水害リスクのある土地では、住宅会社から「盛土しましょう」「高基礎にしましょう」「床を高くしましょう」と複数の方法を提案されることがあります。
このとき、見積金額だけを並べても正しく比較できません。
最初に「1階床をどの高さまで上げるか」を同じ条件にそろえ、その高さを盛土で作る案、高基礎で作る案、別の床高変更で作る案を出してもらいます。
そのうえで、造成・基礎だけではなく、地盤改良、擁壁、玄関階段、駐車場、排水、設備移設、設計・申請まで含めた総額を見る。
これが、水害対策として3案を比較するときの基本です。
まず「何cm上げるか」を3案で統一する
見積もりを依頼する前に決めたいのが、目標となる1階床の高さです。
たとえば住宅会社と検討した結果、
「計画する1階床を、この土地の現況地盤より80cm高くしたい」
と決めたとします。
この80cmを、
敷地を盛土して上げるのか。
地盤はそのままで高基礎によって上げるのか。
盛土と高基礎を組み合わせるのか。
住宅会社が別の床高変更方法を持っているのか。
という同じゴールで比較します。
「盛土50cm案」と「高基礎80cm案」を価格だけ比べても、水害への余裕が違うため比較になりません。
「床高を上げる案」は工事内容を具体化してもらう
見積書に「床高変更」とだけ書かれていたら、その中身を確認します。
高基礎そのものが、基礎立上りを高くして床位置を上げる方法です。
そのため、
「高基礎案」
と
「床高アップ案」
が本当に別工法なのかは、住宅会社によって違います。
床組を変更するのか。
基礎も高くするのか。
建物全体の高さが上がるのか。
玄関だけ別レベルになるのか。
まず構造を説明してもらいます。
「床を30cm高くする 一式○万円」ではなく、どの部材・構造が標準仕様から変わるのかまで明細にしてもらう方が比較しやすくなります。
盛土案では「土代」より擁壁と排水を見る
盛土というと、土を運んで敷地へ入れる費用を想像しやすいでしょう。
しかし、実際の造成ではそれ以外の工事が大きくなることがあります。
確認したいのは、
盛土材の搬入。
敷き均し・転圧。
既存土の掘削や残土処分。
擁壁・土留め。
地盤調査と必要な地盤改良。
敷地周囲の排水。
道路・隣地との高さ調整。
造成設計。
必要な行政手続。
です。
特に敷地を上げたことで隣地との間に高低差が生まれれば、擁壁が必要になることがあります。
造成の行政資料でも、擁壁だけでなく計画地盤高、排水管の勾配、雨水桝、放流先、土量まで設計対象になります。
盛土案を見るときは「盛土工事○万円」ではなく、その盛土によって新たに必要になった工事まで拾います。
盛土すると地盤改良費まで変わる可能性がある
盛土は重量があります。
もともとの地盤条件によっては、盛土後の地盤を前提に基礎・地盤対策を検討する必要があります。
住宅会社の記事でも、軟弱な地盤で盛土を行う場合には沈下への注意が指摘されています。
そのため比較見積もりでは、
「盛土後の計画地盤で地盤調査・地盤補強費はどう変わりますか」
と確認します。
盛土案の造成費が安く見えても、後から地盤改良が増えれば総額は変わります。
逆に高基礎案なら造成量を抑えられ、擁壁や盛土量を小さくできる土地もあります。
土地の形によって有利な案が変わる部分です。
高基礎案はコンクリート代だけで見ない
高基礎にすると、通常より基礎立上り部分が高くなります。
そのため基礎本体では、コンクリート、鉄筋、型枠などが増える可能性があります。
しかし、見積もりでさらに重要なのが周辺工事です。
床が高くなれば玄関も高くなります。
玄関ポーチの段数が増える。
外階段が長くなる。
スロープを設けるなら必要な距離が長くなる。
勝手口の階段も変わる。
給排水・電気配管の取り回しが変わる。
こうした工事が後から外構見積もりへ追加される場合があります。
高基礎の価格を比較するときは、
「基礎追加分だけですか。それとも玄関ポーチ・階段・外構変更まで含んでいますか」
と確認します。
盛土と高基礎では「守れる範囲」が違う
同じ1階床高さを作れても、盛土と高基礎では周囲の高さが違います。
敷地全体を盛土する案なら、建物だけでなく玄関周りや庭、条件によっては駐車場も高くできます。
高基礎だけなら、建物の床は高くなりますが、庭や駐車場の地盤高さは基本的に変わりません。
そのため、
家は床上浸水しにくくなった。
しかし駐車場は従来の高さなので車は水没する。
給湯器や室外機が低いまま残る。
玄関へのアプローチに水がたまる。
ということも考えられます。
水害対策費を比較するなら、「1階床を守る費用」なのか「敷地・設備まで守る費用」なのかをそろえます。
住宅会社には3案とも同じ断面図を作ってもらう
金額の前に、断面図を比べると分かりやすくなります。
3案それぞれに、
前面道路の高さ。
現況地盤。
造成後の地盤。
基礎天端。
1階床。
玄関。
掃き出し窓。
駐車場。
想定する浸水ライン。
を入れてもらいます。
すると、
盛土案では敷地全体が上がる。
高基礎案では地盤は同じで建物だけ上がる。
併用案では地盤と基礎を少しずつ上げる。
という違いが一目で分かります。
「○○工事 一式」の見積書より、この断面図とセットで比べる方が水害対策としての価値を判断できます。
玄関階段とスロープは別項目にしてもらう
床が高くなるほど、日常生活への影響が大きくなるのが玄関です。
若いうちは階段が数段増えても問題なくても、将来の生活を考えてスロープを希望する場合があります。
ところが高低差が大きいほど、緩いスロープには長い距離が必要になります。
敷地が狭ければ、駐車場や庭の配置まで変わる可能性があります。
そのため3案の見積もりには、
玄関階段。
手すり。
スロープ。
玄関ポーチ。
アプローチ。
を別項目で入れてもらいます。
水害対策だけなら高基礎が安く見えても、外構まで入れると差が縮まる可能性があります。
駐車場の高さと勾配も3案で比較する
盛土案と高基礎案で見落としやすいのが駐車場です。
敷地全体を高くすると、前面道路との高低差が大きくなります。
すると車の乗り入れ勾配が急になる場合があります。
反対に建物だけ高基礎にすると、駐車場は道路と合わせやすい一方、住宅との高低差が大きくなります。
そこで、
駐車場入口。
駐車位置。
住宅側。
道路。
の高さと勾配を3案とも出してもらいます。
「床上浸水には強くなったが、駐車場へ水が集まる」という案にしないことが重要です。
排水設備は盛土・高基礎とは別枠で比較する
敷地を高くしても、雨水の出口は必要です。
屋根。
駐車場。
庭。
そこへ降った水がどこへ流れるのか確認します。
盛土によって敷地高を変えると、既存の雨水桝や道路側溝との高さ関係も変わります。
造成に関する自治体資料でも、排水計画には計画地盤高、管径、勾配、水の流れ、雨水桝、吐口、放流先などが含まれます。
したがって見積書では、
雨水桝。
排水管。
側溝。
集水溝。
浸透施設。
必要ならポンプ。
を造成・基礎とは別項目にします。
盛土案だけ排水工事を含み、高基礎案には入っていない状態では比較になりません。
盛土案では許可・設計・検査費も確認する
盛土規制法では、都道府県等が指定する規制区域内で一定規模以上の盛土等を行う場合、許可が必要です。
すべての住宅の盛土に許可が必要という意味ではありません。
区域や工事規模によって変わります。
そのため住宅会社には、
「この盛土量・高さで盛土規制法その他の許可や届出は必要ですか」
と確認します。
必要であれば、
測量。
造成設計。
申請図面。
構造計算。
申請手数料。
検査対応。
などの費用も盛土案へ入れます。
高基礎案と比較するときに、こうした設計・行政費だけ盛土案から抜けていると後で価格差が広がります。
高さ制限に影響しないかも確認する
床を上げれば、住宅全体の高さにも影響する場合があります。
敷地条件によっては道路斜線、北側斜線、高さ制限などとの調整が必要です。
その結果、
屋根形状を変更する。
天井高さを調整する。
建物位置を変更する。
希望していた2階プランを変える。
といった設計変更が発生する可能性があります。
見積もり段階で、
「この高さまで床を上げても、現在の間取り・屋根形状のまま建築できますか」
と確認します。
金額は同じでも、希望プランを維持できる案とできない案では価値が違います。
設備の高さも3案で統一する
床だけ高くして、設備が地面付近に残っていたら被害は残ります。
エアコン室外機。
給湯器。
蓄電池。
太陽光パワコン。
EV充電設備。
分電盤。
こうした設備をどこまで高くするかも3案で条件をそろえます。
たとえば、
「想定浸水ラインより上へ設置する」
という条件に統一します。
盛土案なら自然に設備位置も上がることがあります。
高基礎案では設備架台や配管延長が別途必要になるかもしれません。
この費用も「水害対策総額」に含めます。
3案比較は「本体追加額」ではなく総額を見る
住宅会社へ比較を依頼するときは、次のような形にすると分かりやすくなります。
| 比較項目 | 盛土案 | 高基礎案 | 床高変更・併用案 |
|---|---|---|---|
| 目標1階床高 | 同じ | 同じ | 同じ |
| 盛土・造成 | ○ | ―または小 | 条件による |
| 基礎追加 | 標準中心 | 大きい | 条件による |
| 地盤改良 | 要確認 | 要確認 | 要確認 |
| 擁壁・土留め | 要確認 | 少ない場合あり | 要確認 |
| 排水設備 | 必須確認 | 必須確認 | 必須確認 |
| 玄関階段・ポーチ | 要確認 | 増えやすい | 要確認 |
| 駐車場勾配 | 要確認 | 要確認 | 要確認 |
| 設備高所化 | 要確認 | 別途になりやすい | 要確認 |
| 設計・申請費 | 盛土規模等で発生 | 構造変更で確認 | 内容次第 |
| 希望間取りへの影響 | 要確認 | 要確認 | 要確認 |
| 水害対策総額 | ○円 | ○円 | ○円 |
住宅会社ごとに標準仕様が違うため、金額そのものは実見積もりで確認します。
重要なのは、3案すべてに同じ項目を入れることです。
「一式」が多い見積もりは分解してもらう
比較を難しくするのが、
「造成工事一式」
「高基礎変更一式」
「外構追加一式」
という表記です。
このままでは、どこまで含まれているか分かりません。
たとえば造成工事なら、
盛土材。
運搬。
転圧。
残土処分。
擁壁。
排水。
地盤改良。
申請。
まで含まれているのか確認します。
高基礎なら、
コンクリート。
鉄筋。
型枠。
構造変更。
玄関ポーチ。
階段。
外壁仕上げ。
設備配管。
まで確認します。
価格交渉のためというより、3案の比較条件をそろえるための分解です。
一番安い案ではなく「追加1cm当たり」でも考える
水害対策では、安いことだけが正解ではありません。
たとえば、
50万円追加して床を20cm上げる案。
100万円追加して床を60cm上げる案。
では、追加費用だけ見れば前者が安いですが、得られる高さが違います。
住宅会社には、
「標準仕様から追加○万円で、計画床高が何cm上がるのか」
も出してもらいます。
これで、
どこから費用が急増するのか。
高基礎だけで上げる方が有利なのは何cmまでか。
そこから先は盛土との併用が合理的なのか。
という境界が見えてきます。
盛土と高基礎の併用案も必ず出してもらう
盛土か高基礎かの二択とは限りません。
実際には、
敷地を30cm上げる。
基礎を標準より30cm高くする。
合計60cm床を上げる。
という組み合わせも考えられます。
併用することで、
盛土量を減らす。
擁壁を小さくする。
高基礎を極端に高くしない。
玄関階段を増やしすぎない。
駐車場勾配を確保する。
といったバランスを取れる場合があります。
水害対策の見積もりでは、盛土100%案、高基礎100%案だけでなく、併用案まで出してもらう価値があります。
見積もり依頼は「同じ完成高さ」で出してもらう
住宅会社へは、次のように依頼すると比較しやすくなります。
「水害対策として目標にする1階床高さをまず決めたいです。その同じ床高さを、①盛土中心、②高基礎中心、③盛土と高基礎等の併用の3案で比較してください。建物本体だけでなく、地盤改良、擁壁、排水、玄関階段・スロープ、駐車場勾配、設備の高所化、設計・申請まで含めた総額を出してください。各案の道路・地盤・1階床・浸水想定ラインが分かる断面図も付けてください。」
この形なら、単なる価格表ではなく、
「同じ水害対策をいくらで実現できるか」
を比較できます。
盛土・高基礎・床高の比較は「床を上げた後に何が増えるか」を見る
盛土は、建物だけでなく敷地全体を高くできる代わりに、土量、擁壁、排水、地盤、許認可の影響が大きくなることがあります。
高基礎は、造成を抑えて建物床を上げやすい一方、玄関階段、アプローチ、設備、基礎材料などが増えます。
「床高を上げる」という提案は、その具体的な工法を確認しない限り比較できません。
だから見積もりで見るのは、
盛土が何円。
高基礎が何円。
ではありません。
同じ床高さを作った結果、
家。
庭。
駐車場。
排水。
設備。
玄関。
法令手続。
まで含めて、最終的にいくらになるかです。
水害対策の比較見積もりでは、安い工事を探すのではなく、同じ安全高さを最も少ない副作用と総費用で作れる方法を探す。
ここが、盛土・高基礎・床高を住宅会社に比較してもらうときの判断線です。
出典
住宅生産団体連合会「ガイドライン等」 / 国土交通省「盛土規制法の概要」 / 愛知県「盛土規制法における許可申請等の手続」 / 瀬戸市「宅地造成許可申請書添付書類一覧」 / パナソニック ホームズ「水害に強い注文住宅」 / DAIKEN「高基礎」