土地を購入する前には、洪水や内水のハザードマップを確認する人が増えています。
では、ハザードマップを確認すれば、水害についての調査は終わりでしょうか。
もう一つ確認しておきたいのが、過去の浸水実績です。
ハザードマップは、一定の条件で洪水・内水・高潮などが発生した場合に、どこまで浸水する可能性があるかを想定した情報です。
一方、浸水実績は、
「実際の大雨で、過去にどこまで水が来たのか」
を示す情報です。
ただし、
過去に浸水した
=
現在も同じように浸水する
でもありません。
過去に浸水していない
=
これからも浸水しない
でもありません。
土地購入前には、ハザードマップと浸水実績のどちらかを選ぶのではなく、2つを重ねます。
そして、結果が違ったときに、
「なぜ違うのか」
を一段調べることが重要です。
ハザードマップと浸水実績は見ている時間が違う
最初に2つを分けます。
洪水ハザードマップなどの浸水想定は、想定される降雨や河川条件等を使って、将来起こり得る浸水範囲・浸水深などを計算したものです。
一方、浸水実績図は、過去に実際に起きた豪雨等の被害情報から、浸水した範囲をまとめたものです。
つまり、
ハザードマップ
→これから起こり得る水害を見る
浸水実績
→これまで実際に起きた水害を見る
という違いがあります。
どちらか一方が正しく、もう一方が不正確という関係ではありません。
時間と役割が違います。
過去の浸水実績を見る一番の意味は「本当に水が来た場所」を知ること
ハザードマップは計算による想定です。
浸水実績には、
この豪雨ではここまで水が来た。
この道路が浸水した。
この地域で宅地浸水が発生した。
という実際の結果があります。
特に土地購入では、
洪水ハザードでは目立たない。
しかし過去に道路冠水や内水浸水が何度か起きている。
という場所を見つける材料になります。
例えば愛知県は、伊勢湾台風、東海豪雨、平成20年8月豪雨、令和5年6月豪雨などの浸水実績を「マップあいち」で公開しています。
名古屋市や岡崎市など、独自に過去の浸水実績図を公開している自治体もあります。
候補地が決まったら、ハザードマップとは別に「市町村名+浸水実績」「市町村名+浸水履歴」でも調べます。
ただし浸水実績図に色がなければ「過去に一度も浸水していない」ではない
ここは特に注意したいところです。
浸水実績図は、その地域で起きたすべての浸水を完全に記録した地図とは限りません。
愛知県の浸水実績図も、水害統計調査など発生後に把握できた情報を基に「概ねの浸水範囲」を示したものであり、すべての浸水実績を反映しているわけではないとしています。
国交省の「不動産情報ライブラリ」に掲載された災害履歴も、原典資料の作成時点で収集できた情報が対象で、調査地域のすべての災害を網羅するものではありません。
したがって、
浸水実績図が白い
↓
過去に一度も水が来ていない
とは読みません。
正しくは、
「確認した資料には浸水実績が掲載されていない」
です。
この違いは大きいです。
「過去に浸水した+今のハザードにも色がある」なら理由を確認する
購入候補地について、
過去の浸水実績
→あり
現在の洪水・内水ハザード
→浸水想定あり
なら、水害について詳しく確認する理由が重なっています。
ただし、それだけで購入をやめる必要はありません。
次に見るのは、
過去の水害は何年だったのか。
洪水だったのか、内水だったのか。
当時どの程度の雨だったのか。
どの程度浸水したのか。
その後、河川・下水道・排水施設は改修されたのか。
候補地自体が造成・嵩上げされたのか。
です。
「昔も浸水、今もハザード区域」
という情報を、現在の土地条件までつなげます。
「過去に浸水した+今のハザードは白」が最も調べる価値がある
土地購入前に特に理由を調べたいのが、このパターンです。
過去の浸水実績図には色がある。
ところが現在の洪水ハザードマップは白い。
一見すると矛盾しているように見えます。
しかし、いくつか理由が考えられます。
過去の浸水原因が、今見ている洪水ハザードの対象河川ではなかった。
小さな水路や支川からあふれた。
内水氾濫だった。
その後に河川・下水道・排水施設が整備された。
土地が造成され高くなった。
過去の浸水実績図が概略的な範囲表示だった。
などです。
この場合、
「昔浸水したから現在のハザードマップは間違い」
とも、
「現在は白だから昔の浸水は気にしなくてよい」
とも判断しません。
まず洪水・内水・高潮など、見ているハザードの種類を変えます。
その後、過去の水害原因と現在までの整備を調べます。
2つの地図が違うところこそ、追加調査する場所です。
洪水ハザードが白でも過去に内水浸水していることがある
例えば、大きな河川の氾濫を示す洪水ハザードマップでは候補地に色がない。
それでも過去の集中豪雨で、候補地周辺の道路や住宅が浸水していた。
この場合、河川洪水ではなく内水を疑います。
短時間に大量の雨が降ると、
側溝。
下水道。
排水路。
ポンプ。
などで雨を処理できなくなり、地域の低い場所へ水が集まることがあります。
このタイプの浸水なら、大きな川から離れていても起こります。
洪水ハザードと浸水実績が合わなければ、自治体の内水ハザードマップや雨水出水浸水想定区域図がないか確認します。
小さな水路が原因なら洪水ハザードだけでは拾えない場合がある
過去の浸水原因が小河川・水路だった場合もあります。
現在は中小河川まで洪水浸水想定区域の整備対象が拡大していますが、すべての水路の氾濫が一つの洪水ハザードマップに含まれているわけではありません。
そのため候補地周辺に、
小さな川。
普通河川。
農業用排水路。
雨水排水路。
などがあれば、その水路自体が見ているハザード計算の対象なのかを確認します。
「洪水ハザードは白なのに浸水実績あり」という土地では、水路や内水まで見ると理由が見えてくる場合があります。
「過去の浸水実績なし+ハザードマップに色あり」も矛盾ではない
反対のパターンもあります。
確認できる過去の浸水実績はない。
しかし洪水ハザードマップでは1m、3mなどの浸水が想定されている。
この場合、
「実際には一度も浸水していないのだからハザードマップは大げさ」
とは考えない方がよいでしょう。
過去の記録期間中に、ハザードマップが想定する規模の洪水がその場所で発生していないだけかもしれません。
浸水実績は、実際に起きた雨・台風の範囲でしか確認できません。
一方、ハザードマップは過去にその地点で実際に起きたかどうかとは別に、想定条件から将来の浸水可能性を示します。
「経験していない」と「起こらない」は違います。
この場合は現在のハザード情報を重視し、建物・避難・保険などを検討します。
「両方とも白」でも水害ゼロとは決めない
過去の浸水実績図にも色なし。
現在の洪水ハザードにも色なし。
これは土地購入にはプラス材料です。
ただし、「水害リスクゼロ」とまでは判断しません。
過去の実績図には、すべての浸水が記録されているとは限りません。
ハザードマップも、図によって対象となる河川・現象・想定条件が違います。
さらに、
内水。
小さな水路。
道路冠水。
局所的なくぼ地。
想定を超える降雨。
などを別に確認する意味があります。
土地そのものが道路より低い、坂の一番下にある、水路がすぐ横にあるといった現地条件があるなら、地図が2枚とも白でも、その違和感を消さずに調べます。
過去の浸水実績は「何年前か」を必ず見る
浸水実績を見つけたら、発生した年月も確認します。
例えば30年前の水害と3年前の水害では、その後の地域の変化量が違う可能性があります。
水害後に、
河川改修。
堤防整備。
雨水管整備。
ポンプ場整備。
調整池。
道路排水の改良。
などが行われている場合があります。
反対に、
昔は農地だった場所が宅地化。
舗装面が増加。
周辺の雨水流出が増加。
といった変化もあります。
過去の浸水履歴は、現在までの整備や土地利用変化とセットで見ます。
「浸水範囲」だけでなく当時の雨量も見る
例えば、
2000年に浸水した。
2023年にも浸水した。
という2つの履歴があったとします。
これだけでも重要ですが、さらに当時の雨の規模を見ると意味が変わります。
非常にまれな記録的豪雨で1度だけ浸水した土地と、
比較的短い期間に複数回、周辺道路が浸水している土地
では購入判断で見るポイントが違います。
自治体の浸水実績資料には、雨量データが併記されている場合があります。
名古屋市も、各浸水実績図と合わせて浸水被害時の雨量観測所データを公開しています。
浸水したという結果だけでなく、どのような雨だったのかを確認します。
過去の浸水実績図は一筆の土地まで正確とは限らない
浸水実績図を見ると、候補地の区画まで色が重なっているように見えることがあります。
しかし、その色を、
「この土地は床上○cmまで浸水した」
という一筆単位の証明としては使えません。
例えば岡崎市は、浸水実績図について、各豪雨時の宅地被害報告などから周辺道路の高さに応じて大まかな浸水範囲を着色したものであり、個々の土地の浸水有無や浸水深を示すものではないと明記しています。
愛知県の実績図も「概ねの浸水範囲」です。
候補地が境界付近にある場合などは、
実績図に色がある
↓
この一筆が確実に浸水した
とはせず、自治体へ確認できる情報がないか問い合わせます。
不動産会社からハザードマップの説明を受けても自分でも浸水実績を見る
2020年8月から、不動産取引では、水防法に基づく洪水・内水・高潮ハザードマップにおける対象物件の所在地を説明することが重要事項説明に追加されています。
しかし、ここで全国一律に求められているのは、水防法に基づく水害ハザードマップ上で物件の概ねの位置を示すことです。
国土交通省も、浸水想定区域に該当しないことをもって、水害リスクがないと誤認させないよう求めています。
土地購入者側でも、現在のハザードマップに加えて過去の浸水実績を確認しておく意味があります。
重要事項説明を受ける段階より前、購入候補を比較している段階で見ておく方が土地選びに使いやすくなります。
2025年から不動産情報ライブラリでも災害履歴を重ねられる
過去の災害を調べる方法として、2025年12月から便利になったのが国土交通省の「不動産情報ライブラリ」です。
不動産情報ライブラリでは、
洪水浸水想定区域。
土砂災害警戒区域。
地価。
都市計画。
などの情報とともに、水害・土砂災害・地震災害の「災害履歴」を地図上で重ねて表示できます。
土地探しでは、
現在の洪水浸水想定
+
過去の水害履歴
を同じ地図上で比較できます。
ただし、この災害履歴についてもすべての災害を掲載しているわけではありません。
これだけで検索を終えず、都道府県・市町村独自の浸水実績資料も確認します。
愛知県なら「マップあいち」も確認する
愛知県で土地を探す場合は、県の浸水実績図を確認できます。
愛知県は「マップあいち(水害情報マップ)」で、過去の複数の水害について浸水実績を公開しています。
確認できるものには、
伊勢湾台風。
昭和46年8月豪雨。
昭和49年6月・7月豪雨。
平成3年9月台風18号。
平成12年9月東海豪雨。
平成20年8月豪雨。
令和5年6月豪雨。
などがあります。
候補地を検索し、複数の災害を切り替えて見ると、
特定の一度だけ浸水している。
複数の豪雨で同じ地域が浸水している。
といった違いも見えてきます。
ただし県の実績図だけでなく、市町村がさらに詳しい資料を持っていないかも確認します。
過去浸水があったら「何が原因だったか」まで聞く
土地購入前の浸水履歴確認で一番重要なのは、
「浸水したことがありますか」
で終わらせないことです。
次に、
何年の豪雨か。
洪水か内水か。
どの川・水路が関係したか。
床上・床下・道路冠水のどれか。
どの程度の範囲だったか。
その後どんな対策工事が行われたか。
を確認します。
同じ「浸水歴あり」でも、
道路だけ数cm冠水した土地
と、
住宅地全体で床上浸水した土地
では意味が大きく違います。
原因と規模まで分けます。
土地そのものだけでなく周辺道路の実績も見る
購入候補地には浸水実績がなくても、その周辺に浸水実績が集中している場合があります。
候補地だけ高くなっている。
道路の反対側だけ低い。
住宅地の入口が低い。
といった場合です。
そのため実績図を見るときは、候補地のピンだけを拡大しすぎず、周囲数百m程度も確認します。
特に、
家から住宅地の出口。
幹線道路。
駅・学校。
避難場所。
までの経路に過去の浸水区域がないかも見ます。
家が浸水しなくても、進入路が水に浸かれば生活への影響があります。
浸水実績が見つかったら現地で「今どうなっているか」を見る
過去に浸水した場所であっても、その後の状態は変わっていることがあります。
現地では、
土地が道路より嵩上げされているか。
周囲の家も高く造成されているか。
側溝・雨水管が新しくなっているか。
調整池・排水ポンプなどが整備されているか。
止水板を設置している家が多いか。
などを見ます。
自治体資料で対策工事を確認し、現地でも現在の状態を見る。
過去と現在をつなげることで、浸水履歴を現在の土地購入判断へ使えます。
ハザードマップと浸水実績が食い違ったときの見方
土地購入前なら、最終的に4パターンへ分けると整理しやすくなります。
過去実績あり・現在の浸水想定あり
水害を詳しく確認する理由が重なっています。
過去の原因・浸水程度、その後の治水・排水対策を確認し、現在の想定浸水深を前提に建物対策・避難・保険まで検討します。
過去実績あり・現在の浸水想定なし
最も「なぜ?」を調べたいケースです。
内水、小水路、対象外河川、古い土地条件など、現在見ているハザードマップとは別の原因だった可能性を確認します。
その後の排水・河川整備も見ます。
過去実績なし・現在の浸水想定あり
過去に同規模の水害を経験していない可能性があります。
「実績がないから安全」とせず、現在の想定を土地購入判断へ使います。
過去実績なし・現在の浸水想定なし
プラス材料ですが、水害ゼロの証明ではありません。
内水、小水路、道路冠水、局所的な高低差など、候補地固有の条件がないか確認します。
この4パターンにすると、どちらの地図を信用するかではなく、次に何を調べればよいかが決まります。
過去の浸水履歴は「購入をやめる資料」ではない
過去の浸水実績に候補地が入っていると、不安になります。
しかし、履歴を調べる目的は、
浸水歴あり
↓
候補から除外
という機械的な選別ではありません。
知りたいのは、
何が起きたのか。
どの程度だったのか。
なぜ起きたのか。
現在は何が変わったのか。
そして同じ規模以上の雨が降った場合に、現在どのようなリスクが残るのか。
です。
その結果、
建物を嵩上げすれば検討できる。
駐車場・車への対策が必要。
内水リスクが高く別候補と比較したい。
周辺道路のリスクが大きい。
など、土地ごとの判断へ進めます。
まとめ
土地購入前には、現在のハザードマップだけでなく、過去の浸水実績も確認する意味があります。
ハザードマップは将来起こり得る水害を想定した情報。
浸水実績は過去に実際に発生した水害の記録です。
ただし、浸水実績図はすべての過去災害を完全に記録したものではなく、過去の浸水範囲も、その後の河川・下水道整備や造成によって現在とは条件が変わっている場合があります。
最も大切なのは、2つの資料が同じかどうかではありません。
違ったときに、
なぜ過去には浸水したのか。
現在のハザードでは何を計算しているのか。
その後どんな対策が行われたのか。
まで調べることです。
ハザードマップと過去の浸水実績は、どちらか一方を正解にするのではなく、「この土地で次に何を確認すべきか」を見つけるために重ねて使います。
出典
国土交通省|水災害リスクを踏まえた防災まちづくりのガイドライン・過去の浸水実績図