土地を見に行ったら、敷地の横に幅1mほどの小さな水路がある。
普段は水も少なく、大きな川でもない。
洪水ハザードマップを見ても候補地には色が付いていない。
それなら、水害はそれほど気にしなくてもよいのでしょうか。
ここで注意したいのは、
「小さい水路だからハザードマップには出ない」
とも、
「ハザードマップが白だから水路はあふれない」
とも一律には言えないことです。
現在は小規模な一級・二級河川についても洪水浸水想定区域の整備が進んでいます。
一方、目の前にあるものが農業用排水路、用水路、普通河川などであれば、見ている洪水ハザードマップの氾濫計算に、その水路自体が入っていない場合があります。
土地購入前に確認したいのは水路の幅ではありません。
この水路は何なのか。
どこから水が集まってくるのか。
大雨の水をどこへ流しているのか。
下流側で流せなくなったとき、どこへあふれるのか。
そこまで確認します。
最初に「この水路は何ですか」を確認する
現地では同じように見える水路でも、役割は違います。
一級河川や二級河川。
市町村が管理する準用河川。
普通河川。
農業用の用水路。
農業用の排水路。
道路や市街地の雨水を処理する排水路。
などがあります。
例えば愛知県は、農業用水路を農地へ必要な水を届ける施設、排水路を農地から余分な水を排除して河川や海へ流す施設と説明しています。
つまり、水路によって「どこから水が来るか」が違います。
土地の横にあるコンクリート水路を見て、
「小川」
と決めず、まず名称・種類・管理者を確認します。
小さく見える川でも現在は洪水マップに入っていることがある
少し前まで、
「洪水ハザードマップは大きな川だけ」
というイメージがありました。
しかし、2021年の水防法改正によって洪水浸水想定区域の対象は拡大されています。
愛知県では、洪水予報河川・水位周知河川だけでなく、住宅等の防護対象がある一級・二級河川について指定を進め、2025年3月21日までに対象となる297河川の洪水浸水想定区域を指定しました。
そのため、
水路が細い
↓
小さな川
↓
洪水ハザードマップには入っていないはず
とは判断できません。
まずその水路・川の正式名称を確認し、愛知県の洪水浸水想定区域や自治体のハザードマップに対象河川として入っているかを確認します。
ただし洪水ハザードマップに色がなくても終わりではない
ここが今回の記事で最も重要です。
洪水浸水想定区域図は、その図で対象としている河川について氾濫を計算しています。
愛知県も、洪水浸水想定区域図について、
対象河川以外の河川・水路等による氾濫。
内水氾濫。
想定条件を超える降雨。
などを考慮していないため、図に示されていない区域でも浸水する場合があると明記しています。
つまり候補地の横に水路があるのに洪水ハザードが白い場合、
「この水路があふれても浸水しない」
と確認できたとは限りません。
先に確認したいのは、
その水路の氾濫が、今見ている図の計算に含まれているか
です。
「ハザードマップに出ない水路」ではなく「どのマップに入っているか」を見る
洪水ハザードマップに出ていない水路でも、内水ハザードマップ側で影響が計算されている場合があります。
内水氾濫は、大雨によって水路・下水道などの排水能力を超えたり、放流先の川の水位が高くなり雨水を排出できなくなったりすることで起こります。
つまり小さな排水路があふれる問題は、河川洪水より内水として見る方が合う場合があります。
例えば安城市は、
「もし、市内の水路があふれたら」
という浸水想定を水害ハザードマップに掲載しています。
碧南市も内水ハザードマップで、水路等から雨水があふれて道路や家屋へ流れ込む現象を示しています。
土地横の水路が洪水マップに見当たらなければ、
洪水マップ
↓
内水マップ
と確認先を変えます。
内水ハザードマップにも載っていないから安全、ではない
内水ハザードマップにも限界があります。
例えば西尾市の内水ハザードマップは、下水道計画区域を中心とした区域をシミュレーション対象としています。
西尾市自身が、マップに載っていない区域はシミュレーションを行っていないものの、浸水する可能性があり「安全とは言い切れない」と説明しています。
碧南市も、内水ハザードマップで着色されていない場所でも雨の降り方によって浸水する可能性があるとして、特に水路の近くでは注意を呼びかけています。
したがって、
洪水ハザード 白
内水ハザード 白
でも、
水路横だから絶対に安全
という結論にはなりません。
地図で何が計算され、何が計算されていないかを確認します。
普段水が少ない水路ほど大雨時の姿を想像しにくい
候補地を晴れた日に見ると、水路には数cmしか水が流れていない。
すると、
「この程度ならあふれそうにない」
と感じます。
しかし、排水路の場合は、そもそも余分な水を外へ排出するための施設です。
普段の水量だけで最大時の水量は判断できません。
大雨になれば、
周辺農地。
道路。
住宅地。
別の排水路。
などから水が集まり、短時間で流量が増える場合があります。
愛知県でも、周辺の開発によって雨水流出量が増加し、水路等の溢水被害を防ぐために農業用用排水施設を改修する事業を行っています。
土地を買うときに見たいのは普段の水深より、
この水路は大雨のとき、どの範囲の水を受けるのか
です。
水路の幅より上流側を見る
例えば候補地横の水路が幅80cmだったとします。
これだけでは水害リスクは分かりません。
その水路が、
近くの数枚の農地だけを排水している。
数百m上流の住宅地からも水を集めている。
別の水路が上流で合流している。
長い坂道から道路雨水が入っている。
では、大雨時の条件が違います。
水路を見つけたら、可能な範囲で上流側へ追います。
どこから始まっているのか。
途中で別の水路が合流していないか。
住宅地から雨水が流れ込んでいないか。
水田・農地の排水路になっていないか。
を確認します。
目の前の水路の大きさではなく、背後にある集水範囲を見ます。
下流側はもっと重要|最後にどこへ流れるか
上流以上に重要なのが下流です。
水路は最後に、
別の大きな水路。
河川。
海。
排水機場。
などへつながります。
普段は水路を順調に流れていても、大雨時に下流河川の水位が上がれば、水を排出しにくくなる場合があります。
内水浸水想定でも、排水施設の能力だけでなく、放流先河川の水位上昇による影響まで考慮します。
つまり、
候補地横の水路に十分な深さがある
↓
安心
ではありません。
候補地
↓
水路
↓
下流排水路
↓
河川
までつなげて見ます。
土地横の水路ではなく、最後の出口がボトルネックになることがあります。
水路が途中で細くなる場所を探す
候補地横では幅1mある水路が、その先で、
細い水路になる。
道路の下の管へ入る。
小さなボックスカルバートを通る。
別の水路と合流する。
という場所があります。
大雨時の水は、一番広い場所に合わせて流れるわけではありません。
途中に流れにくい場所があれば、その上流側で水位が上がる可能性があります。
特に確認したいのは、
道路を横断する場所。
暗渠へ変わる場所。
橋の下。
水路の合流点。
急な曲がり。
ごみ・草・流木が引っ掛かりそうな場所。
です。
土地の横だけ見て「十分深い」と判断せず、少し下流まで追います。
水路と敷地の高さを見る
次に、水路と候補地との高さを見ます。
例えば水路の上端より敷地が十分高い。
水路から敷地へ向かって土地が上がっている。
のであれば、水路が少し増水しただけでは敷地へ入りにくい方向の材料になります。
一方、
敷地が水路上端とほぼ同じ高さ。
敷地の方が低い。
水路側から敷地へ下がっている。
という土地なら確認を増やします。
ただし、高低差だけで何cmまで安全という基準はありません。
大雨時に水路の水位がどこまで上がるかで変わるためです。
重要なのは、
水路からあふれた場合、水が候補地と反対方向へ流れるのか、それとも候補地へ向かう地形なのか
です。
水路の反対岸より候補地側が低ければ流れ込む方向も見る
水路があふれれば、必ず両側へ均等に流れるわけではありません。
例えば、
水路の東側は高い道路。
西側は低い候補地。
という地形なら、越水した水が低い側へ流れやすくなる可能性があります。
水路の護岸だけでなく、
候補地。
反対岸。
前面道路。
周辺宅地。
の高さを比較します。
地理院地図の標高・断面図は周辺地形を大まかに確認する資料として使えます。
ただし、護岸と敷地との数十cm単位の高さを確定する用途には現地測量等が必要です。
雨上がりには水位だけでなく「あふれた跡」を探す
安全が確保できる雨上がりに現地を確認できるなら、水路の水位だけではなく周辺を見ます。
護岸上部に草やごみが引っ掛かっている。
泥が敷地側へ流れた跡がある。
水路沿いだけ草が倒れている。
橋や暗渠入口へ枝・ごみが集まっている。
水路横の道路だけ泥が残っている。
といった跡があれば、なぜそうなったかを確認します。
ただし、それだけで過去の氾濫跡と断定はしません。
写真に残し、売主・近隣の情報や自治体の過去浸水記録などと照らします。
危険な豪雨中に水路へ近づいて確認する必要はありません。
水路があふれた記録がないか自治体資料を探す
洪水ハザードマップだけでなく、過去の浸水実績も確認します。
自治体によっては、
過去の浸水実績。
道路冠水記録。
内水ハザードマップ。
地域住民が作成した手作りハザードマップ。
などを公開しています。
例えば安城市では地域の手作りハザードマップに、水路や水が集まる場所など、地域住民が把握している危険箇所が記載されている地区があります。
シミュレーション上のハザードと、実際に過去どこへ水が集まったのかは別の情報です。
土地横に小さな水路がある場合ほど、地域レベルの記録まで探す意味があります。
用水路なのか排水路なのかで見る方向が変わる
農業用水路なら、主に農地へ水を供給するための施設です。
排水路なら、余分な水を農地などから河川・海へ排出するための施設です。
ただし現地で見ただけでは判別できないことがあります。
また地域によっては、複数の機能や接続関係を持つ水路もあります。
そこで購入前には、
水路の正式名称。
管理者。
用水か排水か。
どこから水を取っているか。
どこへ放流しているか。
途中にゲート・樋門・ポンプなどがあるか。
を確認します。
「農業用水路だから大雨とは無関係」「排水路だから必ず危険」と名前だけで決めません。
その水路が大雨時にどう運用・機能するのかを確認します。
管理者が分かれば聞けることが増える
土地横の水路について不動産会社へ、
「この水路、大丈夫ですか」
と聞くだけでは具体的な回答を得にくい場合があります。
まず管理者を確認します。
国・県。
市町村。
土地改良区。
その他の管理主体。
など、水路によって異なります。
管理者が分かれば、
水路の名称・種類。
排水先。
過去に溢水した記録。
改修履歴。
今後の改修予定。
ゲート・ポンプ等の有無。
などを確認できる可能性があります。
すべての情報が個別住宅向けに用意されているとは限りませんが、「正体不明の水路」のまま土地を買わないことが重要です。
小さい水路でも土地購入判断を慎重にしたい条件
水路が横にあるだけで購入を避ける必要はありません。
例えば、
水路の種類・管理者が確認できる。
洪水・内水のどの想定に含まれるか分かる。
敷地が水路より高い。
水路下流に明確な排水先がある。
途中に目立つボトルネックがない。
過去浸水の情報も特に重ならない。
という土地なら、水路があることを踏まえたうえで購入を検討できます。
一方、
何の水路か分からない。
洪水・内水のどちらのシミュレーションにも入っているか不明。
候補地が水路より低い。
すぐ下流で細い暗渠へ入る。
複数の排水路が候補地付近で合流する。
放流先の川が近く、大雨時に水位が上がる。
過去の浸水情報も重なる。
という条件があれば、契約前にもう一段確認したい土地です。
重要なのは、水路の幅ではなく条件の重なりです。
土地購入前は「水路一本」を一つの流れとして調べる
最後は、候補地横の水路を次のようにつなげます。
上流の住宅地・農地
↓
支流・排水路
↓
候補地横の水路
↓
暗渠・橋・合流部
↓
大きな水路
↓
河川・海・排水機場
この流れが分かると、
何の水が候補地横へ来るのか。
どこで水量が増えるのか。
どこが詰まりやすいのか。
下流で流せなくなったとき、候補地周辺へ影響する可能性があるのか。
を考えられます。
「横に幅1mの水路がある」
という一点の情報から、
「この水路は地域のどの水を流しているのか」
という流域の情報へ広げることがポイントです。
まとめ
土地の横に小さな水路があっても、それだけで危険な土地とは判断できません。
現在は小規模な一級・二級河川についても洪水浸水想定区域の指定が進んでいるため、小さく見える川が洪水ハザードマップに含まれていることもあります。
一方、洪水浸水想定区域図では、対象河川以外の水路による氾濫や内水氾濫まで計算していない場合があります。
そのためハザードマップが白でも、
この水路は何なのか。
洪水・内水のどの想定に入っているのか。
どこから水が集まるのか。
下流でどこへ流れるのか。
途中に狭い場所や合流点がないか。
あふれた場合、水が候補地へ向かう地形か。
まで確認します。
小さな水路の水害リスクは、水路の「大きさ」だけでは分かりません。
見るべきなのは、水路そのものではなく、その水路がつながっている水の流れ全体です。