土地を見に行ったら、長い坂を下り切ったところに候補地がある。
近くに大きな川はなく、洪水ハザードマップにも目立った色は付いていない。
それでも、
「大雨が降ったら坂の上から水が全部集まってこないか」
と気になることがあります。
この心配には理由があります。
川が氾濫していなくても、短時間に強い雨が降り、側溝や下水道などで排水しきれなくなると、道路や周囲より低い場所へ雨水が集まることがあります。
いわゆる内水による浸水です。
ただし、
坂の一番下
=
浸水する土地
と決めることもできません。
重要なのは、その場所が「坂を下り切った場所」なのか、それとも本当に「水がそれ以上流れていかない場所」なのかです。
土地購入前には、
坂の上からどこまでの雨水が集まるのか。
候補地の前で道路が最も低くなっていないか。
集まった水は側溝・下水などへ流れるのか。
排水しきれないとき、水はさらにどこへ向かうのか。
まで確認します。
川がなくても坂の下では浸水することがある
水害というと、川の水が堤防を越えたり、川からあふれたりする洪水をイメージしがちです。
しかし住宅地では、川が氾濫していなくても浸水することがあります。
短時間に大量の雨が降る。
道路へ雨水が集まる。
側溝や下水道の排水能力を超える。
周囲より低い場所へ水がたまる。
このように街の中で処理できなくなった雨水によって発生するのが、内水による浸水です。
そのため、
近くに川がない。
海から遠い。
標高がそれなりに高い。
という土地でも、坂下や窪地なら別に確認します。
見たいのは「川との距離」ではなく、候補地周辺に降った雨がどちらへ流れるかです。
「坂の一番下」と「水の一番下」は同じとは限らない
ここが今回の記事で一番重要なところです。
現地を見ると、
ここで坂が終わっている
↓
ここが一番低い
と思うことがあります。
しかし、道路を少し先まで歩くと、さらに緩やかに下っている場合があります。
例えば、
坂道
↓
候補地
↓
平坦に見える道路
↓
さらに低い交差点
↓
水路
という地形なら、候補地の前を水が通過して、さらに低い方向へ流れる可能性があります。
反対に、
坂道
↓
候補地
↑
その先は上り坂
なら、候補地付近が局所的な最下点になっている可能性があります。
道路分野では、前後より局部的に低くなり、雨水が集まりやすい場所を「サグ部」と呼ぶことがあります。
土地を見るときも、坂を下り切った見た目の場所ではなく、
道路が下りから上りに変わる本当の最低点はどこか
を確認します。
坂が二方向・三方向から集まる場所は一段慎重に見る
一本の坂道の下より、複数方向から水が集まる地形では確認する範囲を広げます。
例えば十字路の候補地で、
北から下り坂。
東からも下り坂。
西側も候補地へ向かって低くなる。
南側だけ上り坂。
という場所なら、複数方向の道路を流れてきた雨水が交差点付近へ集まる可能性があります。
この場合、
「自宅前の坂はそれほど急ではない」
だけでは判断できません。
坂の上側にある住宅地まで含めて、どの範囲の雨が候補地周辺へ向かって流れる地形なのかを確認します。
土地一筆より広い範囲を見る必要があります。
坂が長いほど危険、と長さだけでは決めない
長い坂を見ると、
「この坂全部の雨水が家の前まで来るのでは」
と思うかもしれません。
実際には、坂の途中にある側溝や雨水ます、交差点、道路勾配などによって水の流れは分かれます。
途中で別方向の水路へ排水されていれば、坂の上から流れてきた水すべてが候補地まで到達するわけではありません。
逆に短い坂でも、
道路面が候補地へ向かっている。
側溝が少ない。
周辺が舗装され雨が地面へ浸透しにくい。
候補地前が局所的なくぼ地。
という条件なら、水が集まることがあります。
坂の距離だけではなく、上流側の「どこからどこまでの雨を受ける場所なのか」を見ます。
側溝があるから大丈夫、ではない
坂道沿いに大きな側溝があれば、安心に見えます。
側溝や下水道は、住宅地へ降った雨を排水する重要な設備です。
しかし、それにも処理できる量があります。
局地的な短時間豪雨などで流入する雨水が急激に増え、側溝、排水路、ポンプなどの排水能力を超えれば、一時的に道路へ水があふれることがあります。
実際、道路管理者が公表する道路冠水想定箇所でも、周囲より道路が低い場所では、排水設備があっても豪雨時に能力を超えると冠水する可能性があるとされています。
そのため土地購入前には、
側溝があるか
だけではなく、
水がどちらへ流れているか。
候補地付近が側溝の下流側なのか。
その先はどこへつながっているのか。
を見る方が重要です。
側溝へ流れ込んでいても、その先で流せなければ水位は上がる
さらに一段下げると、候補地前の側溝だけを見ても十分ではありません。
雨水は最終的に河川などへ放流されます。
ところが大雨時には、放流先の河川の水位も上昇します。
すると、普段なら流れている雨水を外へ排出しにくくなる場合があります。
内水浸水想定では、この「放流先の水位」も重要な要素として扱われています。
つまり、
候補地前の側溝
↓
雨水管
↓
排水路
↓
河川
という途中だけでなく、一番最後の出口までつながっています。
川が家の近くになくても、地域の雨水が最終的に流れ込む川の状態によって排水が難しくなる場合があります。
「川がない土地」と「川の影響を受けない土地」は同じではありません。
坂の下で一番見たいのは道路が川のようになるか
大雨時には、道路自体が雨水の通り道になることがあります。
特に坂道では、高い場所から低い方向へ道路面を水が流れます。
候補地がその流路に面している場合、
道路を下ってきた水
↓
候補地前
↓
側溝で処理しきれない
↓
道路をそのまま流れる
という状態になる可能性があります。
そこで確認したいのが敷地と道路との高さです。
候補地が道路より高ければ、浅い道路冠水では水が敷地へ入りにくくなる方向の材料です。
道路と同じ高さなら、乗入口から水が入りやすくなる可能性があります。
道路より低ければ、さらに慎重に排水計画を確認します。
坂の下かどうかと、道路・敷地の高低差を組み合わせて見ます。
駐車場の入口が水の入口にならないか確認する
住宅を建てる土地では、建物予定地だけを見ると判断を間違えることがあります。
例えば敷地そのものは道路より50cm高い。
しかし坂道から車を入れやすくするため、
駐車場だけ道路と同じ高さにする。
道路から駐車場へ少し下げる。
という外構になる場合があります。
すると建物側には高さがあっても、駐車場が雨水の入口になります。
坂道を流れてくる水の場合、低い乗入口から短時間で入り込む可能性があります。
土地購入前には、
建物予定位置。
玄関。
駐車場。
乗入口。
前面道路。
を別々の高さとして確認します。
半地下ガレージは坂下の水と相性を確認する
坂のある住宅地では、高低差を利用した半地下ガレージを見ることがあります。
土地を有効利用できる一方、水害については入口の高さを確認したい構造です。
道路からガレージへ向かって下り勾配になっている場合、道路冠水した雨水が流れ込む経路になります。
地上の1階床が高くても、地下・半地下部分は先に浸水する可能性があります。
そのため坂下の土地で、
地下室。
半地下ガレージ。
道路から下がる駐車場。
を計画する場合は、土地全体の水害リスクとは別に入口部分を確認します。
台地の住宅地でも坂下に「浅い谷」が残っていることがある
坂がある場所というと高台の住宅地を想像します。
「この地域全体が標高30mだから、水害は関係ない」
と思うかもしれません。
しかし台地の中にも低い部分があります。
国土地理院は、台地・段丘上で周囲より0.5mから数m程度低くなった地形を「浅い谷」として分類しています。
こうした場所は、集中豪雨時に一時的な水の流路となったり、下流側を盛土などで遮られると水がたまったりすることがあります。
現在は道路や住宅が整備されているため、昔の谷には見えない場合もあります。
そのため、
高台
+
坂の一番下
という土地なら、地理院地図の地形分類も確認する意味があります。
道路・鉄道の盛土で水の出口がふさがれていないか
坂を下ってきた水に出口があるように見えても、その先の地形まで確認します。
例えば候補地の先に、
高い幹線道路。
鉄道。
盛土された造成地。
堤防。
などが横切っている場合があります。
このような連続した盛土構造は、水の動きに影響します。
国土交通省の内水浸水想定でも、道路・鉄道などを含む盛土構造や局所的なくぼ地を考慮します。
候補地が坂の下にあり、そのさらに下流側を高い道路や鉄道が横切っているなら、
その下を水がどのように抜けるのか
を確認します。
坂だけを見るのではなく、坂のさらに先を見ることが重要です。
洪水ハザードマップが白でも内水を確認する
候補地の近くに川がなく、洪水ハザードマップにも色がない場合があります。
それは重要な情報です。
ただし、そのまま「大雨でも浸水しない」とは判断しません。
洪水と内水は別の現象だからです。
洪水浸水想定は、対象となる河川が氾濫した場合の浸水を示します。
一方、内水は地域に降った雨を下水道・側溝などで排水できなくなったときに発生します。
坂の一番下で心配している、
「上から雨水が道路を流れてくる」
という問題は、内水側の確認が重要になります。
自治体が内水ハザードマップや雨水出水浸水想定区域図を公表している場合は、洪水とは別に確認します。
内水ハザードマップも「色がない=絶対安全」ではない
内水ハザードマップに色が付いていれば、その土地を詳しく調べる理由になります。
一方、色がないからといって、そこで確認を終える必要もありません。
内水浸水想定は、一定の降雨条件、地形、排水施設などを使って作られます。
国土交通省の作成手引きでも、
局所的なくぼ地。
隣接地域との高さ関係。
盛土構造。
排水管・ポンプ等の能力。
放流先の状況。
過去の浸水実績。
などを調査対象にしています。
土地購入では、地図の色と現地の微細な高低差を重ねて見ます。
候補地前だけ明らかに道路が下がっているなど、現地で気になる特徴があるなら、その違和感は残しておきます。
地理院地図では「坂の上からその先」まで断面図を引く
坂下の土地を確認するなら、地理院地図の断面図が使えます。
候補地だけの標高を見るのではありません。
例えば、
坂の上
↓
候補地
↓
候補地の先
↓
近くの水路・低地
まで線を引きます。
すると、
候補地が本当に最低点なのか。
その先へさらに下がっているのか。
候補地周辺だけ窪んでいるのか。
を大まかに確認できます。
一方向だけでなく、別方向からも断面を取ると、複数の坂から水が集まる場所かも分かりやすくなります。
地理院地図は任意の経路の高低差を断面図として表示できます。
土地の住所だけを見るより、周辺地形を理解しやすくなります。
「一番低い交差点」が候補地の前にないかを見る
坂道の下では、交差点も確認したいところです。
例えば候補地の前が十字路で、
北から下り。
東から下り。
南と西は上り。
という地形なら、交差点自体が道路の最低点になる可能性があります。
道路冠水対策では、周囲に比べて局部的に低い道路へ雨水が集中することが問題になります。
したがって、
土地自体の標高
より先に、
候補地前の道路が周囲の道路網の中で低くなっていないか
を見る意味があります。
坂の底にある交差点の角地なら、土地一筆ではなく交差点全体を見ます。
雨上がりに見るなら「水たまり」以外も見る
候補地を雨の日に確認できると、水の流れが分かりやすくなります。
ただし危険な豪雨時に現地へ行く必要はありません。
安全が確保できる雨上がりなどに、
泥や落ち葉がどこへ集まっているか。
道路のどちら側へ水が流れた跡があるか。
側溝の周囲にごみが集中していないか。
候補地前だけ水が残っていないか。
擁壁下などが極端に湿っていないか。
を見ると、晴天時には分からない情報があります。
さらに周辺住宅に、
止水板。
土のうを置く場所。
道路から高くした玄関。
高く造成された宅盤。
が多ければ、なぜそのような対策になっているのか聞いてみる材料になります。
過去の道路冠水を住所だけでなく周辺道路まで調べる
自治体や道路管理者によっては、過去の浸水実績や道路冠水想定箇所を公開しています。
例えば愛知県では、道路・鉄道の下など局部的に低くなった箇所を中心に「道路冠水想定箇所マップ」を公開しています。
ただし県も、マップに掲載された箇所以外で冠水する場合があると注意しています。
そのため、
候補地が掲載されていない
=
冠水しない
とは判断しません。
購入予定地だけでなく、
住宅地の出口。
駅・学校へ向かう道路。
主要道路へ出る経路。
アンダーパス。
なども確認します。
家が浸水しなくても、周辺道路が冠水すれば生活には影響します。
坂下でも購入を検討しやすいケース
坂の一番下にあるという理由だけで候補から外す必要はありません。
例えば、
候補地は見た目の坂下だが、その先へさらに土地が下がっている。
候補地前が局所的なくぼ地ではない。
敷地が道路より高い。
雨水の排水経路が確認できる。
内水・洪水の想定に大きな懸念がない。
過去の浸水情報も見当たらない。
といった条件なら、坂下という名称だけで購入を避ける理由は小さくなります。
一方で、
複数方向の坂が候補地前へ向かっている。
道路が候補地前で下りから上りへ変わる。
敷地が道路より低い。
側溝や排水先に余裕があるか確認できない。
内水想定や過去冠水が重なる。
唯一の生活道路にも低い箇所がある。
という条件が重なるなら、より慎重に確認します。
土地購入前には「坂下」を水のルートに置き換える
最後は、「坂の一番下」という言葉を具体的な水のルートへ変えます。
坂の上の住宅地
↓
道路を流れる雨
↓
候補地前の道路
↓
道路の最も低い地点
↓
側溝・雨水管
↓
排水路
↓
河川などの放流先
このルートが分かれば、
候補地は水の通過点なのか。
候補地前が水の終点なのか。
排水設備が処理できなくなったとき、どちらへあふれるのか。
を考えられます。
土地購入で本当に注意したいのは「坂の一番下」という住所の特徴ではありません。
坂の上から集まる水に対して、候補地の先に出口があるかどうかです。
まとめ
坂の一番下にある土地は、近くに川がなくても大雨時に浸水する可能性があります。
原因になるのは、河川氾濫だけではありません。
坂や周囲の住宅地へ降った雨が道路を流れ、側溝・下水道などで排水しきれず、局所的に低い場所へ集まる内水による浸水があります。
ただし、「坂を下り切った場所」と「水がたまる最低点」は同じとは限りません。
候補地を購入する前には、坂の上から候補地までだけでなく、その先まで地形を見ます。
候補地前が本当の最低点なのか。
さらに低い場所へ水が流れるのか。
側溝から最終的な放流先まで水を出せるのか。
これを確認することで、「坂下だから危険」という判断から、「この土地が水の通り道なのか、水の終点なのか」という土地ごとの判断へ進めます。