘なら安全」

という判定では、土地そのものを見ていません。

旧地名に水を連想する言葉があっても、現在は治水対策が進み、土地条件が変わっている場合があります。

反対に旧地名に何も気になる文字がなくても、地形分類を見ると旧河道や後背湿地だったということもあります。

旧地名は危険度を点数化する情報ではありません。

現在の町名では見えなくなった土地の履歴を探し出し、

「ここはもう少し調べた方がいい」

と気付くための情報です。

まとめ

土地購入前に旧地名を調べる意味は、「危険な漢字」を探すことではありません。

現在の町名になる前、その土地がどのような場所だったのかを知る入口にすることです。

昔の地名が分かったら、旧版地図で当時の河川・水田・湿地などを確認し、さらに旧河道・後背湿地・氾濫平野といった地形分類まで確認します。

その結果を現在の洪水・内水・高潮などのハザードマップや過去の浸水履歴と重ねます。

旧地名そのものを購入する・しないの結論にせず、旧地名から見つかった違和感を「土地の履歴をもう一段調べる理由」にすることが大切です。

出典

国土地理院|国土の情報に関するQ&A(昔の地形・地名の変遷)

国土地理院|2万5千分1地形図(旧版)及び5万分1地形図(旧版)データ

国土地理院|土地の成り立ち・土地利用

国土地理院|治水地形分類図について

国土地理院|治水地形分類図の内容

国土地理院|明治期の低湿地データ

国土地理院|土地の成り立ちから災害リスクを知る

国土交通省・国土地理院|ハザードマップポータルサイト

国土交通省|不動産取引時における水害ハザードマップ上の所在地説明

今昔マップ on the web|時系列地形図閲覧サイト

ROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センター|歴史的地名/現代地名による統合検索