基礎の配管貫通部を止水する|建築時だからできる浸水対策

水害対策というと、玄関の止水板や高基礎、土地の嵩上げなどが目立ちます。

しかし住宅の基礎には、給水管、排水管、ガス管、電気・通信などを通すための貫通部があります。

コンクリートの壁に配管を通せば、配管とコンクリートの間には納まり上の隙間が生じます。

大雨で基礎の外側まで水位が上がると、この小さな隙間も床下への浸水経路になり得ます。

だから新築時には、

完成後に隙間を見つけて塞ぐ

だけではなく、

どこに配管を通すのか。

想定する浸水水位より高くできる配管はないか。

基礎を貫通するならどのようなスリーブを使うのか。

周囲を何で止水するのか。

将来その配管を交換できるのか。

まで、基礎を打設する前に決めます。

配管貫通部の水害対策で重要なのは、シーリング材の商品名ではありません。

基礎の水防ラインに「あとから穴を開けて弱点を作らない」ことです。

基礎はコンクリートでも「穴」があればそこが水の入口になる

ベタ基礎だから水が入らない、と考えたくなります。

しかし基礎は完全な箱ではありません。

住宅には給排水や電気・ガス等が必要なので、基礎を貫通する部分ができます。

葛飾区の住宅浸水対策ガイドラインでも、排水管などが基礎を貫通する部分について、浸水時にそこから水が入る可能性を挙げ、防止モルタルやシール材等で隙間を埋める対策を示しています。

2026年に佐賀県が公開した住宅向け資料でも、床下浸水対策として「基礎にあけた穴をふさぐ」ことが独立した対策になっています。

つまり、

コンクリートだから水密

ではなく、

基礎全体のどこに開口・貫通部があるか

まで見なければ住宅の止水性は分かりません。

配管貫通部は「管」と「穴」の二つに分けて考える

ここが今回の記事で最も重要です。

例えば排水管が基礎を貫通しているとします。

水害時には二つの経路を分けます。

一つは、配管の外側です。

基礎に設けた穴と配管との隙間を外水が通って床下へ入ります。

こちらが今回の「配管貫通部の止水」です。

もう一つは、配管の中です。

豪雨で下水道側の水位が上がり、排水管内部を逆方向へ水が上がる場合があります。

こちらは逆流防止弁や配管計画など、別の対策です。

建築研究所も、貫通部の止水と排水管内部の逆流対策を別々に扱っています。

したがって、

配管周囲を完全にシーリングした
↓
下水逆流も防げる

ではありません。

反対に逆止弁を付けても、配管と基礎の隙間から入る水を止めるものではありません。

新築なら最初に「水防ラインより下の貫通部」を拾う

すべての配管を同じ重要度で見る必要はありません。

まず、その住宅で想定する水防ラインを決めます。

例えば設計上、

地盤面+60cmまでは建物内へ水を入れない

とします。

その場合は、GL+60cmより低い位置にある、

給水管。

排水管。

ガス管。

電線管。

通信管。

その他のスリーブ。

を図面上で拾います。

建築研究所は、想定する浸水深より高い位置で建物を囲う水防ラインを設定し、壁面・開口部・貫通部・接合部の止水性を連続して確保する考え方を示しています。

つまり玄関を60cmまで止水しても、裏側の基礎にGL+20cmの未処理の配管穴があれば、水防ラインはそこで切れます。

上へ移せる貫通部なら高さそのものが対策になる

新築時だからできることの一つが、貫通位置を決めることです。

すべての配管を自由に高くできるわけではありません。

特に排水管は自然流下のための勾配や公共ますとの高さ関係があります。

一方、電気・通信など、設計上位置を変更できる貫通部もあります。

想定浸水ラインより上へ出せるものなら、そもそも洪水時の水圧を直接受ける低い位置へ穴を作らないという選択ができます。

「穴を開けてから強く塞ぐ」だけでなく、

低い位置に穴を作らなくて済まないか

を先に検討できるのが新築の利点です。

排水管は低くなりやすいから止水処理を計画する

一方、排水管は重力で流すため、基礎の低い位置を貫通する場合があります。

ここは、

高い位置へ移せない
↓
何もしない

ではありません。

基礎にスリーブを設け、その中へ配管を通し、配管・スリーブ周囲を適切な材料で止水する方法があります。

住宅生産団体連合会の浸水対策手引きも、基礎の「配管部分」について「配管周りをシーリングする」を対策として示しています。

葛飾区は、防止モルタルやシール材等を充填して隙間を埋める例を掲載しています。

ただし材料・施工厚・下地処理などは採用する工法・製品によって異なります。

「コーキングを少し付ければよい」と自己流で決めるのではなく、設計仕様として図面・施工指示に入れる方が確実です。

シーリング材を表面へ塗るだけなのか確認する

配管周囲を見ると、外側にシーリング材が見えることがあります。

重要なのは、

シーリング材が付いている

ことではなく、

どの範囲を、どの材料・納まりで止水する設計か

です。

国土交通省・経済産業省の建築物浸水対策資料では、配線・配管貫通部を小さな浸水経路として扱い、止水盤、ガスケット、止水処理材の充填など複数の方法を示しています。既存建築物では新たな貫通孔が必要になるなど施工が難しい場合があるとも説明しています。

戸建住宅にこれらの電気設備向け仕様をそのまま採用するという意味ではありません。

新築では「隙間を塞ぐ」という目的を先に決め、住宅用として採用する配管・スリーブ・止水材の仕様を設計者・施工者に確認します。

基礎を打つ前ならスリーブ位置と鉄筋を一緒に決められる

配管貫通部には、水害とは別に構造上の問題があります。

基礎梁へ穴を設けるということは、鉄筋コンクリートの一部に開口を作るということだからです。

国土交通省が支援した住宅用基礎梁の研究開発でも、設備配管用スリーブによる基礎梁の断面欠損と耐力低下を課題として扱い、スリーブ補強技術が研究されています。

これは、

すべての配管穴に特殊な補強が必要

という意味ではありません。

実際の位置・径・基礎形状に応じて構造設計者が判断します。

ただし新築なら、

どこに穴を開けるか。

鉄筋と干渉しないか。

補強が必要か。

どの径のスリーブを入れるか。

をコンクリート打設前に決められます。

ここが後施工との大きな違いです。

「あとで必要な場所にコア抜き」は水害対策とも相性が悪い

住宅完成後に、

この場所から新しい配管を出したい。

EV・蓄電池用の配線を追加したい。

設備を移設したい。

となることがあります。

そこで基礎へ新たな貫通孔を作れば、その場所にも新しい水の入口候補ができます。

さらに構造上、既存鉄筋との位置関係も確認する必要があります。

国交省の浸水対策資料でも、既存建物で新たな貫通孔を設けて高性能な止水処理を追加することは、施工が難しくなる場合があるとしています。

新築時なら、

将来使いそうな設備。

給湯設備。

太陽光・蓄電池。

EV充電。

通信。

外構設備。

まである程度想定し、配管・配線ルートを整理しておく意味があります。

むやみに予備穴をたくさん作るという意味ではありません。

後から水防ラインへ穴を追加する可能性を減らすという考え方です。

予備スリーブを作ればよい、でもない

将来のために予備スリーブを設ける方法もあります。

ただし、

使わない穴を開けておけば便利

だけで終わらせない方がよいでしょう。

使っていないスリーブも、低い位置にあれば水防ラインの開口部です。

設けるなら、

どの高さにするか。

未使用時はどう止水するか。

後から配管を通したときに再度どう止水するか。

を決めます。

水害対策の考え方では、「将来使うかもしれない穴」も穴として扱います。

配管交換できなくなるほど固めればよいわけでもない

止水だけを考えると、配管周囲を完全に固めてしまいたくなります。

しかし住宅の配管は何十年も使う間に更新・補修が必要になる可能性があります。

自治体の排水設備基準の例でも、基礎貫通部では地震や地盤変位による配管損傷を避け、将来のメンテナンスに対応できる構造とすること、水密性が必要な場所でスリーブを使用する場合には管との隙間を弾性シーリング材等で充填する考え方が示されています。

したがって、

今、水を通さない

と、

将来、管を直せる

を両立させます。

どの止水材が適切かは配管材・スリーブ・変位条件等によるため、設計者・設備業者に仕様を確認します。

地震で管が動いたあとも止水性が残るか

新築時にきれいにシーリングできても、住宅はその状態のまま何十年も固定されるわけではありません。

温度変化。

乾燥収縮。

地震。

地盤の変位。

配管の振動。

などによって、配管と躯体の取り合い部には動きが生じることがあります。

建築研究所も、浸水対策の接合部について、施工精度だけでなく、地震による建物の揺れ・歪みや熱膨張、老朽化などを考慮し、点検・交換の方法を決めておくことが重要だとしています。

つまり配管貫通部は、

建築時に一度塞いだら終わり

ではありません。

水防ラインを維持する部位として扱います。

シーリング材は「新築時だけ確認」では足りない

佐賀県の2026年パンフレットは、基礎貫通部をシーリング等の防水材で塞ぐ対策を示す一方、シーリング材は経年劣化するため定期的な打ち直しが必要としています。

そのため、新築時には施工写真を残しておくと後の点検に使いやすくなります。

完成後は配管が設備・外構・仕上げで隠れ、位置が分かりにくくなることがあります。

最低限、

貫通位置。

配管用途。

採用した止水方法。

施工時の写真。

を住宅資料として残しておく意味があります。

外から見えなくなる前に確認する

配管貫通部は、基礎工事中なら確認しやすい場所です。

しかし建物が完成すると、

外壁。

基礎仕上げ。

設備機器。

配管カバー。

植栽。

外構。

などで見えにくくなる場合があります。

実際の住宅施工を扱う設計事務所の記事でも、基礎立上りの配管貫通部は後工程で隠れるため、見えている段階で処理を確認しています。

水害リスクがある土地なら、施工中に、

すべての基礎貫通部が図面どおりか。

配管周囲に隙間が残っていないか。

想定した止水処理が施工されたか。

を写真で残してもらうと確認しやすくなります。

「発泡ウレタンが入っている」だけで洪水止水とは判断しない

配管貫通部には、気密・断熱・防虫など別の目的で発泡ウレタンやシーリング材が使われる場合があります。

ここで目的を混同しないことが重要です。

通常の雨仕舞いや気密性能のための施工と、洪水時に外側へ水圧がかかった状態で水を止める施工は同じとは限りません。

国の浸水対策資料でも、貫通部について止水盤、ガスケット、止水処理材など専用の対策を挙げています。

住宅会社には、

「ここは気密処理ですか。それとも想定浸水に対する止水処理まで考えていますか」

と分けて確認します。

見た目に何か詰めてあることだけで判断しません。

排水管周囲を塞いでも逆流防止弁は別に考える

特に排水管では、この確認を忘れないようにします。

基礎と排水管の隙間をきれいに止水できたとしても、豪雨時に公共下水道側の水位が上がれば、管の内部から逆流する可能性があります。

そこで必要に応じて、

逆流防止弁。

配管高さ。

ポンプ排水。

止水弁。

などを別に検討します。

建築研究所も、排水管の逆流防止弁について浸水対策の候補としつつ、固形物詰まりや水害時の動作不良などの課題を指摘しています。

つまり基礎貫通部では、

管の外側
→止水

管の内側
→逆流対策

の二重チェックです。

配管一本だけ止水しても基礎全体が水密になるわけではない

例えば給水管の貫通部だけ完璧に止水しても、

別の排水管。

基礎換気部。

基礎の打継ぎ部。

玄関。

掃き出し窓。

などに低い侵入口が残っていれば、水はそちらから入ります。

住宅生産団体連合会の手引きでも、配管周囲のシーリングだけを単独で使うのではなく、べた基礎の打継ぎ部、換気、開口部などを含めた複数の浸水対策として整理しています。

配管貫通部は「小さな穴を全部塞ぐ記事」ではありません。

家を一周する水防ラインのうち、一つの弱点を消す記事です。

新築なら基礎伏図と設備図を重ねて確認する

建築主自身が施工方法を設計する必要はありません。

住宅会社へ確認するなら、難しい専門用語より次の考え方で十分です。

基礎を貫通する配管は何本あるか。

それぞれ何の管か。

どの高さで基礎を通るか。

想定する水防ラインより下に何本あるか。

その周囲を何で止水する仕様か。

配管内部の逆流対策が必要なものはあるか。

将来交換するときに基礎を壊さず対応できるか。

施工後に確認できる写真を残せるか。

これを基礎伏図・設備図・立面または断面図で確認します。

「基礎の穴は水道屋さんが処理します」だけで終わらず、水害対策として誰が止水仕様を決めているかまで確認します。

新築時に残しておきたいのは「穴の台帳」

配管貫通部は完成後に見えにくくなるため、新築時に簡単な記録を残すと後々役立ちます。

大げさな図面を新たに作る必要はありません。

完成図や設備図に、

給水。

排水。

ガス。

電気。

通信。

予備。

と貫通位置を残し、施工写真と紐付けます。

将来、

この配管を交換する。

新しい設備を追加する。

基礎周囲のシールを点検する。

というときに、「どこに水防ラインの穴があるか」が分かります。

水害対策を建築時だけの工事にせず、住宅の維持管理情報として引き継げます。

「建築時だからできる」のはシーリングではなく穴の作り方を決めること

既存住宅でも、見つかった配管周囲へシール材等を施工することはできます。

したがって、

配管貫通部の止水は新築でなければできない

わけではありません。

新築時の本当の優位性は別です。

コンクリートを打つ前に、

貫通位置を変えられる。

低い貫通部を減らせる。

スリーブを先に入れられる。

鉄筋との位置関係を調整できる。

必要な補強を検討できる。

止水仕様を施工図へ入れられる。

将来の交換経路を考えられる。

ということです。

完成後に穴を見つけて塞ぐのと、最初から「水防ラインを通過する部分」として作るのでは意味が違います。

まとめ

基礎の配管貫通部は小さな場所ですが、想定浸水ラインより低い位置にあれば床下への水の入口になり得ます。

新築時には、単に完成後の隙間へシーリング材を塗るだけでなく、

どこへ穴を設けるか。

何の配管を通すか。

水防ラインより上へ移せないか。

どんなスリーブ・止水方法にするか。

構造上の開口として問題がないか。

将来配管を交換できるか。

まで基礎打設前に決めます。

特に排水管では、

配管と基礎の隙間から入る水

と、

配管内部を逆流してくる水

を分ける必要があります。

前者をシーリングしても、後者の対策にはなりません。

そして配管貫通部だけを止水しても、換気部や基礎打継ぎ、玄関など別の侵入口が低ければ水防ラインは完成しません。

建築時だからできる最大の対策は、「穴をあとで塞ぐこと」ではありません。

住宅の水防ラインへどこで穴を通し、どう塞ぎ、将来どう維持するかを、穴を作る前に設計しておくことです。

出典

一般社団法人住宅生産団体連合会|住宅における浸水対策の設計の手引き

一般社団法人住宅生産団体連合会|住宅性能向上委員会・住宅における浸水対策の設計の手引き

国立研究開発法人建築研究所|建築物の浸水対策案の試設計に基づくその費用対効果に関する研究

国土交通省・経済産業省|建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン

佐賀県|浸水に備えた住まいづくり

葛飾区|住宅浸水対策ガイドライン

国土交通省|住宅用基礎梁の開口部補強構造に関する技術開発