車を別の高台へ移せないときの水害対策として、「車を丸ごとシートで包む」という方法があります。
その一つが、小野田産業の車輌水没防止シート「SAM-CS(サム・カーシート)」です。
SAM-CSは、車体を防水性のあるシートで包み、水位が上がれば車ごと浮かせる考え方の商品です。
実証試験も行われていますが、「これを付ければ、どんな洪水でも車が守られる」と考える商品ではありません。
使う前に確認したいのは、想定浸水深だけではなく、駐車場の水が「たまる」のか「流れる」のか、浮いた車を固定できるのか、大雨前に安全に装着を終えられるのかです。
SAM-CSは車を沈めないのではなく「包んで浮かせる」
SAM-CSの仕組みは比較的シンプルです。
下側のシートを地面へ広げ、その上へ車を移動し、吸盤などを使って車体を下から覆います。
その後、上側から別のカバーをかぶせます。
車体を水から隔離した状態にすることで、水位が上がった際にはシートごと車両が浮く構造です。
公開されている商品情報では、下部シートに厚さ0.2mmのLDPE(低密度ポリエチレン)、上部カバーにPEが使われています。
車両をプールへ浮かべた状態で7日間の耐水試験をクリアしたと説明されています。
つまり、この商品で重要なのは「水を車へ入れないこと」と、「水位が高くなれば車を浮かせること」です。
「7日間浮いた」=どんな水害でも大丈夫、ではない
7日間の耐水試験は、SAM-CSを検討するうえで大きな材料です。
ただし、その結果をそのまま河川氾濫や道路を流れる洪水へ当てはめない方がよいでしょう。
公開されている説明は、車両をプールに浮かべた試験です。
今回確認した範囲では、流速を付けた洪水、水中を流れる漂流物、河川氾濫時の泥やがれきを含む条件について、SAM-CSの限界値を示した公開試験データは確認できませんでした。
国土交通省は、一般の車両についても、水流がある場合には車が流されるおそれがあると注意しています。
したがってSAM-CSは、
「水位がゆっくり上昇する場所」
と、
「水が勢いよく流れてくる場所」
を分けて考える必要があります。
向いているかを考えやすいのは「水がたまる平面駐車場」
たとえば周囲より少し低い住宅地で、大雨時に道路や敷地の水位が徐々に上がり、自宅駐車場も同じように冠水するケースがあります。
水の流れが強くなく、車の周囲で水位が上昇していくタイプです。
公開されているSAM-CSの実証条件に比較的近いのは、こうした「水がたまる」状況です。
もちろん、これだけで使用可能と断定はできません。
しかし少なくとも、激しく流れる水の中で車両が横から押され続ける条件より、商品が想定する「包んで浮かせる」という仕組みを考えやすい環境です。
自宅のハザードマップを見るだけでなく、過去の大雨で駐車場がどのように浸水したのかも確認しておくと判断しやすくなります。
道路から水が勢いよく入る駐車場では固定まで考える
反対に注意したいのが、道路から敷地へ水が流れ込む場所です。
道路より駐車場が低い。
下り勾配の先に駐車場がある。
川や水路に近く、氾濫水が横方向へ流れる可能性がある。
こうした場所では、車が浮いた後の動きまで考える必要があります。
国土交通省も、タイヤが完全に水没すると車体が浮くおそれがあり、水流がある場合には車が流されるおそれがあるとしています。
SAM-CSについては、報道でオプションの固定バンドが紹介されており、水に浮いた車の漂流や他車への衝突を防ぐためのものと説明されています。
つまり、深い浸水を想定するなら、「シートを付ける」だけでなく「浮いた後にどう固定するか」までが対策です。
固定バンドをどこへ固定するのか事前に確認する
固定バンドがあるとしても、自宅駐車場で実際に使用できるとは限りません。
大雨当日に初めて商品を開き、
「このバンドをどこへ付ければいいのだろう」
となっては間に合いません。
今回確認した一般公開情報では、固定バンドの許容荷重、固定先に必要な構造、使用可能な流速といった詳細条件までは確認できませんでした。
そのため、流れのある浸水を想定する人は、購入前または使用前にメーカーへ、自宅の駐車環境でどのような固定が必要なのか確認した方がよいでしょう。
柱や外構が近くにあるからといって、自己判断でどこへでも結べばよいとは限りません。
「固定バンド付きだから安心」ではなく、「自宅で指定どおり固定できるか」を確認します。
周囲に壁・柱・隣の車が近い駐車場も確認する
車が浮けば、通常の駐車状態とは動き方が変わります。
そのため、狭いカーポートや隣の車との間隔が小さい駐車場では、浮いた後に周囲と接触しないかも考えておく必要があります。
報道でも固定バンドは、漂流だけでなく他車との衝突を防ぐものとして紹介されています。
特に集合住宅の平面駐車場などでは、自分の車だけを考えるのではなく、隣接区画への影響もあります。
共同駐車場でSAM-CSを使いたい場合は、管理規約や管理会社への確認もしておいた方がよいでしょう。
機械式駐車場や地下ピットは「使える前提」にしない
SAM-CSの公開実証では、平面上で車をシートへ乗せ、そのまま包んで水へ浮かべています。
一方、機械式駐車場ではパレット上の寸法、可動部分、センサー、柱などの制約があります。
地下ピットでは、車そのものだけでなく機械設備との干渉も考えなければなりません。
今回確認した公開商品情報では、機械式駐車設備内での使用可否を確認できませんでした。
そのため、機械式駐車場や地下ピットでは、
「サイズが入るから使える」
とは判断せず、駐車設備メーカーや管理者、SAM-CSのメーカーへ確認する必要があります。
車種は「軽・普通車」だけでなく実寸で確認する
SAM-CSには複数のサイズがあります。
現在公開されている商品情報では、
Mは全幅1.7m・全長4.3m・全高2.0mまで。
Lは全幅1.8m・全長4.8m・全高2.0mまで。
2Lは全幅1.9m・全長5.3m・全高2.0mまで。
とされています。
「コンパクトカーだからM」「SUVだから2L」と車種名だけで決めるのではなく、車検証などで実寸を確認します。
また、ルーフキャリアなどの外装パーツを装着した車は適合しないと明記されています。
購入後に初めてサイズが合わないと分かれば、大雨時の備えにはなりません。
5~7分で装着できても「初めて本番」は避ける
商品紹介では女性1人でも約7分、2024年のテレビ取材ではメーカー担当者が5~6分程度で装着できると説明しています。
ただし、これは使い方を理解した状態での目安と考えた方がよいでしょう。
実際には、
シートを広げる場所。
車を所定位置へ動かす。
吸盤を取り付ける。
車体を包む。
固定が必要なら固定する。
という作業があります。
強風や激しい雨が始まってから初めて説明書を読みながら行う対策ではありません。
購入したら晴れている日に一度広げ、自分の駐車場で設置できるか確認しておく方が現実的です。
駐車場の路面条件も事前にメーカーへ確認する
SAM-CSの下部シートは、車と地面の間に敷いて使用します。
そのため、自宅駐車場が平らなコンクリートなのか、砂利なのか、段差や突起があるのかも無関係ではありません。
今回確認した公開商品情報では、砂利敷き、鋭い段差など路面別の詳細な使用条件までは確認できませんでした。
下部シートは厚さ0.2mmのLDPEと公開されていますが、これだけから「この路面なら破れない」と判断することはできません。
砂利・砕石・鋭い縁石などがシートへ接触する駐車場なら、使用可能かメーカーへ確認しておいた方がよいでしょう。
「想定浸水深○mなら使える」という商品ではない
SAM-CSを検討すると、
「うちはハザードマップで1m浸水だから使える?」
「2mなら無理?」
という疑問が出ます。
しかし、今回確認した公開情報には「最大対応水深○m」という数値はありませんでした。
そもそもSAM-CSは車を固定されたまま一定高さまで守る止水板ではなく、水位上昇に応じて車両を浮かせる構造です。
そのため、水深の数字だけで適否を決めるのは難しい商品です。
むしろ見るべきなのは、
水位の上がり方。
水の流れ。
周囲の障害物。
固定方法。
シートを装着するまでの時間。
です。
「浮くこと」を怖がるのではなく、浮いた後を設計する
普通の車は、水が深くなると車体が浮く可能性があります。
JAFの実験では、特定のセダンで水深60cmから後輪が浮き始めた例もあります。ただし、これはその試験車両・条件での結果であり、「すべての車は60cmで浮く」という意味ではありません。
SAM-CSは、その浮力を逆に利用して車内への浸水を防ぐ発想です。
したがって、
「車が浮くからこの商品は危険」
とも、
「浮くから絶対に水没しない」
とも言えません。
重要なのは、浮いた車が予定外の場所へ移動しないか、何かに衝突しないかまで考えて使うことです。
水が来てからSAM-CSを取り付けに行かない
SAM-CSは「浸水してから救助する商品」ではありません。
シートを地面へ広げ、その上へ車を移動して装着する必要があります。
駐車場へ水が入り始めてからでは遅い場合があります。
JAFは、水位が上がり始める前に避難することが重要で、水位上昇後の車による移動は危険だとしています。
大雨予報を確認した段階で、
高台へ移動できるなら移動する。
移動できずSAM-CSを使うと決めたなら、安全なうちに装着を済ませる。
という順番です。
「水が来たらシートを取りに行く」という使い方にはしません。
SAM-CSを「高台へ逃がす代わり」と決めつけない
水没防止シートがあれば、高台へ車を移す必要がなくなるわけではありません。
道路が安全なうちに高い場所へ移動できるのであれば、そもそも車を水の中へ置かない方法が取れます。
SAM-CSが生きるのは、
仕事や家庭事情で車を移動できない。
近くに退避先がない。
複数台あって全部移せない。
といった場合の追加対策です。
メーカー側の公開商品情報でも「浸水被害を少しでも減らすことを目的」とし、完全防止を保証していません。
主対策と補助対策を逆にしないことが重要です。
購入前は「商品サイズ」より自宅の浸水条件を確認する
SAM-CSを使えるか判断するときは、次の順番で考えると分かりやすくなります。
まず、車を安全な高台へ事前移動できないか。
できないなら、駐車場で想定される水は、ゆっくり上がる水か、流れを伴う水か。
車が浮いた場合に安全に固定できるのか。
周囲の壁・柱・隣の車との間に余裕があるか。
自分の車が製品寸法に入るか。
実際の駐車場で事前に装着できるか。
ここまで確認できて初めて、「SAM-CSを備える意味があるか」を判断できます。
商品ページだけを見ると、耐水性や装着時間が目に入ります。
しかし水害時の成否を左右するのは、商品そのものだけではなく、使う駐車場所です。

SAM-CSは「水がたまる場所」と「流れる場所」を分けて考える
SAM-CSには、実際に車両を浮かべた実証と、7日間の耐水試験という根拠があります。
一方、公開情報では実洪水を想定した最大流速、固定耐力、最大水深などの限界値までは確認できませんでした。
そのため判断の境界は、
「何m浸水するか」
だけではありません。
水がゆっくり上がる駐車場所で、車を安全に包み、必要な固定も事前に準備できるなら、車を移動できないときの有力な補助対策として検討できます。
反対に、強い流れが通過する場所、漂流物が多く来る場所、車両を固定する方法を決められない場所では、「7日間浮いた」という試験結果だけで判断しない方がよいでしょう。
SAM-CSを使う前に確認するべきなのは、商品の防水性能だけではありません。
「自宅の駐車場では、車が浮いた後に何が起こるのか」。
ここまで考えることが、水没防止シートを本当に使える備えにするための判断線です。
出典
・静岡市返礼品「車輌水没防止シート SAM-CS」商品情報
・テレビ朝日「水没から車を守る特殊シート まるで船…プカプカ浮かぶ」
・静岡新聞・SBS「大雨でも車の水没防げ 車をすっぽり包んで水に浮く」
・国土交通省「自動車が冠水した道路を走行する場合に発生する不具合について」
・JAF「台風・大雨時のクルマに関する注意点」
・JAF「自動車が冠水路や高潮で浸水してしまったら?」