大雨前に車を高台や立体駐車場へ移せれば、水没対策としては最も分かりやすい方法です。
しかし、仕事で不在になる、家族が車を運転できない、近くに退避できる駐車場がないなど、毎回移動できるとは限りません。
その場合、自宅駐車場でできる対策はあります。
ただし重要なのは、「車そのものを何cm高くするか」より、駐車場へ水がどこから入ってくるかです。
道路側の一方向から浅い水が入る駐車場なら、止水板・土のう・排水設備で浸水を遅らせられる余地があります。
反対に、周囲一帯が浸水して敷地そのものが水につかる場所では、自宅だけの簡易対策で車を確実に守ることは難しくなります。
最初に「水はどこから駐車場へ入るか」を見る
自宅駐車場の水没対策は、車を見る前に敷地を見ます。
道路冠水すると駐車場入口から水が流れ込むのか。
敷地の横や裏からも水が来るのか。
駐車場自体が周囲より低く、水がたまる地形なのか。
排水溝や雨水桝から逆流する可能性があるのか。
ここで対策が変わります。
道路側だけが低く、その入口を越えた水が駐車場へ入る構造なら、入口で止める対策が効きやすくなります。
一方、敷地全体が浸水想定区域に入り、周囲から同じ高さまで水が上がるなら、入口だけを塞いでも別方向から水が回り込みます。
「止水板を買えば大丈夫」ではなく、まず止められる水なのかを判断します。
道路から入る水なら止水板を設ける意味がある
駐車場と道路の境が明確な流入口になっているなら、止水板は有力な対策です。
自治体でも、豪雨や洪水時に建物・敷地への水の侵入を抑える設備として防水板・止水板を案内しています。
簡易型だけでなく、あらかじめレールを施工しておき、大雨前にパネルを差し込む方式や、水位によって自動的に立ち上がる方式もあります。
ただし、止水板の高さを超える水が来れば越水します。
側面に隙間があれば、そこからも漏れます。
駐車場全体を完全な水槽のように密閉するものではありません。
そのため止水板は、「この高さまでなら絶対安全」という設備ではなく、水が入る量を減らし、浸水開始を遅らせる設備として考えます。
土のう・水のうは「浅い水の初期対策」
大がかりな止水板を設置していない住宅でも、土のうを使えます。
自治体によっては土のうステーションを設けている地域もあります。
土のうが間に合わなければ、二重にした袋へ水を入れた水のう、ポリタンク、プランター、板とシートを組み合わせる簡易水防もあります。
ただし、こうした方法を自治体は主に「浅い浸水の初期段階」の対策として案内しています。
道路に深く水がたまり、流れのある大量の水が駐車場へ押し寄せる状況まで防げると考えない方がよいでしょう。
また、大雨になってから土のうを取りに行くのも危険です。
使うなら、雨が強くなる前に設置まで終えておく必要があります。
止めた水をどこへ逃がすかも必要
入口に止水板を設置すると、道路からの水は入りにくくなります。
しかし、駐車場には雨そのものが降ります。
屋根のない駐車場なら、止水した内側にも雨水はたまり続けます。
そこで必要になるのが排水です。
まず排水溝や雨水桝に、落ち葉・泥・ごみが詰まっていないか確認します。
敷地が低く自然排水できない場所では、水中ポンプを使って水を排出する方法もあります。
重要なのは、
「止水板を付ける」
と
「ポンプを置く」
を別々に考えないことです。
入ってくる量を減らし、入った分を排出する。
この組み合わせで初めて、水位上昇を遅らせることができます。
排水ポンプにも限界はある
水中ポンプを置けば、大雨でも水位が上がらないとは限りません。
ポンプが1分間に排出できる量より、道路や敷地へ入ってくる水の量の方が多ければ、水位は上がります。
停電すれば電動ポンプも止まります。
そのため、道路より駐車場が大幅に低い、下り坂の先に駐車場がある、周囲から雨水が集中する、といった家では、ポンプだけに頼る計画は弱くなります。
新築・外構改修が可能なら、駐車場入口のかさ上げ、道路境界の排水溝、止水板、雨水桝、ポンプなどをセットで検討する方が合理的です。
「車をジャッキアップしておく」は主対策にしない
ネット上では、車を移動できない場合にジャッキアップして高さを稼ぐ方法を紹介する記事があります。
しかし、この方法は注意が必要です。
トヨタの現行取扱説明書では、車載ジャッキをタイヤ交換やタイヤチェーンの着脱以外の目的に使用しないよう警告しています。
ジャッキの取り扱いを誤れば車両が落下し、重大な事故につながるおそれがあります。
そのため、
「大雨なので車載ジャッキ4個で車を持ち上げて放置する」
といった方法を一般的な水没対策として勧めることはできません。
数cm・数十cm高くしたとしても、それを超える浸水には対応できません。
車を高く保管したいのであれば、災害時だけの応急ジャッキではなく、駐車場自体のかさ上げや、車両を保管するために設計された設備として検討する方が安全です。
車両用の水没防止カバーは「補助策」と考える
車を丸ごと大型の防水シート・バッグで包む水没対策製品も販売されています。
実際に、車体全体を包み込む製品や、パイプ車庫と組み合わせる防水シートがあります。
ただし、今回確認した範囲では、一般の車両用水没防止バッグについて、国や自動車メーカーが統一的な試験基準を設け、「この条件なら車両を確実に守れる」と保証する一次資料は確認できませんでした。
水位が上がれば車には浮力も働きます。
流れや漂流物があれば、シート自体とは別の問題も生じます。
採用する場合は、製品ごとの対応水位、固定方法、設置時間、車両サイズ、保管条件、免責事項を確認し、止水・排水・事前退避に代わる主対策ではなく補助策として考えた方がよいでしょう。
オープンな平面駐車場では止水できない場合がある
一戸建てでも、道路との境に門や壁がなく、左右や庭と一体になったオープン外構があります。
この場合、道路側へ止水板を1枚設置しても、横から水が回り込む可能性があります。
敷地全体が低ければ、排水先自体も同時に水位が上がります。
こうした駐車場では「入口を塞ぐ」という方法そのものが成立しにくくなります。
この条件で想定浸水深も大きいなら、車を置いたまま確実に守る方法を探し続けるより、
車両保険を確認する。
車内の貴重品を残さない。
浸水後に自己判断で始動しない。
という、被害発生を前提にした備えも必要になります。
車両保険は大雨が来る前に確認する
台風・洪水・高潮などによる水没は、車両保険の補償対象になる商品があります。
ただし、契約内容によって補償範囲は違います。
「車両保険に入っているから水没も全部補償される」と決めつけず、自分の契約で自宅駐車場での水災が対象になるかを保険証券や保険会社で確認します。
保険は車を水から守る設備ではありません。
しかし、
駐車場から移動できず、
敷地全体の浸水も止められず、
想定水位も高い、
という家では、物理的対策だけでは残るリスクがあります。
その残る部分をどう受けるかまでが水没対策です。
水が来始めたら車を救いに行かない
ここが最も重要です。
駐車場に水が入ってきたから、
「まだ動くだろう」
と車を高台へ移そうとするのは危険です。
国土交通省は、車両の床面を超える水深になると、電気装置、エンジン、モーターなどに不具合が生じ、走行不能になる可能性を示しています。
タイヤが完全に水没すると車体が浮くこともあります。
しかも、水深は駐車場だけでなく、移動する道路の方が深い可能性があります。
水が来た後は、
「どうやって車を守るか」
から、
「車のために危険な場所へ入らない」
へ判断を切り替えます。
一度浸水した車は自分でエンジンをかけない
雨がやみ、水が引いた後にも注意が必要です。
外から見て何ともなくても、浸水した車では電気系統のショート、感電、火災などが起きる可能性があります。
国土交通省は、水に浸かった車を自分で始動せず、販売店や整備工場へ相談するよう案内しています。
特にEVやハイブリッド車には高電圧バッテリーが搭載されています。
水没後に自分で高電圧部品や配線へ触れるのは避けます。
「水が引いたから車を動かして避難する」という判断もしません。
水没後は、車を守る対策ではなく二次事故を防ぐ対応へ切り替えます。
自宅駐車場で意味がある対策は「止水できる地形か」で変わる
大雨前に車を移動できない場合、自宅でできることはゼロではありません。
ただし、対策の効き方は駐車場によって大きく違います。
道路側という限られた場所から浅い水が入る駐車場なら、止水板・土のうで流入を減らし、排水溝・雨水桝を清掃し、必要に応じてポンプで排出する方法があります。
一方、周辺一帯が深く浸水し、敷地全体へ水が回り込む場所なら、自宅の簡易対策だけで車を確実に守ることは困難です。
そこで無理なジャッキアップや、水が来てからの車移動へ頼らないことが重要です。
自宅で考える順番は、
水の入口を確認する。
止められる水なら止める。
入った水を排出する。
それでも想定水位が車まで達するなら、物理対策の限界を認識する。
そして水が来た後は車を取りに行かない。
この境界を決めておくことが、車を移動できない家庭での現実的な水没対策です。

出典
出典リンク:
国土交通省「水深が床面を超えたら、もう危険!」
国土交通省「浸水・冠水被害を受けた車両のユーザーの方へ」
JAF「台風・大雨時のクルマに関する注意点」
平塚市「家庭でできる浸水対策」
蒲郡市「土のうの配布について」
西宮市「建築における浸水対策のお願い」
トヨタ「ジャッキの使用について」
三井住友海上「水害・水没は車両保険で補償される?」