大雨の中で車を運転していて道路の水が増えてくると、
「車をここに置いて逃げてもいいのか」
「もう少し走った方がいいのか」
と迷うことがあります。
結論からいえば、車を動かし続けることで水没や閉じ込めの危険が高まっているなら、車を守ることを優先する段階ではありません。
ただし、車から降りれば必ず安全というわけでもありません。
大雨時は、
このまま車内にいる危険と、車外へ移動する危険のどちらが高いか
を見て判断します。
「車が動くうちは乗っていた方が安全」とは限らない
冠水が始まっても、最初のうちは車が普通に動くことがあります。
そのため、
「まだ走れるから大丈夫」
と考えやすくなります。
しかし、国土交通省は、水深が車の床面を超えると電気装置の故障やエンジン・モーターの停止が起こり、移動できなくなるおそれがあるとしています。
さらに水位が上がれば、水圧によってドアを内側から開けにくくなります。 (国土交通省)
つまり、判断するべきなのは、
「今、車が動いているか」
ではありません。
数分後も車から安全に出られる状態なのかです。
車を諦める判断を水没してからにしない
車が完全に水没してから、
「もう無理だから逃げよう」
では遅くなることがあります。
トヨタは、道路が冠水した際、水位が車両の床面より高い場合やタイヤが空転していると感じた場合には、安全な場所へ停車して早めに車外へ出るよう案内しています。
タイヤが水没したり水流があると、車が移動できなくなったり流されたりするおそれもあります。 (トヨタ自動車WEBサイト)
また長野県警も、水位が上がるとエンジン停止、電装品の故障、車体の浮き上がり、ドアが開かなくなる危険があるため、水没したらいち早く脱出するよう案内しています。 (長野県公式サイト)
したがって、
車内へ水が入り始めた。
タイヤが空転して前へ進めない。
水位が目に見えて上がっている。
エンジンが止まった。
このような状態なら、「もう一度エンジンをかけて抜けられないか」と粘るより、脱出できるうちに車から離れる判断が重要です。
「車が壊れるか」より「ドアが開くうちか」を見る
水が増えてきたとき、
「ここに車を置いたら廃車になるかもしれない」
と考えるのは自然です。
しかし、水没が進む場面では車両の損害と人の安全を同じ優先順位にはできません。
JAFの実験では、水位が高くなるほどドアを開けるのが難しくなりました。
水没時には、電装系が浸水するとパワーウインドウが動かなくなる可能性もあります。 (JAF(日本自動車連盟))
つまり、
「もう少し車を移動させてから」
と粘っている時間が、そのまま脱出できる時間を減らす可能性があります。
車が水につかり始めているなら、
車が助かるかではなく、自分がまだ普通にドアを開けて出られるか
を優先します。
車を置いて逃げるなら、可能なら水の少ない安全な場所で止める
危険を感じたからといって、走行車線の真ん中で突然車を止めて飛び出すのが安全とは限りません。
まだ周囲を確認して安全に動かせる状態なら、水が深くなる方向へ進むのではなく、冠水していない場所や高い場所へ移動して停車します。
名古屋市も、早期であれば車による避難を認める一方、浸水が始まっている状況では車での移動は危険として、徒歩避難を案内しています。 (名古屋市公式ウェブサイト)
重要なのは、
「車でどこまで逃げ切れるか」
ではありません。
車を安全な場所まで移動できる段階なのか、それともこれ以上動かすこと自体を諦める段階なのか
を分けることです。
すでに水が深くなっている方向へ、駐車場所を探すために走り続けてはいけません。
車から降りた後に冠水道路を無理に歩かない
ここが「車を置いて避難する」で最も注意したい点です。
車から出たからといって、深い冠水道路を何百メートルも歩いて避難所へ向かえばよいわけではありません。
水害時の水は濁っており、
マンホールのふたが外れている。
側溝との境が見えない。
水流が思った以上に強い。
ということがあります。
国土交通省の資料でも、大人の膝程度の水深でも水流によっては徒歩避難が難しくなるとされています。 (国土交通省)
政府広報も、冠水した道路では浅く見えてもマンホールや側溝が見えなくなるため注意が必要としています。 (政府電子ポータル)
つまり、
「車にいるのが危険だから出る」と「そこから遠くまで歩ける」は別の判断です。
外の水まで危険なら「避難所まで行く」にこだわらない
車を出た後、指定避難所まで遠いこともあります。
すでに道路が深く冠水していたり、水流が強かったりするなら、避難所まで歩き切ることにこだわらない方がよい場合があります。
国土交通省は、途中で危険だと感じた場合には無理をせず、高台へ逃げることを防災教育でも示しています。
また、水害時には指定避難場所だけでなく、近くの頑丈な建物の高い階など、その時点で最善の安全確保を選ぶことが重要とされています。 (国土交通省)
近くに浸水しにくい高い建物があるなら、そこへ退避する。
すでに安全に歩けないほど水が増えているなら、むやみに移動せず救助を求める。
車から離れること自体を目的にするのではなく、
より安全な場所へ移ること
を目的にします。
車内へ水が入り始めたら早めに外へ出る
車内まで水が入ってきたら、判断を先延ばしにしません。
JAFは、走行中の車に浸水してきた場合は、車を止めてエンジンを停止し、避難するよう案内しています。
車外へ出る場合は、いきなり飛び出さず、片足で水深を確認しながらゆっくり両足をつき、可能なら進んできた方向へ戻る方法を示しています。 (JAF(日本自動車連盟))
水が低いうちにドアが開くなら、ドアから脱出します。
ドアが水圧で開かない場合は、窓が開くうちに窓から脱出します。
JAFは、水面より高い位置に窓がある場合には、窓から出て車の屋根へ上る方法も案内しています。 (JAF(日本自動車連盟))
ドアが開かなくなるまで車内で待たない
「外も水だから、車内の方が安全では?」
と思う場面もあります。
しかし、水位が上がり続けている車内で、そのまま待つことには別の危険があります。
国土交通省によると、水位がドア下端まで達すると水圧でドアを開けにくくなり、さらに水位が上がれば車内からほぼ開けられなくなることがあります。 (国土交通省)
JAFも、水没車両では窓やドアが開くうちに脱出することを基本としています。 (JAF(日本自動車連盟))
そのため、
「車は大きいから、中にいた方が守られる」
と考えて水位上昇を待つのは危険です。
水位が上がり続けていて、安全に脱出できる機会があるなら、その機会を逃さないことが重要です。
すでにドアが開かないなら脱出手順へ切り替える
水圧でドアが開かなくなった場合は、車を動かすことではなく脱出を考えます。
まず窓を開けます。
電気系統がまだ動き、窓が開けば窓から脱出できます。
窓も開かない場合には、割ることのできるサイドガラスなどを緊急脱出用ハンマーで割る方法があります。
ただし、国土交通省は、フロントガラスや一部のドアガラスにはハンマーで割れない合わせガラスが使われている場合があると注意しています。 (国土交通省)
ドアも窓も開けられない場合には、車内外の水位差が小さくなったときにドアが開きやすくなる場合があります。
これは最後の脱出手段です。
「そこまで待てばいい」という意味ではなく、開けられる段階で早く脱出する方が優先です。
車を置いてきた後は、安全確保を先にする
車を道路上や冠水した場所に残した場合、
「邪魔になるのでは」
「すぐ取りに戻らないといけないのでは」
と気になるかもしれません。
しかし、水が残っている間に車へ戻る必要はありません。
まず自分と同乗者の安全を確保します。
冠水した車についてJAFは、水が引いた後でもエンジンを始動せず、ロードサービスや販売店に相談するよう案内しています。 (JAF(日本自動車連盟))
車を回収するのは、水害の危険がなくなってからです。
なお、警察庁には「車を置いて避難するときは、できるだけ道路外へ置き、避難者や災害対応の妨げにならないようにする」という教則がありますが、これは大地震時について示されたものです。豪雨時にも全国一律で「鍵を置いてロックしない」とする一次情報は今回確認できなかったため、ここでは豪雨時のルールとしては扱いません。 (警察庁)
大雨では「車を捨てるか」ではなく「車が避難手段でなくなる瞬間」を見る
車は、大雨の初期なら安全な場所へ移動するための手段になる場合があります。
しかし、冠水が進めば状況は逆転します。
水位が上がる。
タイヤが空転する。
エンジンが止まる。
車内へ水が入る。
ドアが開きにくくなる。
ここまで来れば、車は避難手段ではなく、閉じ込められる場所になり始めています。
その境界を越えてまで車を守ろうとしないことです。
一方で、車から出た先の水流が激しいなら、何が何でも徒歩で避難所まで向かう必要もありません。
車内に残る危険と、車外へ移動する危険を比べ、その時点で最も安全な場所へ移る。
大雨時に車を置いて避難するか迷ったときは、
「車をここに置いていいか」
より、
「あと数分この車に残っていても、自分で安全に脱出できるか」
を先に考えてください。

出典
国土交通省|水深が床面を超えたら、もう危険!
国土交通省「水深が床面を超えたら、もう危険!」
国土交通省|台風の前に車両からの脱出手順の確認を!
国土交通省「台風の前に車両からの脱出手順の確認を!」
JAF|自動車が冠水路や高潮で浸水してしまったら?
JAF「自動車が冠水路や高潮で浸水してしまったら?」
JAF|台風・大雨時のクルマに関する注意点
JAF「台風・大雨時のクルマに関する注意点」
長野県警察|自動車が水没した場合の対処方法
長野県警察「自動車が水没した場合の対処方法」
名古屋市|避難場所に車で避難してもいいか
名古屋市「避難場所に車で避難してもいいか」
トヨタ自動車|クルマが水没したり、道路が冠水したときの対応方法
トヨタ自動車「クルマが水没したり、道路が冠水したときの対応方法」