玄関両側に固定できる壁がない。
装飾材が出っ張っている。
止水板を設置すると玄関ドアと干渉する。
保管場所から玄関まで運びにくい。
こうした条件では、後から余計な工事が必要になる場合があります。
新築なら、止水板そのものを今すぐ購入しなくても、
「将来ここを水防ラインにする」
という場所を先に決め、その場所を止水板が付けやすい形で作っておくことができます。
重要なのは、止水板を付ける玄関を作ることではありません。
玄関そのものをできるだけ高くし、それでも残る浸水リスクに対して、必要になったとき止水板を追加できる玄関にしておくことです。
新築なら最初から止水板だけに頼らない
止水板は便利な浸水対策です。
しかし、新築では最初から、
「大雨になったら止水板を付ければいい」
という設計にはしない方がよいでしょう。
国土交通省は、建物への浸水対策として、
出入口そのものを高くするマウンドアップ。
止水板。
防水扉。
などを挙げています。
このうち出入口の嵩上げは、十分な高さを確保できれば、豪雨時に誰かが部材を取り付ける必要がなく、比較的確実性の高い方法とされています。
一方、脱着式止水板には、
保管場所から持ってくる。
取り付ける。
固定する。
という人の作業があります。
家族が外出している。
夜中に急激に雨が強くなった。
すでに家の前へ水が来ている。
という場合に、必ず設置できるとは限りません。
新築ならまず、できる範囲で玄関敷居や宅盤を高くします。
そのうえで足りない高さを止水板で補えるよう準備する方が、対策を二段にできます。
「玄関+80cm・止水板50cm」のように足し算しない
例えば玄関敷居が道路より80cm高く、50cmの止水板を用意したとします。
これを、
80cm+50cm=道路から1.3mまで大丈夫
と単純には考えません。
実際に止水板が受ける水位は、設置する場所の床面を基準に考えます。
JIS A 4716でも「設定浸水高さ」は設置床面から水面までの高さとして定義されています。
新築時には、
道路。
完成宅盤。
玄関ポーチ。
止水板設置床面。
玄関敷居。
想定する水位。
を同じ断面図へ入れます。
そのうえで、
物理的な高さだけでどこまで守るか。
残った何cmを止水板で受けるか。
を決めます。
止水板を付ける位置を玄関ドアより先に決める
間取りでは玄関ドアを先に決め、
「あとでその前に止水板を付けよう」
と考えがちです。
新築なら逆にできます。
まず、
ここから内側へ水を入れない
という水防ラインを決めます。
そして、その線上に玄関があるなら、
どこへ止水板を立てるか
を先に決めます。
玄関ドアのすぐ外。
玄関ポーチの入口。
門塀の開口部。
など、住宅によって候補は変わります。
国交省も、建物や敷地を囲む「水防ライン」を設定し、その線上にあるすべての浸水経路を処理する考え方を示しています。
玄関単体ではなく、家をどこで囲うのかから決めます。
新築時に一番準備しておきたいのは左右の「受け」
脱着式止水板には、開口部の両側へ支柱・枠・固定部材などを設けて、止水板を受けるタイプがあります。
水位が上がると、止水板には水圧が掛かります。
その力は止水板だけで受けるのではなく、枠などを通して建物側へ伝わります。
JIS A 4716でも、枠は水圧による荷重を躯体等へ安全に伝えられる強度・剛性を持つ構造とされています。
したがって、新築時に考えたいのは、
止水板の左右に何があるか
です。
片側が玄関ドア枠。
もう片側が細い化粧柱。
という玄関より、
左右に止水板の固定方法を検討できる壁・柱等がある玄関
の方が将来の選択肢を作りやすくなります。
実際に必要な幅や下地、固定方法は製品ごとに異なるため、将来使いたい方式が決まっているなら建築時にメーカー仕様を設計者へ渡します。
「後でアンカーを打てばいい」で仕上げを決めない
後付け止水板の中には、壁や柱へ固定部材を取り付ける製品があります。
新築後に、
タイルを剥がす。
外壁仕上げへ穴を開ける。
下地を探す。
補強する。
といった工事になる可能性があります。
そこで新築時なら、止水板の固定予定位置に、
どの構造へ荷重を伝えるか。
下地がどこにあるか。
将来固定金具を取り付けられるか。
を設計者と確認できます。
ただし、製品が決まっていない状態で適当にアンカーボルトや穴だけ先行施工するのは避けた方がよいでしょう。
止水板によって固定方法・位置・必要強度が違うためです。
「穴を作る」のではなく、
「後で必要な固定ができる壁・床を残す」
と考えます。
床面はできるだけ平らな場所を残しておく
止水板は板だけで水を止めるわけではありません。
止水材を床や壁へ密着させるタイプがあります。
そのため設置面が、
大きく波打っている。
急勾配になっている。
深い溝がある。
大きな目地・凹凸が連続している。
と、止水性能を確保しにくい場合があります。
住宅向け製品でも、平滑な床面や壁面、一定の固定面を設置条件としているものがあります。UACJも、柱・壁・床など現地条件によって設置できない場合があるとしています。
新築なら、
玄関ポーチ全面を平らにする
必要はありません。
止水板を将来立てる一本の線について、
「ここだけは止水材が密着できる仕上げにできないか」
と設計時に確認します。
おしゃれな玄関タイルが後付けを難しくする場合もある
玄関ポーチには、
割肌タイル。
凹凸の大きい石材。
深い目地。
洗い出し。
などを使うことがあります。
もちろん、それら自体が悪いわけではありません。
問題になるのは、将来止水板を密着させたい線と重なる場合です。
止水板によっては多少の目地へ対応できる製品もありますが、凹凸が大きくなるほど条件は厳しくなります。
新築なら、
玄関全体の意匠は希望どおりにする。
ただし止水板設置予定線だけ平滑な帯を残す。
という設計も考えられます。
実際、2026年の住宅施工事例には、新築前から止水板設置を想定し、フラットな床面と必要な高さの壁を用意した例があります。これは一メーカーの施工例ですが、「完成後に合わせる」のではなく「建物側を先に合わせる」という考え方が分かりやすい事例です。
左右に何cmの壁を残せばよいかは製品を決めずに断定しない
「止水板用に左右5cmあればよい」
「10cm壁を残しておけばよい」
という全国共通寸法はありません。
製品によって、
支柱をアンカー固定する。
圧着する。
クリップで固定する。
磁力を利用する。
既設枠へ落とし込む。
など方式が違います。
大型になるほど中間支柱や床固定部が必要になる製品もあります。例えば文化シヤッターの脱着式製品では、広い開口の場合に中柱を使い、その中柱を固定するため床面への事前工事を必要とする仕様があります。
したがって新築時には、
寸法だけ決める
のではなく、
将来使う可能性がある止水板を2~3方式選ぶ。
その方式すべてが付けられる玄関形状にできるか確認する。
という順番が安全です。
ドアの開き方向と止水板が干渉しないか確認する
止水板を設置すると、玄関前に一枚の壁ができます。
そこで玄関ドアとの関係が出ます。
外開きドア。
内開きドア。
引戸。
親子ドア。
では必要な空間が違います。
例えば止水板をドアのすぐ外へ設置した結果、
止水板を取り付けたらドアを開けられない。
止水板を設置するためにドアを開けた状態で作業しなければならない。
という形では、豪雨時の運用が難しくなる可能性があります。
どちら側へ止水板を置くのが適切かは製品仕様によって異なります。
新築時には、
玄関ドア。
止水板予定位置。
人の退避方向。
を同じ平面図へ書きます。
止水板を付けたあと、家から出られる経路も残す
これはかなり重要です。
玄関へ止水板を取り付けたら、その玄関は通常どおり通れなくなる製品があります。
その場合、
家族が全員屋内に入ってから設置するのか。
設置した人はどこから屋内へ戻るのか。
設置後に避難が必要になったらどこから出るのか。
を考える必要があります。
例えば、
玄関を止水。
勝手口から退出。
と決めても、その勝手口が玄関より低ければ水防ラインが切れます。
前の記事とつながる部分です。
止水板を付けたときに使う別の出口も、想定水位との関係を確認します。
玄関だけ止めても掃き出し窓が低ければ意味が薄くなる
玄関の止水板を50cmの高さまで設置できるようにしても、
庭側の掃き出し窓がそれより低い。
勝手口が低い。
基礎の低い開口部がある。
という住宅では、水が建物の周囲へ回れば別の場所から入る可能性があります。
国交省の水防ラインの考え方も、玄関一か所ではなく、囲ったライン上のすべての浸水経路に対策することを前提としています。
そのため、
玄関に止水板が付く
をゴールにしません。
玄関へ止水板を設置した場合、次に一番低い入口はどこか
まで確認します。
新築なら掃き出し窓を止水板前提にする場所も絞れる
玄関以外のすべての開口部に止水板を準備すると、設置作業が増えます。
大雨直前に、
玄関。
勝手口。
掃き出し窓3か所。
ガレージ。
を一枚ずつ塞ぐ住宅では、相当な作業になります。
建築研究所も、止水板は発災前に人的介入が必要で、不在時や設置タイミングが課題になると指摘しています。
新築なら、
水害側の低い面には掃き出し窓を増やしすぎない。
必要な一か所だけ低い開口部を残す。
ほかは腰窓等にする。
という設計もできます。
止水板を何枚買うかの前に、「止水しなければならない低い開口部を何個作るか」を決めます。
止水板の高さを高くするほど必ず良いわけではない
50cmより1m。
1mより1.5m。
止水板は高いほど安心に見えます。
しかし水位が高くなるほど、止水板が受ける水圧も大きくなります。
製品の重量や支柱・固定部への要求も変わります。
大型の止水板は一人では扱いにくくなることもあります。
建築研究所も、大きな浸水に耐える製品ほど重くなり、設置が容易ではなくなる点を指摘しています。
だから新築なら、
玄関自体で30cm高くする。
残り30cmを止水板。
というように、固定的な高さと可動式対策を分担できる場合があります。
止水板だけで1mを受ける計画より、日常的に確保できる高さを先に使います。
製品を見るときは「完全止水」と思わない
止水板という名前から、水を完全に一滴も通さない設備を想像するかもしれません。
実際には浸水防止性能は、一定条件下での漏水量などで評価されます。
JIS A 4716では漏水量に応じた性能評価の考え方があり、2025年度の国の長期優良住宅化リフォーム推進事業でも、止水板等を水害対策工事とする際にWs-3相当以上という性能要件が使用されています。
ただし、すべての簡易・脱着式止水板がJIS A 4716そのものの対象という意味ではありません。
製品選びでは、
どの試験方法で。
何cmの水位で。
どの程度の漏水量だったか。
まで確認します。
「止水板」という商品名だけでは性能は比較できません。
止水板を買う前に保管場所を設計する
脱着式止水板で見落としやすいのが保管場所です。
国交省も、平常時の保管スペースを事前に確保する必要があるとしています。
新築なら、
玄関収納。
シューズクローク。
外部収納。
ガレージ収納。
などに、止水板を置く場所を最初から作れます。
重要なのは、
入るサイズ
だけではありません。
大雨時に数秒・数十秒で取り出せるかです。
2階の納戸の奥。
庭の大型物置の一番奥。
では、必要なときに使いにくくなります。
玄関用なら玄関の近く。
ガレージ用ならガレージの近く。
と、設置場所に近い保管位置を考えます。
水害時に濡れる収納場所へ置かない
もう一つ矛盾しやすいところがあります。
止水板を床下収納や低い屋外物置へ入れていたところ、
止水板を設置する前に収納場所へ水が来た
では困ります。
国交省の事例には、止水板そのものは用意されていたものの、保管場所の鍵を持った管理員が帰宅していて設置できず、浸水被害を受けた集合住宅があります。戸建住宅そのものの事例ではありませんが、「止水板を所有していること」と「必要時に使えること」は別だと分かります。
住宅なら、
誰でも取り出せる。
鍵を探さなくてよい。
水が来る前に安全にアクセスできる。
場所に置きます。
「1人で付けられるか」は商品購入時ではなく設計時から考える
将来70代になっても、その家に住んでいるかもしれません。
新築時には軽々持てる止水板でも、20年後には負担になる可能性があります。
そのため、
パネル1枚の重量。
設置する枚数。
支柱の重量。
工具の有無。
設置時間。
を確認します。
国交省も脱着式止水板について、設置に必要な機材・人員・タイムラインをあらかじめ決め、定期的に訓練する必要があるとしています。
住宅なら、
一人でも設置できる方式にする。
重いパネルを何枚も必要としない開口幅にする。
という建築側の工夫もできます。
玄関幅を広くしすぎると止水設備側にも影響する
玄関を広くすること自体には、
車椅子。
ベビーカー。
大きな家具。
開放感。
などの利点があります。
一方、止水板から見ると開口幅が広くなります。
製品によっては一定幅を超えると中間支柱が必要になったり、パネルが複数枚になったりします。
だから水害リスクのある土地では、
玄関を広くするな
ではありません。
広い玄関を希望するなら、その幅でも一人で扱える止水方式があるかを間取り段階で確認します。
「ドアを買った後に合う止水板を探す」より順番を前へ持ってきます。
常設式にするか脱着式にするかでも玄関設計が変わる
止水板には大きく、
必要時だけ持ってきて取り付ける脱着式。
普段から設備が組み込まれている常設式。
などがあります。
脱着式は平常時の玄関をすっきりさせやすい一方、
保管。
運搬。
取り付け。
が必要です。
常設式は部材を運ぶ作業を減らせる場合がありますが、
設備スペース。
日常点検。
方式によっては電源。
が必要になります。
電動式なら停電時の作動方法まで確認が必要だと国交省はしています。
新築なら、製品を決める前に、
「豪雨時に人が取り付ける住宅にするのか」
「できるだけ常設側へ寄せるのか」
という運用から選べます。
玄関の止水板だけ買うなら設置時間まで測る
完成後に止水板を購入したら、実際に一度設置します。
説明書を読めばできる。
業者に一度教えてもらった。
ではなく、
収納から取り出す
↓
玄関まで運ぶ
↓
支柱等を準備
↓
パネルを設置
↓
固定
↓
完了
まで何分掛かるか測ります。
そして数か月・1年後にも再度行います。
建築研究所も、止水板について保管場所、設置タイミング、手順、事前訓練、維持管理・点検を事前に決めることが重要と整理しています。
使わない設備だからこそ、使い方を忘れる前提で考えます。
大雨予報が出てから購入する設備にはしない
脱着式止水板には、設置場所の採寸に合わせて製作するものがあります。
その場合、
「台風が来るので今週買おう」
では間に合わないことがあります。
UACJも受注生産製品として販売しており、施工会社によっては製作に数週間を要すると案内しています。
新築時に本体を買わない場合でも、
対応できる製品候補。
必要寸法。
施工会社。
を一度確認しておけば、将来の導入は早くなります。
安城市では現在、止水板設置の補助制度もある
地域によっては止水板への補助制度があります。
例えば安城市では2026年5月更新の制度で、雨水出水浸水想定区域内または過去に浸水被害があった建築物を対象に、一定の止水性能等を満たす止水板の設置費用について2分の1・上限50万円を補助しています。
工事契約前の事前相談・申請が必要です。
制度は年度・自治体によって対象・金額・新築の扱いが変わります。
実際、枚方市では新築時の止水板設置について、建物地盤を高くするなど根本的対策を求めるとして補助対象外にしています。
補助金の有無を理由に止水板前提の玄関にするのではなく、まず建築時にできる高さ対策を検討する順番は変えない方がよいでしょう。
新築時に図面へ「止水板予定位置」を一本入れておく
止水板本体を購入しない場合でも、図面へ予定位置を残しておく方法があります。
例えば、
止水予定線。
設計上想定する止水高さ。
床仕上げ。
左右の壁・柱。
構造下地。
有効開口幅。
玄関ドアの開き方向。
収納予定場所。
を記載します。
そして住宅会社から、
「将来この位置へ止水板を付ける予定」
という情報を引き継ぎます。
10年後にリフォーム会社へ相談したときも、
「この玄関へ何とか止水板を付けてください」
から始めるより話が早くなります。
商品を決めなくても「付けられる玄関」までは作れる
将来、どんな止水板が販売されているかは分かりません。
そのため新築時に特定製品へ完全に合わせすぎる必要もありません。
むしろ、
平らな設置床。
十分な強度を確保できる左右の固定面。
開口部周辺に障害物が少ない。
止水板を運べる通路。
近い場所の収納。
という基本条件を残しておく方が、将来の製品選択肢を広げやすくなります。
メーカーによって設置方法が違うため、最終的には採用する製品の現地調査・仕様確認が必要です。
「止水板用玄関」という特殊な玄関を作るのではありません。
止水設備を追加しやすい、単純で強い開口部にしておくイメージです。
新築なら止水板を「最後の不足分」にする
水害対策として最も扱いやすいのは、この順番です。
まず土地・宅盤を上げられるか確認する。
次に玄関・1階床をできる範囲で高くする。
低い掃き出し窓や勝手口を必要以上に増やさない。
それでも想定する水位に対して低い開口部が残る。
そこへ止水板を使う。
この順番なら、止水板へ要求する高さを小さくできる場合があります。
要求高さが小さくなれば、
軽い製品。
少ない枚数。
短い設置時間。
という選択肢も増えます。
止水板を「水害対策の中心」にするのではなく、建築で埋めきれなかった高さを補う設備にします。
まとめ
止水板は、完成後の住宅にも後付けできる製品があります。
しかし、新築時から少し準備しておけば、将来の設置工事や製品選びをしやすくできます。
まず考えるのは、止水板そのものではありません。
宅盤や玄関敷居を高くして、通常時から確保できる水害対策を先に行います。
そのうえで、
どこを水防ラインにするか。
止水板をどこへ設置するか。
床を平らにできるか。
左右に固定できる壁・柱を残せるか。
玄関ドアと干渉しないか。
保管場所を近くに作れるか。
止水板を設置した後の避難経路を残せるか。
を新築時に決めます。
そして玄関だけでなく、勝手口・掃き出し窓など別の低い開口部も同じ水防ラインで確認します。
新築で止水板を準備する意味は、
「今すぐ止水板を買う」
ことではありません。
将来必要になったとき、
壁を壊す。
タイルを剥がす。
固定する場所がない。
保管場所がない。
という状態にならない玄関を作っておくことです。
水害対策の大部分を建物の高さで確保し、最後に残った弱い入口だけを止水板で補えるようにしておく。
これが、新築時だからできる止水板の準備です。

出典
国土交通省・経済産業省|建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン
国立研究開発法人 建築研究所|建築物の浸水対策案の試設計に基づくその費用対効果に関する研究