半地下・地下室を作る前に|逆流・道路流入・排水ポンプまで決める

土地の高低差を生かして半地下の部屋を作る。

地下室を趣味部屋や収納にする。

道路から下がった位置に地下ガレージを作る。

敷地を有効に使える魅力があります。

しかし、水害については普通の1階とは違う確認が必要です。

半地下・地下室では、水が一度入ると自然に外へ流れにくくなります。

しかも水の入口は一つではありません。

道路から階段やスロープを伝って流れ込む水。

下水道からトイレ・浴室等へ逆流する水。

ドライエリアへたまる雨水。

地下壁の周囲に集まる水。

こうした水を別々に考える必要があります。

「排水ポンプを付けるから大丈夫」

だけで設計を進めるのではなく、

どこから水が入るのか。

その水を何で止めるのか。

入った場合はどこへ排水するのか。

停電したらどうなるのか。

まで、新築前に決めます。

半地下・地下室は地上階より水が集まりやすい

地下空間の大きな特徴は、周囲より低いことです。

国土交通省も、地下空間について、地上の状況を把握しにくいうえに、氾濫水が一気に流れ込み、避難経路も限定されるため、浸水に対するリスクが高い空間としています。

地上の住宅なら、道路に水がたまっても敷地・玄関・床まで順番に水位が上がります。

しかし半地下の場合、

道路
↓
下りスロープ
↓
地下ガレージ

という形になっていると、道路を流れる雨水を地下へ導く形になる場合があります。

地下室そのものの防水性能だけではなく、周囲の水を地下へ入れない設計が先です。

「地下室へ水が入る」を一つの原因にしない

地下・半地下の浸水対策では、水の入口を分けると考えやすくなります。

主に確認したいのは、

道路や敷地表面から流れ込む水。

下水道から排水設備を通って逆流する水。

ドライエリアや外階段へ直接降る雨。

地中・地下水側から建物へ作用する水。

です。

例えば道路流入には止水板が有効でも、トイレからの下水逆流を止められるわけではありません。

逆に排水ポンプを設けても、地下へのスロープを大量の雨水が流れ落ちれば、それだけで処理できるとは限りません。

水の種類ごとに対策を決めます。

最初に道路から地下入口への勾配を見る

半地下ガレージで特に分かりやすいのが道路からの雨水です。

例えば、

道路
↓
乗入口
↓
下りスロープ
↓
地下ガレージ

という形です。

晴れた日は車を入れやすい便利な勾配です。

しかし豪雨時には、道路上の雨水が同じ勾配を利用して地下へ向かう可能性があります。

東京都下水道局も、半地下・地下室では道路面から建物側へ雨水が流れ込み、浸水するおそれがあるとして注意を呼びかけています。

新築前なら、

道路から敷地へ水が入る高さ。

スロープの最上部。

排水溝の位置。

地下入口の高さ。

を断面で確認します。

地下へ下がる前に一度「上げる」方法がある

道路からそのまま地下へ下げるのではなく、入口部分を道路より一度高くする方法があります。

いわゆるステップアップやマウンドアップです。

例えば、

道路
↓
+20cm程度上げた入口
↓
地下への下り勾配

という形です。

道路上に浅く水がたまっても、その立ち上がりを超えるまでは地下へ直接流れ込みにくくなります。

東京都の地下空間浸水対策ガイドラインでも、出入口を道路面等の周囲より高くするマウンドアップが浸水防止・遅延対策として示されています。

高さをどこまで確保するかは、その土地で想定する水位から設計します。

全国一律で「20cmあれば安全」という数字ではありません。

地下ガレージの排水溝は「雨を受ければ終わり」ではない

地下ガレージ入口によくあるのが横断排水溝です。

スロープを下ってきた水をガレージへ入る前に受けます。

ただし排水溝には処理できる量があります。

道路側から大量の水が流入し、

流入する水量
>
排水できる水量

になれば、水は排水溝を越えて地下へ進みます。

そのため、

排水溝があるか

だけではなく、

どの範囲の水がスロープへ来るのか。

排水溝からどこへ水を流すのか。

自然流下できるのか。

ポンプ排水なのか。

を確認します。

横浜市も半地下建物について、特に「想定流入量と排水能力」に注意するよう案内しています。

ポンプが必要になるのは「地下だから」だけではない

地下の排水は、道路下の公共下水道より低くなることがあります。

その場合、重力だけで排水する自然流下ができません。

水は低い場所から高い下水管へ勝手には流れないためです。

そのため、一度排水槽へ水を集め、ポンプで持ち上げて排水する方式があります。

東京都では、地下室その他、下水の自然流下が十分でない場所の排水にはポンプ施設を設ける規定があります。

岡崎市の排水設備指針でも、半地下家屋等について、豪雨時の下水道管内水位上昇による逆流に必要な検討を行うとしています。

つまり確認したいのは建築基準法上「地階」に該当するかだけではありません。

排水設備が公共下水道に対して十分高い位置にあるかです。

半地下だから自然排水できる、とは限らない

地下室ほど深くない半地下では、

「道路より少し低いだけだから自然に下水へ流せる」

という計画になることがあります。

晴天時には問題なく排水できる場合もあります。

問題になるのは豪雨時です。

下水道管内の水位が上がると、普段なら自然に流れている排水が流れにくくなります。

さらに宅地内の排水管を逆方向へ下水が上がり、

地下のトイレ。

浴槽。

床排水口。

などから噴き出す可能性があります。

東京都下水道局は、この半地下住宅の逆流被害を明確に注意事項として挙げています。

「晴れた日に排水できた」は、豪雨時にも排水できる証明ではありません。

道路からの雨水と下水逆流は別の対策になる

ここが今回の記事で一番重要です。

道路から入る雨水は、

入口の高さ。

止水板。

土のう。

スロープ形状。

排水溝。

などで防ぎます。

一方、下水管から来る水は、

排水ポンプ槽。

逆流防止機構。

配管計画。

などで対応します。

つまり、

止水板を付けた
→下水逆流まで防げた

ではありません。

排水ポンプを付けた
→道路からの大量流入まで防げた

でもありません。

二つの水は入口が違います。

新築図面でも、対策を別々に描きます。

地下にトイレ・浴室を置くほど逆流対策が重要になる

地下室を、

シアタールーム。

収納。

趣味部屋。

だけにする場合と、

トイレ。

浴室。

洗面。

キッチン。

まで設ける場合では排水計画が変わります。

水回りを置けば、下水道へ接続する排水設備が地下に増えます。

豪雨時に下水道管の水位が上がると、その低い衛生器具が逆流経路になり得ます。

東京都下水道局も、半地下部のトイレや風呂場等から下水が噴出するおそれを示しています。

地下空間の利用方法を決めるときは、

「この部屋に水回りが本当に必要か」

から考える意味があります。

ポンプ槽は「ポンプ1台を付ける」で終わらない

排水ポンプが必要だと分かったら、次は設備計画です。

確認したいのは、

どの排水をポンプ槽へ入れるのか。

槽にどれだけ貯められるのか。

ポンプはどの水位で作動するのか。

どの程度の排水量を想定するのか。

故障をどう検知するのか。

点検・交換できる場所か。

停電した場合はどうするのか。

です。

例えば名古屋市では、地下排水槽を設ける建物について、容量計算書、構造図、ポンプ仕様、ポンプ運転フローなどを確認する仕組みがあります。

住宅すべてに同じ手続が必要という意味ではありません。

しかし、ポンプ排水は単なる設備一個ではなく、排水槽・制御・配管を含む一つのシステムとして設計するという点は参考になります。

ポンプは停電すると止まる

大雨のときに最も動いてほしい設備が排水ポンプです。

ところが豪雨・洪水時には停電が発生する可能性もあります。

国土交通省・経済産業省の浸水対策資料でも、停電等によってポンプが停止する場合を想定しています。

ポンプが停止すれば、

地下から外へ水を出せない。

排水槽の水位が上がる。

衛生設備が使えなくなる。

条件によっては逆流リスクも生じる。

という状態になります。

そのため新築時には、

停電時にポンプはどうなるのか。

非常電源を設けるのか。

どの程度の時間排水槽で持たせられるのか。

停電時には地下の水回りを使用しない運用にするのか。

まで設計者へ確認します。

逆止弁があるから絶対に逆流しない、でもない

逆流対策として逆止弁を使うことがあります。

流れを一方向だけにする設備です。

しかし国の浸水対策ガイドラインでは、異物が詰まることで逆止弁が正常に機能せず、逆流を防止できなくなる可能性があると注意しています。

そのため、

逆止弁あり
=
今後何もしなくてよい

ではありません。

点検できる場所か。

清掃できるか。

故障を確認できるか。

交換できるか。

を確認します。

水害対策設備ほど、普段は使われないまま何年も経つ可能性があります。

設置するだけでなく維持できる設計が必要です。

ポンプ停止時に下水から戻らない配管まで考える

さらに一段下げます。

ポンプで排水管を高い位置まで持ち上げれば、下水の逆流を抑えやすくなります。

しかし国の資料では、ポンプ停止時に配管が満水状態になるなどの条件によって、サイフォン現象による逆流が生じる可能性も示されています。

そのため、

配管をどこまで立ち上げるか。

逆止弁・止水弁をどこに設けるか。

サイフォン対策をどうするか。

まで設備設計の対象になります。

購入者・建築主が自分で配管計算をする必要はありません。

住宅会社へ、

「ポンプが止まった状態で下水道側の水位が上がったら、地下室へ水は戻りませんか」

と聞けるところまで理解しておけば十分です。

雨どいまで全部地下ポンプへ入れない方がよい場合がある

屋根へ降る雨は、大雨になるほど大量になります。

これを地下の排水ポンプ槽へすべて入れると、ポンプが処理する水量も増えます。

東京都下水道局は、宅地内の雨どい等の雨水排水をポンプ施設の下流側へ接続することで、ポンプ施設の運転を最小限に抑えられると案内しています。

つまり、

地下室から出る排水

と

高い位置にある屋根からの雨水

を同じポンプへ何でも集める必要はありません。

自然流下できる水は自然流下させ、低い部分の排水だけをポンプへ集められるか検討します。

ポンプは「家中の水を処理する装置」ではなく、低い場所で必要な排水を受け持つ設備として考えます。

ドライエリアは採光設備であると同時に大きな水の入口になる

地下室に窓を設けるため、外側を掘り下げたドライエリアを作ることがあります。

地下室へ光や風を入れられるメリットがあります。

しかし大雨時には、そのくぼみへ水が集まります。

東京都の地下空間浸水対策ガイドラインでも、ドライエリア周囲の立ち上がりが低いと、上端全体から水が流入して大きな被害になる可能性を示しています。

そのため、

ドライエリア周囲の壁高。

上から直接入る雨。

周囲から流れ込む雨。

底部の排水。

排水ポンプ。

非常時の避難方法。

を一体で確認します。

「地下室の窓を作る」だけの設備ではありません。

外階段も雨水を地下へ集める形になる

地下室へ外から直接入れる階段を作る場合も同じです。

階段自体に雨が降ります。

さらに上部の地面から雨水が入れば、

階段
↓
地下入口

へ水が集まります。

国交省の水害ハザードマップ作成手引きでは、半地下・地下室について、可能なら直接外部への出入口を設けないこと、設ける場合は入口前面を周囲より高くすることなどを注意事項として挙げています。

外階段が必要なら、

上部で水を止める。

階段へ流れ込ませない。

下部で排水する。

入口に止水対策を設ける。

という複数の層で考えます。

地下室のドアは水が来てから閉めればよい、ではない

地下へ水が流れ込み始めてから、

「ドアを閉めよう」

「中の物を取りに行こう」

とするのは危険です。

地下では水位が短時間に上昇する可能性があります。

さらにドアの外側へ水がたまると、水圧で開閉が難しくなります。

名古屋市は地下空間について、外開きドアの外側が30cm以上浸水している場合、水圧で開かないことがあると注意しています。

国の資料も、地下空間では避難経路が限定され、扉が水圧で開けなくなる危険性を指摘しています。

地下への浸水が予想される段階では、地下へ降りない運用を前提にします。

地下を寝室にするなら「夜に気付けるか」まで考える

地下室を寝室や防音室として使用する場合、豪雨時に地上の状況へ気付きにくくなる可能性があります。

地下にいると、

道路が冠水している。

水路があふれた。

玄関前まで水が来た。

という状況を目視できない場合があります。

国の地下空間ガイドラインも、地下にいる人が浸水の発生を認知し、避難できることを重視しています。

個人住宅でも、

気象警報を受け取れるか。

スマートフォンがつながるか。

屋外カメラ等で状況を確認できるか。

ポンプ異常を知らせる警報があるか。

を考えます。

地下室を作るなら、浸水対策設備だけでなく「異常を知る設備」も必要です。

防水工事と豪雨の流入対策は別に考える

地下室では、

防水コンクリート。

防水層。

止水材。

排水層。

など、地中からの水に対する防水対策も必要になります。

ただし、地下壁をしっかり防水したからといって、道路から階段を通って入る水や下水逆流まで防げるわけではありません。

逆に止水板があっても、地下水等に対する建物外周の防水性能とは別です。

新築時には、

地中側の防水。

地表からの流入。

下水からの逆流。

を別々の設計項目として確認します。

地下室を作らない判断も水害対策の一つ

国土交通省の地下空間浸水対策ガイドラインには、浸水危険性が特に大きい場合には、用途・規模を踏まえて地下空間そのものを設けないことも検討する考え方があります。

東京都下水道局も、

過去に浸水被害があった土地。

周辺に浸水履歴がある土地。

坂下。

窪地。

などでは、できるだけ半地下家屋や地下室を設けないよう設計者・建築主へ呼びかけています。

つまり最も強い地下室の浸水対策は、

そもそも低い位置に重要な部屋を作らない

ことになる場合があります。

土地の有効活用と水害リスクを比較します。

地下ガレージなら車の退避も先に決める

地下室がガレージの場合は、人だけでなく車も考えます。

止水板や排水ポンプを設けても、想定を超えて浸水する可能性は残ります。

そこで、

どの段階で車を移動するか。

近くに高い駐車場所があるか。

大雨時にそこまでの道路を通れるか。

留守中はどうするか。

を決めます。

道路から地下へ下がるガレージでは、水が入り始めてから車を出そうとすること自体が危険になる場合があります。

建物設備で守る層と、事前に移動して守る層を分けます。

新築前に「4本の水ルート」を図面に入れる

半地下・地下室を本気で検討するなら、住宅会社へ一枚の図面で確認すると分かりやすくなります。

例えば、

道路の雨
→地下入口へ来るか
→どこで止めるか

ドライエリアの雨
→どこへ集まるか
→どこへ排水するか

地下のトイレ・浴室
→どの排水槽へ入るか
→ポンプでどこへ送るか

公共下水道
→豪雨時に水位が上がった場合
→逆流をどこで止めるか

です。

さらに、

停電
→ポンプ停止
→地下排水槽が満水
→その後どうなるか

まで図面上で確認します。

これが説明できない状態なら、まだ地下室の排水設計は完成していません。

ポンプ容量より「ポンプが止まった後」を聞く

住宅会社との打合せでは、

「十分大きな排水ポンプを付けます」

と言われるかもしれません。

もちろん能力は重要です。

しかし、大雨時にもう一つ聞きたいのが、

「そのポンプが止まったらどうなりますか」

です。

停電。

故障。

異物による詰まり。

制御装置の不具合。

想定以上の流入。

はゼロにはできません。

その際、

どこまで水を貯められるか。

逆流を止められるか。

警報が出るか。

地下室から安全に避難できるか。

重要設備が水につからないか。

まで確認します。

地下室では設備一つの能力より、設備が機能しない場合の次の層が重要です。

半地下・地下室が向きにくい土地

特に慎重に考えたいのは、

坂の一番下。

道路より敷地が低い。

過去の道路冠水がある。

洪水・内水ハザードが大きい。

周辺に小さな水路がある。

豪雨時に下水道の排水条件が悪くなる可能性がある。

地下への入口を道路側へ作らざるを得ない。

といった条件です。

一つ該当したから地下室を作れないという意味ではありません。

ただし条件が重なるほど、

建築費
+
止水
+
排水ポンプ
+
非常時対策
+
維持管理

まで含めた費用・リスクを、地上階を増やす案と比較する意味が大きくなります。

半地下・地下室を作るなら完成前に決めること

地下室の防水・排水設備は、建物完成後に追加しにくいものがあります。

東京都下水道局も、建築後では逆流・雨水流入対策の施工が困難になる場合があるため、新築時にポンプ施設や止水板等を計画するよう求めています。

土地・間取りを決める段階で、

想定浸水深。

道路から地下への水の入口。

地下室への外部出入口。

ドライエリア。

地下の水回り。

排水方式。

逆流防止。

ポンプ。

停電時。

避難方法。

を決めます。

地下室を作ってから水害対策を追加するのではなく、水害時の水の流れから地下室を設計します。

まとめ

半地下・地下室では、水害対策を「排水ポンプを付ける」で終わらせないことが重要です。

地下へ入る水には、

道路から流れ込む雨水。

ドライエリア・外階段に降る雨。

下水道から逆流する水。

地下・地中側から作用する水。

があります。

それぞれ入口が違うため、対策も違います。

道路からの流入には、入口の嵩上げ、止水板、排水溝など。

下水逆流には、排水ポンプ槽や逆流防止を含む配管計画。

ドライエリアには、周囲の立ち上げと排水。

そしてポンプを使うなら、停電・故障・逆止弁不良まで確認します。

半地下・地下室を作る前に決めたいのは、

「ポンプを付けるか」

ではありません。

道路から水が来ても、

下水道の水位が上がっても、

ポンプが止まっても、

人が地下から安全に出られ、建物への被害をどこまで抑えられるか。

そこまで説明できる排水・浸水計画になっているかを確認することです。

出典

国土交通省|地下空間における浸水対策ガイドライン

国土交通省|地下空間における浸水対策ガイドライン(浸水危険性・地下空間を設けないことの検討)

国土交通省|水害ハザードマップ作成の手引き・地下室等設置時の留意事項

国土交通省|排水・貯留設備における逆流・溢水対策

東京都下水道局|地下室・半地下家屋の浸水対策のお願い

東京都|地下空間浸水対策ガイドライン

名古屋市|都市型災害・地下街や地下室の浸水対策

名古屋市上下水道局|地下排水槽設置に伴う事前協議

岡崎市|屋外排水設備設計・施工指針(半地下家屋等の浸水対策)