ハザードマップで色が付いている土地でも、必ず購入を諦めなければならないわけではありません。
反対に、
「高基礎にすれば大丈夫ですよ」
という住宅会社の一言だけで買うのも早いです。
土地を契約する前に住宅会社へ確認してもらいたいのは、ハザードマップそのものではありません。
その土地に実際に家を計画したとき、道路・敷地・1階床・玄関・設備をどこまで高くでき、雨水をどこへ排水できるのか。
そして、その対策を入れると土地+建物+造成+外構の総額がいくらになるのか。
ここまで分かってから土地を買うのが、水害リスクのある土地での判断順序です。
重要事項説明を待たず、土地の申込み前に相談する
土地の売買では、水防法に基づく洪水・雨水出水・高潮ハザードマップ上の物件位置が重要事項説明の対象になっています。
ただし、そこで示されるのは基本的に「この土地が地図上のどこにあるか」です。
「この土地にあなたが希望する家を建てた場合、1階床まで何cm余裕があるか」
まで宅建業者が設計してくれる制度ではありません。 (長野県公式ウェブサイト)
そのため、土地をほぼ買うと決めてから住宅会社へ持っていくのではなく、候補になった段階で相談します。
理想は、売買契約を結ぶ前です。
購入後に、
「道路より土地が低かった」
「十分な盛土をすると駐車場が急勾配になる」
「雨水の放流先が難しい」
「希望する建物高さが取れない」
と分かっても、土地そのものは簡単には変えられません。
最初に住宅会社へ渡すのは住所だけではない
候補地を相談するときは、住所だけ伝えて、
「ここ、どうですか?」
と聞くより、判断材料をまとめて渡した方が話が進みます。
最低限、
候補地の住所・地番。
販売図面。
洪水・内水・高潮など該当するハザードマップ。
前面道路と敷地が一緒に写る写真。
近くの側溝・水路・雨水桝の写真。
分かれば過去の浸水履歴。
を用意します。
住宅会社側にも現地を見てもらい、道路、隣地、敷地の高低差を確認してもらうのが理想です。
住宅会社の記事でも、土地購入前にハザード情報だけでなく、道路・敷地の高低差や側溝、水路、過去浸水を確認する必要性が共通して挙げられています。 (太陽ハウジング)
「浸水深○m」から1階床までの高さへ置き換えてもらう
ハザードマップで「0.5~3m」などと表示されても、それだけでは家の設計は決まりません。
国土地理院によると、表示される浸水深は、その地点のおおよその地盤面からの深さです。 (ハザードマップポータル)
そこで住宅会社には、
現在の道路面。
現在の敷地高。
造成後の計画地盤高。
基礎天端。
1階床。
玄関の下端。
掃き出し窓など低い開口部。
を高さの分かる断面で示してもらいます。
その上に、検討対象とする浸水ラインを重ねます。
これで初めて、
「ハザードマップでは浸水区域だけれど、1階床はそれより上へ計画できる」
のか、
「床を高くしても玄関や設備が先に浸かる」
のかが見えてきます。
「高基礎にできますか」ではなく、何cm上げられるか聞く
高基礎は水害対策としてよく出てくる方法です。
しかし「高基礎対応できます」だけでは土地購入の判断には足りません。
聞きたいのは、
「この敷地、この建物プランで、1階床を通常より実際に何cm上げられますか」
です。
床を高くすると、玄関までの段差が増えます。
階段やスロープが長くなり、駐車場や庭の面積に影響することもあります。
さらに建物高さに関する制限や希望する間取りとの調整も必要になります。住宅会社の解説でも、高基礎・床上げはバリアフリー性や建物高さとの調整が必要とされています。 (福井の注文住宅・工務店ノークホームズ)
つまり「高くできるか」ではなく、「希望プランを崩さずどこまで高くできるか」が境界です。
盛土は「何cm盛ればよいか」だけで判断しない
敷地全体を盛土して高くする方法もあります。
建物だけでなく駐車場や庭も高くできるため、有効なケースがあります。
ただし、盛土すればすべて解決するわけではありません。
道路との段差。
隣地との高低差。
擁壁。
車の出入り。
雨水の流れる方向。
地盤への影響。
こうした条件が変わります。
また、規制区域内で一定規模以上の盛土等を行う場合は、盛土規制法による許可が必要になる場合があります。 (国土交通省)
住宅会社には、
「この土地で水害対策として盛土するなら、現実的には何cmまでか」
「擁壁や造成工事は必要か」
「行政協議・許可の対象になるか」
「造成費まで含めていくらか」
を購入前に見てもらいます。
「土地が安いけれど、盛土と擁壁で数百万円追加になる」なら、別の少し高い土地を買った方が総額で有利になることもあります。
駐車場が家より低くなりすぎないかも見る
床を高くすると、住宅そのものは守りやすくなります。
しかし車は地面に置きます。
建物を高くした結果、道路と建物の間にある駐車場が低い皿のような形になると、大雨時に水が集まりやすくなることがあります。
そこで住宅会社には建物断面だけではなく、
道路。
駐車場。
玄関。
建物周囲。
まで含めて高さを出してもらいます。
水害対策としては、
「家の床が高い」
だけではなく、
「道路から流れ込んだ水が家や車へ集まらない」
外構計画まで必要です。
雨水が最終的にどこへ行くか確認してもらう
土地購入前に見落としやすいのが雨水の出口です。
屋根。
駐車場。
庭。
これらに降った雨を集めても、その先へ流せなければ敷地内に水が残ります。
住宅会社には、
雨どいからどこへ流すのか。
駐車場の表面水をどこで集めるのか。
雨水桝から先はどこへつながるのか。
道路側溝・雨水管へ接続できるのか。
敷地内浸透なのか。
まで調べてもらいます。
岡崎市の排水設備指針でも、雨水排水については排水先の管理者へ排水方法を協議し、排水施設の位置や敷地地形等を考慮して経路を決める考え方が示されています。 (岡崎市ホームページ)
「側溝が目の前にあるから、そこへ流せるでしょう」と自己判断しないことが重要です。
道路から水が入る土地かも断面で確認する
自分の敷地に降った雨だけ処理できればよいわけではありません。
道路の方が高ければ、道路冠水時に水が敷地へ流れ込むことがあります。
候補地を見るときは、
敷地が道路より何cm高い・低いのか。
道路から玄関へ向かって下っていないか。
駐車場が道路水の入口にならないか。
を住宅会社に確認してもらいます。
ここで問題があれば、
道路境界のかさ上げ。
横断排水溝。
止水板。
建物配置変更。
などを仮プランへ入れます。
「道路より低いですが家だけ高くします」で終わらせないことが大切です。
玄関だけでなく外壁の低い開口部まで見てもらう
水は玄関からだけ入るとは限りません。
換気口。
床下につながる開口。
勝手口。
掃き出し窓。
ガレージ。
こうした場所も浸水経路になります。
国交省・経産省の浸水対策ガイドラインでも、設定浸水深を踏まえて床等を嵩上げし、換気口などの開口部を高い位置へ設ける考え方が示されています。
住宅会社には、
「想定する水位より下に外部へ開いた穴が何か残りますか」
と聞くと分かりやすくなります。
玄関だけ止水しても、別の低い開口から入れば意味が薄くなります。
分電盤・給湯器・室外機も同じ図面で見る
床上浸水を完全に防げなくても、設備を守れば被害を小さくできる場合があります。
確認したいのは、
分電盤。
蓄電池。
太陽光パワコン。
給湯器。
エアコン室外機。
EV充電設備。
などです。
国交省・経産省は、浸水リスクの低い場所への電気設備配置や、設置場所自体の嵩上げを対策として示しています。
土地購入前なら、住宅会社へ、
「想定浸水より上へ移せない設備はありますか」
と聞いておきます。
建物完成後に配線や配管を変更して高所へ移すより、最初から設計へ入れる方が検討しやすいからです。
家屋倒壊等氾濫想定区域なら「高くすればよい」で終わらせない
水害対策というと浸水深ばかり見がちですが、河川の近くでは家屋倒壊等氾濫想定区域も確認します。
この区域は、激しい氾濫流や河岸侵食によって家屋が倒壊・流失するおそれを示すものです。 (国土交通省道路情報提供システム)
この条件なら、
「1階床を1m上げれば浸水しない」
という話だけではありません。
土地そのものを候補から外すべきかも含めて、住宅会社と慎重に検討する地点です。
建物側の対策で吸収しやすい「浅い浸水」と、土地の位置そのものを重く見るべきリスクを分けます。
過去の浸水実績も住宅会社に見てもらう
ハザードマップと過去の実績が一致するとは限りません。
自治体によっては、過去の豪雨による浸水実績図を公開しています。
たとえば岡崎市は、宅地被害報告等をもとに浸水実績図を公開しています。ただし、個々の土地の浸水深を示すものではなく、雨の降り方や排水施設、土地の嵩上げによって状況は変わると注意しています。 (岡崎市ホームページ)
過去に周辺道路が何度も冠水しているなら、
「ハザードマップでは浅いから大丈夫」
で終わらせず、内水と排水能力の問題を住宅会社へ伝えます。
土地を見る日が選べるなら、大雨の後に現地を見るのも判断材料になります。
特定都市河川流域なら雨水の規制も確認する
地域によっては、建物・駐車場を造ることで雨水が地中へしみ込みにくくなる行為に規制があります。
たとえば愛知県の新川流域や境川・猿渡川流域では、500㎡以上の雨水浸透阻害行為について許可と雨水貯留浸透施設が必要です。 (愛知県公式サイト)
全国すべての住宅地にこの500㎡基準が適用されるわけではありません。
重要なのは、
「この土地では雨水対策に関する地域独自の規制がありますか」
まで住宅会社や行政へ確認することです。
土地を購入してから「予定していなかった貯留施設が必要」と分かれば、配置や予算へ影響します。
最終的には「買えるか」を3段階で答えてもらう
住宅会社へ相談した結果が、
「まあ大丈夫だと思います」
では弱いです。
購入前に求めたいのは、次の3つのどれかです。
対策なしでも希望プランで建てやすい土地。
盛土・高基礎・排水・設備高所化などを追加すれば建てられる土地。
対策費や設計制約が大きく、この家族の希望では見送った方がよい土地。
この3段階まで住宅会社に意見を出してもらうと、土地価格だけでは見えなかった比較ができます。
特に2番目なら、土地を契約する前に追加費用も概算へ入れてもらいます。
住宅会社には「断面図+追加費用」で答えてもらう
候補地を本気で検討する段階なら、住宅会社へ次のように依頼すると話が具体的になります。
「この土地を契約する前に、水害を考えた仮プランを見たいです。洪水・内水等の想定浸水を確認し、前面道路、現況地盤、計画地盤、1階床、玄関や掃き出し窓、主要設備の高さを断面で示してください。雨水の最終排水先と道路から水が入る可能性も確認してください。必要なら盛土・高基礎・止水・排水設備まで入れ、追加費用と法令・行政協議の有無も含めて、この土地を買うべきか意見をください。」
ここまで答えが出れば、
「ハザードマップで色が付いているから怖い」
という漠然とした状態から、
「この土地なら○○の対策が必要で、総額○○円になる」
という購入判断へ変わります。
土地購入前の住宅会社相談は「安全宣言」をもらうためではない
自然災害に対して、
「絶対に浸水しません」
と保証できる土地や住宅はありません。
住宅会社へ相談する目的は、安全宣言をもらうことではありません。
この土地にはどんな水害が想定されるのか。
その水位に対して家をどこまで高くできるのか。
建物を高くした結果、駐車場や排水に別の弱点が生まれないか。
設備や開口部まで守れるか。
その対策にいくらかかるのか。
そして、それでも残るリスクを自分が受け入れられるか。
ここまで購入前に見えるようにすることです。
土地を先に買い、残った条件で住宅会社に何とかしてもらうのではありません。
住宅会社に仮の家を一度その土地へ置いてもらい、それでも買いたい土地かを見る。
これが、水害リスクのある土地を購入する前に住宅会社へ相談する一番大きな意味です。