水害が気になる土地で新築するとき、
「駐車場を道路より10cmだけ高くしても意味がある?」
「30cmくらい上げれば車は大丈夫?」
と考えることがあります。
結論からいうと、10cmでも30cmでも、道路と同じ高さの駐車場より水害には有利な方向に働きます。
ただし、
道路+10cmなら水深10cmまで安全。
道路+30cmなら水深30cmまで安全。
という意味ではありません。
駐車場を高くする意味は、大雨で道路の水位が上がったとき、水が駐車場へ入り始めるまでの高さの余裕を増やすことです。
そのため新築では「10cmか30cmか」を先に選ぶのではなく、
前面道路でどの程度の冠水を考えるのか。
道路の水が駐車場へ向かう地形か。
駐車場入口の一番低い場所はどこか。
実際に車を停める場所は道路から何cm高いか。
を確認してから高さを決めます。
道路と同じ高さより10cm高いだけでも意味はある
道路と駐車場が完全に同じ高さで、道路側から駐車場へ勾配が続いていれば、道路にたまった水がそのまま敷地へ入りやすくなります。
これに対して入口や駐車面を道路より高くすれば、浅い道路冠水に対して一つの高さの壁を作れます。
実際、新潟市には大雨による駐車場浸水を軽減するための助成制度があり、既存駐車場より平均10cm以上、かつ前面道路より平均10cm以上の嵩上げを対象としています。(新潟市ホームページ)
この制度から分かるのは、
「10cmあれば車が安全」
ではありません。
道路と同じ高さのままより、駐車場を道路面から切り離す方向に高さを付けること自体に意味があるということです。
10cmは浅い道路冠水への「最初の余裕」
例えば道路に数cm程度の水がたまりやすい住宅地を考えます。
駐車場が道路より低ければ、その水は駐車場へ流れ込みやすくなります。
道路と同じ高さでも、道路勾配や敷地勾配によっては流入します。
道路より10cm高ければ、浅い冠水に対しては入口を越えるまでに高さの余裕ができます。
特に、
短時間豪雨で一時的に道路へ水がたまる。
道路側溝の処理が追い付くまで浅く冠水する。
というタイプなら、10cmにも意味があります。
ただし道路水位が10cmを超えれば、その高さを越える可能性があります。
10cmは「浸水しない高さ」ではなく「水が入り始める時点を少し遅らせる高さ」と考えます。
30cmまで上げれば高さの余裕は大きくなる
同じ道路条件なら、10cmより30cm高い駐車場の方が、水位が駐車場へ達するまでの高さは大きくなります。
西尾市の住宅浸水対策制度でも、住宅周辺地盤を30cm以上嵩上げする盛土を浸水対策として扱い、駐車場のみの嵩上げについても市長が認める浸水対策工事に位置付けています。
したがって30cmは、浅い内水・道路冠水への高さを確保する方法として十分検討価値があります。
ただしこれも、
30cm上げれば30cm冠水まで絶対に車は無事
という意味ではありません。
道路冠水30cmと駐車場+30cmを単純に相殺しない
道路が30cm冠水する。
駐車場が道路より30cm高い。
なら、水面と駐車面がちょうど同じになるように見えます。
しかし実際には、この単純計算だけで設計しない方がよいでしょう。
道路上の水位は場所によって同じとは限りません。
道路に流れがあれば、敷地入口側へ水が押し寄せる場合があります。
駐車場入口だけ低くなっていることもあります。
側溝や水路があふれ、道路とは別方向から水が来る場合もあります。
さらにハザードマップの「浸水深30cm」と前面道路の冠水30cmも同じ情報ではありません。
したがって、
30cmの水
-
30cmの嵩上げ
=
安全
とは判断しません。
高さはリスクを減らす余裕として使います。
駐車場全体の平均高さより「水の入口」を見る
例えば駐車場奥は道路+30cmでも、道路との乗入口が+5cmしかないとします。
道路から水が入れば、その後は駐車場内部へ回り込む可能性があります。
この場合、
「駐車場は道路より30cm高い」
という代表値だけでは実際の水害対策が分かりません。
確認したいのは、
道路と駐車場の境目。
車が道路から乗り越える部分。
駐車場内の最低点。
実際のタイヤ位置。
です。
水は「平均標高」を見て入るわけではありません。
一番低くつながっている場所から入ります。
10cmの段差を作って奥をさらに高くする方法もある
駐車場全体を同じ高さにする必要もありません。
例えば道路側の入口にある程度の高さを確保し、そこから駐車位置へ緩やかに上げていく方法があります。
道路
→入口
→駐車位置
と少しずつ高くすれば、道路の水に対して入口で一度高さを作りながら、車をさらに高い場所へ置けます。
反対に、
道路
→+10cm
→その先で下がる
→駐車位置±0cm
なら、入口だけ高くても駐車位置自体は低くなります。
断面図で見ることが重要です。
30cm上げると車の乗入れ条件が変わる
10cmと30cmの大きな違いは、水害対策だけではありません。
道路から同じ距離で駐車場へ上がるなら、30cmの方が高低差が大きくなります。
敷地奥行きが短い場合には、乗入れ勾配が急になります。
すると車種によって、
フロント下部。
車体中央。
リア下部。
などが路面へ接触しやすくなる場合があります。
また、自転車、車椅子、ベビーカー、徒歩での出入りにも影響します。
だから水害だけなら30cmの方が有利でも、
30cm取れる土地
=
30cmにする
ではありません。
道路から実際に車が入れる断面になっているかまで確認します。
車高が高いSUVなら10cmでいい、とは決めない
駐車場の高さを決める際に、
「SUVだから多少水につかっても大丈夫」
と考えるのは避けた方がよいでしょう。
JAFは、乗用車が走行できる水深の一般的な目安として車の床面が水につからない程度を挙げていますが、実際の冠水路では水深も水中の状態も分からないため、進入しないよう注意しています。(JAF(日本自動車連盟))
さらにJAFの近年の試験では、水深30cmを走り切った車でも、速度などの条件によって車内やボンネット内部への浸水、部品の脱落が確認されています。(JAF(日本自動車連盟))
駐車場設計では「車が何cmまで耐えられるか」ではなく、できるだけ車を水面から離す方から考えます。
30cmの嵩上げが効きやすいのは浅い内水
30cmの高さが比較的大きな意味を持ちやすいのは、深い河川洪水より浅い道路冠水・内水です。
例えば短時間豪雨で道路へ浅く水がたまり、一時的に住宅地の低い場所へ流れ込むタイプです。
駐車場が道路と同じ高さなら水が入るところを、入口・駐車面に30cm程度の余裕があれば流入を抑えられる可能性があります。
一方、洪水ハザードマップで1m、2mといった浸水が想定される土地では、駐車場を10cmや30cm上げただけで車を守り切ることはできません。
長野県も住宅の浸水対策例として、宅地全体を「浸水想定深さより高く」する考え方を示しています。(長野県公式ウェブサイト)
深い洪水と浅い内水を同じ30cmで考えないことが重要です。
10cm+止水板という考え方もある
駐車場全体を30cm高くすることが難しい土地もあります。
道路との距離が短く、車の乗入れが成立しない場合です。
そのような場合、
駐車場をできる範囲で10cm程度上げる。
さらに道路側から水が入る場所へ止水板等を設置する。
という組み合わせも考えられます。
国の地下駐車場向けガイドラインでも、対象は戸建住宅ではありませんが、「可能な限り嵩上げし、不足する高さを止水板で補う」という考え方を採用しています。
西尾市も、浸水対策として駐車場の嵩上げと止水板の双方を対象にしています。
一つの方法だけで必要高さをすべて作る必要はありません。
ただし止水すると駐車場内の雨を出す必要がある
道路側を高くしたり止水板で塞いだりすると、今度は駐車場内に降った雨の行き先が必要になります。
駐車場を周囲より高く囲ったのに、
駐車場中央へ雨がたまる。
道路へ排水できない。
雨水桝まで勾配が取れない。
という計画では別の問題になります。
駐車場を高くするときは、
道路から水を入れない
だけではなく、
自分の敷地に降った水をどこへ出すか
まで決めます。
西尾市の浸水対策資料も、嵩上げとは別に排水設備・排水先の確保を対策として示しています。
道路より30cm高くても周囲より低ければ水は来る
前面道路だけを基準にするのも危険です。
例えば、
駐車場は道路+30cm。
しかし背後の住宅地はさらに1m高い。
横の土地も駐車場より50cm高い。
という場所なら、道路とは別方向から水が来る可能性があります。
逆に前面道路より10cmしか高くなくても、周辺全体が高く、水が道路反対側へ流れる土地なら条件は違います。
駐車場の高さは、
前面道路。
隣地。
背後地。
側溝・水路。
地域全体の高低差。
と一緒に見ます。
駐車場の高さは「一番低いタイヤ位置」で考える
2台用の駐車場なら、左右で高さが違う場合があります。
例えば建物側の1台目は道路+30cm。
道路側の2台目は+10cm。
なら、同じ駐車場でも水害条件が違います。
縦列駐車でも、
奥の車+30cm。
手前の車+5cm。
ということがあります。
そのため「駐車場は平均20cm高い」と見るより、実際に4本のタイヤを置く場所がどの高さになるかを確認します。
車を守るのが目的なら、舗装の最高点ではなく車がいる地点を見る必要があります。
30cm上げても大雨時の車の退避は残しておく
駐車場を高くしても、想定を超える水害はあり得ます。
そこで車の退避先も決めておきます。
ただし水が駐車場へ入り始めてから車を動かすのではありません。
JAFは、冠水が始まると道路の水深や路面状況が分からなくなるため、冠水路へ進入せず、水位上昇前に行動するよう呼びかけています。(JAF(日本自動車連盟))
駐車場を10cm・30cm上げる対策は、
「これで絶対に車を移動しなくてよい」
ためのものではありません。
浅い浸水に対する防御を一段増やし、それを超える雨では早めに車を移すという多層対策にします。
10cmと30cmの判断は「道路冠水との余裕」で考える
最終的には、10cmと30cmを次のように考えると分かりやすくなります。
10cmは、道路と同じ高さの駐車場を少し切り離し、浅い雨水流入までの余裕を作る高さ。
30cmは、その余裕をさらに大きくし、浅い内水・道路冠水への効果を高める方向の高さ。
ただし、どちらにも「安全」となる境界線はありません。
その土地で、
道路冠水がどの程度想定されるか。
過去にどの程度水が来たか。
駐車場へ水が流れ込む地形か。
30cmの高低差でも車が無理なく乗り入れられるか。
によって判断します。
新築なら10cm案・30cm案を断面図で比較する
水害が気になる土地なら、住宅会社や外構会社へ平面図だけでなく断面図を作ってもらうと判断しやすくなります。
道路を0cmとして、
10cm案では駐車位置+10cm。
30cm案では+30cm。
住宅宅盤は+50cm。
玄関は+80cm。
というように並べます。
そこへ、
過去の道路冠水。
内水の想定。
を重ねます。
さらに車の乗入れ勾配、玄関アプローチ、排水先まで比較します。
「30cmの方が高いから30cm」ではなく、
10cm増やすことで何を守れるのか。
さらに20cm増やすことで何が変わるのか。
その代わりに何が不便になるのか。
まで確認して選びます。
まとめ
駐車場を道路より10cm・30cm嵩上げすることには、水害対策として意味があります。
道路と同じ高さや道路より低い駐車場に比べ、水が駐車場へ入り始めるまでの高さの余裕を作れるからです。
10cmでも浅い水の流入を減らす方向に働きます。
30cmなら、その高さの余裕はさらに大きくなります。
しかし、
10cmなら水深10cmまで安全。
30cmなら水深30cmまで安全。
というものではありません。
確認したいのは、
道路から駐車場まで何cmか
だけではなく、
道路冠水時の水面と、実際に車を停める位置との高さの差です。
さらに、30cm上げることで車の乗入れが急にならないか、駐車場内の雨水をどこへ排水するかも一緒に決めます。
浅い内水が中心なら30cmの高さが大きな意味を持つ場合があります。
深い河川洪水が想定されるなら、10cm・30cmだけで車を守ろうとせず、止水や事前退避、場合によっては駐車位置そのものの見直しまで考えます。
「何cm上げれば安心か」ではなく、「その高さで、水が車まで届くまでにどれだけ余裕を作れるか」。
これが駐車場嵩上げを考えるときの基準になります。