水害が気になる土地に新築するとき、
「玄関を道路より高くしておけば、水は入りにくいのでは」
と考えることがあります。
玄関を高くすることには意味があります。
道路冠水などで水位が上がったとき、玄関の敷居まで水が達するまでの高さを確保できるからです。
ただし、玄関だけを高くしても、家の別の場所がそれより低ければ、そこから先に水が入る可能性があります。
例えば、
玄関は道路より80cm高い。
勝手口は道路より50cm。
庭側の掃き出し窓は道路より40cm。
という住宅なら、水害対策として最初に確認したいのは玄関の80cmではありません。
最も低い掃き出し窓の40cmです。
新築の浸水対策では、「玄関を何cm高くするか」ではなく、建物外周で最も低い水の入口をどこにするかを考えます。
水は一番低い開口部から入る
建物には複数の開口部があります。
玄関。
勝手口。
リビングの掃き出し窓。
和室や寝室の掃き出し窓。
ガレージの出入口。
基礎換気口。
配管や配線の貫通部。
水位が建物の周囲で上昇したとき、これらの中で低く、止水されていない場所から浸水する可能性があります。
国土交通省の浸水対策に関する技術資料でも、建物への浸水を考える際には「最も低い開口部」を確認する考え方が使われています。
住宅でも考え方は同じです。
正面玄関だけを見て、
「道路から80cmあるから大丈夫」
と判断するのではなく、住宅を一周して最も低い侵入口を探します。
玄関を80cm上げても掃き出し窓が40cmなら40cm側を見る
例えば住宅の高さを次のように計画したとします。
道路面を0cmとします。
玄関敷居が+80cm。
勝手口が+60cm。
掃き出し窓の下端が+45cm。
この住宅では、正面から見ると玄関がかなり高く、水害に強そうに見えます。
しかし水位が道路面から50cm程度まで上がり、建物周囲にも同程度の水が回り込む条件なら、玄関より先に掃き出し窓側が問題になります。
つまり住宅の浸水対策では、
一番高いところ
ではなく、
一番低いところ
を見る必要があります。
「玄関を80cm上げた」という設計仕様だけでは、住宅全体の水防性能は分かりません。
掃き出し窓は床に近いから水害では重要になる
掃き出し窓は、床面近くまで開口する大きな窓です。
リビングから庭やウッドデッキへ出るため、新築住宅でもよく使われます。
室内と屋外をつなげやすく、日常生活では便利な開口部です。
一方、水害という視点では、腰窓より開口部の下端が低くなりやすいという特徴があります。
住宅生産団体連合会の「住宅における浸水対策の設計の手引き」でも、浸水対策例として掃き出し窓を最小限に計画し、必要な開口部には止水板等を設置する考え方が示されています。
そのため水害リスクがある土地なら、
南側に大きな掃き出し窓を2つ。
東側にも1つ。
という間取りを決める前に、それぞれの開口部の下端が想定する水位よりどこに来るのかを確認します。
「床が道路より80cm」でも掃き出し窓下端を確認する
前の記事では、新築時には、
道路。
宅盤。
1階床。
を分けて見ることが重要でした。
掃き出し窓については、さらに一段加えます。
道路
↓
宅盤
↓
1階床
↓
掃き出し窓下端
です。
一般的な掃き出し窓は室内床に近い位置から始まるため、1階床高と近い位置になることがあります。
ただしサッシの納まり、ウッドデッキ、テラス、外構との高さ関係は住宅ごとに異なります。
したがって、
「1階床が道路+80cm」
だけではなく、
「一番低い掃き出し窓の外側下端は道路から何cmですか」
まで確認します。
勝手口は家の裏側にあるため高さが変わることがある
勝手口も見落としやすい場所です。
玄関は前面道路側にあり、道路から階段を上がって入る設計でも、勝手口は建物の裏や横に配置されます。
土地に高低差があれば、
玄関側は道路より高い。
建物裏側は地面が低い。
勝手口の外側にサービスヤードがある。
ということがあります。
この場合、玄関の高さだけでは住宅外周の最低点が分かりません。
特に傾斜地や、道路と隣地の高さが異なる土地では、
玄関側。
庭側。
勝手口側。
で外部地盤高が違います。
勝手口は、室内床からの高さではなく「勝手口の外側の地面から開口部まで」の関係も確認します。
玄関・勝手口ドアは「閉まっているから防水」とは考えない
玄関ドアや勝手口ドアは、雨風を防ぐために作られています。
しかし、一般的な玄関・勝手口ドアを洪水時の止水扉として扱うことはできません。
LIXILやYKK APも、玄関・勝手口のドアは居室用サッシと同等の水密性能を持つものではなく、強風雨時には枠と扉の隙間などから雨水が入る場合があると説明しています。
これは通常の風雨についての説明であり、そのまま洪水時の性能試験を示すものではありません。
だからこそ新築で浸水を想定する場合には、
玄関ドアがある
↓
水は入らない
ではなく、
開口部の高さ。
止水板。
止水ドア等。
周囲の排水。
を組み合わせて考えます。
玄関を高くするなら「土間」と「室内床」を分ける
玄関には、
外側のポーチ。
玄関ドアの敷居。
玄関土間。
上がり框。
室内床。
と複数の高さがあります。
例えば道路から室内床まで1mあっても、玄関土間はそこより低く設定されます。
水害時に最初に水が入る高さとして見るなら、
室内床の高さ
だけではなく、
玄関ドア下端・敷居の高さ
が重要です。
さらに玄関ドアを越えて土間まで水が入ったとしても、上がり框までまだ高さがあれば、居室床まで達する時間を遅らせられる可能性があります。
そのため、
道路→玄関敷居。
玄関敷居→土間。
土間→室内床。
を分けます。
玄関だけ階段を増やしても裏側がフラットなら意味が変わる
水害対策として正面玄関を3段上げた住宅を考えます。
正面から見ると、
道路
↓
階段3段
↓
玄関
となっています。
しかし庭側では、
庭
↓
ほぼ段差なし
↓
掃き出し窓
になっている場合があります。
この場合、道路から直接玄関へ入る水には強くなっても、周囲全体が冠水すれば庭側へ回り込みます。
水は「正面玄関から入らなければ諦める」わけではありません。
住宅外周へ水が回る条件では、低い裏側の開口部も同じ水位の影響を受けます。
玄関階段の段数だけで住宅の浸水性能を評価しないことが重要です。
道路側から水が来るなら玄関だけ守ればよい、でもない
内水氾濫では、
道路が冠水
↓
道路から敷地へ水が入る
というケースがあります。
すると道路側の玄関が最初の侵入口に見えます。
しかし敷地へ水が入ったあと、建物の周囲へ回り込めば庭側や勝手口側にも水位が生じます。
特に敷地内がほぼ平坦なら、水は玄関前だけにとどまるとは限りません。
そのため、
道路側に止水板。
玄関を高くする。
だけで住宅全体を守ろうとせず、敷地へ入った水がどこへ向かうのかまで外構・排水計画と合わせて考えます。
最も低い開口部を「水防ライン」より上にできるか考える
新築なら、先に水防ラインを決める考え方があります。
例えば設計上、
「GL+60cmまでは建物内部へ水を入れないよう検討する」
と決めたとします。
すると、
玄関 GL+80cm。
勝手口 GL+70cm。
掃き出し窓 GL+45cm。
では、掃き出し窓だけが水防ラインを下回っています。
そこで、
掃き出し窓の位置を上げる。
掃き出し窓を腰窓に変更する。
数を減らす。
止水板を設置できる納まりにする。
外構側で地盤・水の流れを変える。
といった方法を比較します。
水防ラインを決めると、「玄関だけ高い」という部分最適を避けやすくなります。
掃き出し窓を全部なくす必要はない
水害対策を考えると、
「それなら掃き出し窓は全部やめた方がよいのでは」
と思うかもしれません。
そこまで単純ではありません。
掃き出し窓には、
庭への出入り。
採光。
通風。
開放感。
という住宅としての役割があります。
重要なのは、水害リスクを無視して配置するのではなく、想定水位と比較して決めることです。
例えば水が流れ込みやすい道路側には大きな低い開口部を作らず、高い側の庭に掃き出し窓を設ける方法もあります。
必要な掃き出し窓だけを残し、止水板を設置できるようにしておく方法もあります。
住宅生産団体連合会の手引きも「掃き出し窓を最小限に計画する」という考え方であり、住宅から完全になくすという内容ではありません。
腰窓に変えるだけでも「入口の高さ」は変わる
掃き出し窓を腰窓へ変更すると、開口部の下端は高くなります。
例えばリビングに庭への出入口が2か所必要なのか、それとも1か所だけ掃き出し窓を残し、もう1か所は腰窓でよいのか。
間取りを決める段階なら選択できます。
水害対策では、
窓ガラスそのものの性能
だけではなく、
水が開口部へ到達するまでの高さ
を確保することにも意味があります。
新築だからこそ、後から止水板を追加する前に「そもそも低い開口部を何個作るか」を考えられます。
勝手口も本当に必要かを水害側から一度考える
勝手口も同じです。
ごみ出し。
洗濯。
駐車場への移動。
キッチンから屋外への動線。
など、便利な場合があります。
一方、使用頻度が低い住宅では、
ほとんど使わない勝手口を設けた結果、低い開口部が一つ増える
ということもあります。
水害リスクが高い土地なら、
本当に勝手口が必要なのか。
必要ならどの面へ設けるのか。
外部地盤からどの高さにするのか。
止水対策を設けられるか。
まで間取り段階で検討します。
「昔から家には勝手口があるもの」と決めず、必要性から考えます。
低い開口部を作るなら後から止水板を付けられる納まりにする
生活上、低い掃き出し窓や勝手口が必要な場合もあります。
その場合は、浸水対策を追加できるよう新築時から考える方法があります。
例えば脱着式止水板なら、大雨が予想されるときだけ開口部へ設置できます。
国立研究開発法人建築研究所の戸建て住宅の耐水化試設計でも、玄関扉・掃き出し窓への脱着式止水板や、勝手口への止水ドアなどを組み合わせた案が検討されています。
後付けできる製品もありますが、
壁との固定方法。
開口幅。
床・壁の段差。
水圧に対する強度。
保管場所。
設置時間。
などを考えると、新築時から組み込みやすい構造にしておく利点があります。
止水板を付ければ開口部の高さを無視できるわけではない
止水板を付ける計画でも、開口部の高さそのものには意味があります。
例えば水深20cmで止水板が必要になる住宅と、水深70cmになるまで開口部に届かない住宅では、準備に使える時間や日常管理が違います。
また止水板は、
大雨前に設置する必要があるタイプ。
常設型。
自動で上がるタイプ。
など方式が異なります。
停電・不在・夜間などでも確実に使えるかを考える必要があります。
まず建築・外構でできるだけ水の入口を高くし、それでも残る低い開口部を止水設備で補うという順番が分かりやすいでしょう。
基礎換気口や配管貫通部がもっと低い場合もある
玄関・勝手口・掃き出し窓をすべて高くしても、まだ確認があります。
基礎や外壁には、
換気口。
給排水管。
ガス管。
電気配線。
エアコン配管。
などの開口・貫通部があります。
国土交通省の建築物における電気設備の浸水対策ガイドラインでも、配線・配管の貫通部は浸水経路になり得るものとして止水処理を検討しています。
住宅生産団体連合会の手引きでも、基礎のスリーブ部分をシーリングするなどの対策例があります。
つまり住宅外周で最低点を調べるときは、
人が通る開口部
だけで終わりません。
小さな穴も含めて、水防ラインを連続させます。
床下換気口が低ければ床上より先に床下へ水が入る
住宅の目標を、
「床上浸水を防ぐ」
とする場合、床下浸水をどこまで許容するのかも決めます。
高基礎にして床を高くしても、低い位置に床下換気口があれば、そこから床下へ水が入る可能性があります。
建築研究所の高床化案では、高基礎によって1階床だけでなく床下換気口位置も引き上げる考え方が示されています。
床だけ高くして、
換気口は低いまま
としないことが重要です。
現在は基礎パッキンなどを使って換気する工法もあるため、採用する基礎方式を含めて住宅会社へ確認します。
室外機・給湯器は開口部ではないが同じ水位で見る
玄関・勝手口・窓から室内へ水が入らなくても、住宅設備が先に水につくことがあります。
例えば、
エアコン室外機。
給湯器。
蓄電池。
パワーコンディショナー。
屋外コンセント。
などです。
住宅生産団体連合会の浸水対策例でも、屋外給湯器や室外機を架台で嵩上げし、コンセント・分電盤などを設計浸水深より高くする方法が示されています。
したがって水防ラインを描くなら、
開口部の最低点
だけでなく、
機能を失いたくない設備の最低点
も同時に入れます。
バリアフリーと水害対策は逆方向になることがある
玄関や勝手口、掃き出し窓は、できるだけ段差をなくした方が日常生活では便利です。
車椅子。
ベビーカー。
高齢になった後の移動。
庭への出入り。
を考えると、室内外をフラットにつなげたくなります。
一方、水害対策だけなら開口部を高くした方が有利です。
この2つは場合によって逆方向になります。
そのため、
すべての出入口を高くする
のではなく、
玄関はスロープで高さを確保。
庭側は一部だけフラットな出入口。
その場所には止水板を設置可能にする。
というように役割を分ける方法もあります。
水害対策と日常の使いやすさを同じ設計図で調整します。
ウッドデッキを床と同じ高さにすると外からは低い開口部に見えることがある
新築では、リビングとウッドデッキをフラットにつなぐ設計があります。
室内から見ると段差が少なく、開放感があります。
しかし水害を見る場合は、デッキ表面だけではなく、その外側の地盤と排水を見ます。
庭からデッキへ水が上がる。
デッキ下に水がたまる。
外構が掃き出し窓側へ下がっている。
という条件なら、低い開口部へ水が集まる可能性があります。
「室内とデッキがフラットだから危険」ではありません。
デッキ・庭・排水・掃き出し窓下端の高さを一つの断面として確認します。
家の四面で外部地盤高が違う場合は各面で計算する
傾斜した土地では、道路側の地盤と建物裏側の地盤で高さが違います。
例えば、
道路側の玄関下端
→外部地盤+70cm。
裏側の掃き出し窓
→外部地盤+20cm。
となる場合があります。
同じ室内床につながっていても、外から見た開口部高さは違います。
そのため、
玄関は道路から何cm。
掃き出し窓は庭から何cm。
勝手口はサービスヤードから何cm。
と、それぞれ近接する外部地盤を基準に確認します。
「1階床は同じ高さだから全部の開口部も同じ安全性」とは限りません。
最低点を一つ見つけたら「そこだけ守る」でも足りない
例えば住宅外周を調べた結果、
掃き出し窓A +60cm。
掃き出し窓B +60cm。
玄関 +80cm。
勝手口 +45cm。
だったとします。
勝手口を止水板で60cmまで守れば、次の最低点は掃き出し窓になります。
つまり水防ラインは、一番弱い場所を一つ補修するだけでは終わりません。
目標水位より低い開口部をすべて確認し、そのラインが住宅外周を一周してつながっている必要があります。
これが「玄関だけ高くする」と水防ラインを作ることの違いです。
新築前に住宅の外周表を作ってもらう
水害リスクがある土地なら、間取りが固まる前に住宅会社へ高さを整理してもらうと分かりやすくなります。
例えば、
前面道路 基準0cm。
完成宅盤 +30cm。
1階床 +85cm。
玄関開口下端 +65cm。
勝手口開口下端 +55cm。
掃き出し窓A +80cm。
掃き出し窓B +80cm。
基礎の最も低い開口部 +45cm。
想定する水防ライン +60cm。
のように同じ高さ基準へそろえます。
すると、
勝手口と基礎開口だけが水防ラインより低い
といった弱点が設計段階で見えます。
「玄関は階段3段あります」より、はるかに水害判断に使いやすくなります。
水害リスクが浅い土地ほど開口部設計で対応しやすい場合がある
浅い道路冠水や内水を想定する土地なら、開口部の高さを少し変更したり、止水設備を組み合わせたりすることで住宅内部への浸水を遅らせられる場合があります。
一方、2m・3mといった深い洪水が想定される土地では、玄関・勝手口・掃き出し窓を数十cm上げるだけでは対応できません。
その場合は、
高床化。
2階居住。
設備高所化。
垂直避難。
立地そのものの再検討。
まで視野を広げます。
開口部の高さを工夫する対策は、想定水位がどの程度なのかとセットで考えます。
まとめ
新築住宅で玄関を高くすることには、水害対策として意味があります。
ただし、玄関だけを高くしても、勝手口や掃き出し窓など別の開口部がそれより低ければ、住宅全体の浸水対策にはなりません。
確認したいのは、
玄関。
勝手口。
掃き出し窓。
基礎換気部。
配管・配線貫通部。
など、建物外周にある水の入口です。
そして、その中で一番低く、止水されていない場所を確認します。
新築時には先に、
「ここまでは建物内部へ水を入れたくない」
という水防ラインを決めます。
その高さより低い開口部について、
位置を上げる。
数を減らす。
腰窓へ変更する。
止水板等を設ける。
外構で水を寄せない。
といった方法を組み合わせます。
水害に対する住宅の高さは、正面玄関の高さでは決まりません。
家を一周したときに最も低い水の入口がどこにあるか。
そこまで見て初めて、「玄関を高くした意味」が住宅全体の浸水対策につながります。
出典
一般社団法人住宅生産団体連合会|住宅における浸水対策の設計の手引き
一般社団法人住宅生産団体連合会|「住宅における浸水対策の設計の手引き」を作成