半地下のトイレや浴室から下水が逆流するのを防ぐ方法として、逆流防止弁があります。
ただし、「逆流防止弁を付ければ半地下の排水対策は終わり」とは限りません。
判断の分かれ目は、豪雨で逆流防止弁が閉じたときに半地下からの排水を止められるか、そして普段の排水経路が豪雨時にも自然流下できる高さになっているかです。
弁が閉じている間は水回りを使わない前提で、自然流下にも問題がないのであれば、逆流防止弁を中心に考えられる場合があります。
一方、半地下にトイレや浴室があり豪雨中も排水する必要がある、または排水口が低く自然流下が十分ではない家では、汚水用排水ポンプ槽まで含めて検討する必要があります。
逆流防止弁は「逆流を止める設備」であって「排水する設備」ではない
逆流防止弁は、宅地側から下水道へ流れる通常の方向には水を通し、下水道側から押し戻される水を止める設備です。
豪雨で下水道管内の水位が上昇すると、弁が閉じて宅地側への逆流を抑えます。
ここまでは単純ですが、重要なのは弁が閉じた後です。
下水側への出口を閉じているため、家の中から流した水もその先へ排出できなくなります。
逆流防止弁メーカーのクボタケミックスも、弁が閉じた状態でトイレや風呂を使用すると宅地内であふれるおそれがあるため、大雨時は排水を控えるよう注意しています。 (クボタケミックス)
したがって、
「逆流防止弁があるから、大雨でも普段どおり半地下のトイレを使える」
とは考えない方がよいでしょう。
逆流防止弁だけで考えられるのは「閉じたら排水を止められる家」
逆流防止弁だけで対策を考えやすいのは、半地下だからという理由ではなく、排水条件が比較的よいケースです。
晴天時だけでなく通常の大雨時にも自然流下が十分に確保されていて、本管の水位が異常に上がったときだけ逆流を止めたい。
さらに、その間は地下・半地下のトイレ、浴室、洗濯機などを使用せず、宅内からの排水を止められる。
この条件なら、逆流防止弁の「閉めて守る」という性格と住宅側の使い方が合います。
ただし、逆流防止弁は設置して終わりではありません。
国交省の浸水対策資料でも、逆止弁には異物が詰まり、逆流を防止できなくなるおそれがあるため、平常時のメンテナンスが重要とされています。
また、製品によって完全な止水を保証するわけではありません。
そのため「弁を一つ付けたから絶対に逆流しない」という設備ではなく、点検できる位置へ設けることも重要です。
排水ポンプまで必要になる境界は「自然流下できるか」
排水ポンプを検討すべき大きな境界が、半地下の排水高さです。
東京都下水道条例施行規程では、地下室など「下水の自然流下が充分でない場所」の排水について、ポンプ施設を設けることを定め、そのポンプ施設は下水が逆流しない構造でなければならないとしています。 (東京都水道局)
東京都の排水設備要綱では、さらに具体的です。
豪雨時に自然流下が不十分となるおそれがあり、排水先の道路面より低い位置に衛生設備や私設ますなどの開口部がある場合も「自然流下が充分でない場所」に含むとしています。
つまり、見るべきなのは「半地下という名前」ではありません。
トイレ、浴室、床排水口、排水ますなどの高さと、道路・公共ます・下水本管側の水位関係です。
半地下でも十分な高低差を確保して自然流下できるケースと、豪雨で下水管水位が上がれば出口を失うケースでは、必要な設備が違います。
「豪雨中もトイレを使いたい」ならポンプ槽の意味が出てくる
逆流防止弁だけの場合、弁が閉じている間は宅内排水を控える必要があります。
そこで、半地下の排水をいったん排水槽へ集め、ポンプで高い位置まで持ち上げて排出するのが汚水用排水ポンプ槽です。
東京都下水道局は、排水ポンプ、排水管、逆流防止弁を組み合わせた汚水用排水ポンプ槽を例示しています。この方式なら下水道管からの逆流を防ぎながら、豪雨時にもトイレや風呂を排水できると説明しています。 (東京都水道局)
したがって、半地下に寝室や浴室、トイレがあり、
「大雨になったらそこだけ使用禁止にする」
という運用が現実的でない家では、弁だけよりもポンプ槽まで含めて設計する意味が大きくなります。
特に新築時なら、後からポンプ槽や配管経路を追加するより、設計段階で排水方式そのものを決めた方が対応しやすくなります。
半地下だからといって、すべて同じポンプを付けるわけではない
ここで混同しやすいのが「排水ポンプ」です。
半地下では、大きく分けて二つの水を考える必要があります。
一つは、トイレ、浴室、洗面などから出る汚水・雑排水です。
もう一つは、半地下車庫のスロープやドライエリアへ外から入ってくる雨水です。
下水本管からトイレへ逆流する問題には、汚水用排水ポンプ槽や逆流防止弁を含む排水設備を検討します。
一方、スロープの下へ雨水がたまる問題では、雨水を集める排水設備や水中ポンプなどが必要になる場合があります。平塚市も、敷地内へ侵入した雨水を排除する対策として水中ポンプを挙げています。 (平塚市公式ホームページ)
名前はどちらも「排水ポンプ」ですが、対象にしている水と配管系統が違います。
道路から水が流れ込む家はポンプだけでは考えない
半地下の入口や駐車場が道路より低い家では、もう一つ別の問題があります。
道路が冠水すると、地表を流れる雨水が半地下へ一気に流れ込む可能性があります。
これは下水管からの逆流ではありません。
そのため、排水管へ逆流防止弁を付けても止まりません。
東京都下水道局は、道路側からの雨水に対して、出入口のステップアップ、止水板、土のうなどを示しています。京都市も、地下・半地下では出入口を道路面より高くすることなどを求めています。 (京都市ホームページ)
排水ポンプも流れ込んだ雨水を排出する役には立ちますが、流入量がポンプ能力を超えれば水位は上がります。
したがって、道路より低い半地下車庫などでは、
「入った水をポンプで出す」
だけではなく、
「そもそも大量に入れない」
対策を先に組み合わせる必要があります。
逆流防止弁と排水ポンプは「どちらか一つ」ではない
検索すると「逆流防止弁か排水ポンプか」という二択に見えますが、実際には役割が違います。
逆流防止弁は、下水側から戻ってくる水を止めます。
排水ポンプは、低い場所の排水を高い位置へ持ち上げて排出します。
そのため、半地下の排水をポンプアップする設備でも、逆流防止措置を組み合わせます。
国交省のガイドラインでも、下水道からの逆流のおそれがある排水設備について、貯留槽にためた雨水・汚水・雑排水をポンプアップして排水し、さらに立上り部や流入を防止するバルブなどの逆流防止措置を講じる考え方が示されています。
つまり、
「ポンプを付けるから逆流防止弁はいらない」
とも、
「逆流防止弁を付けるからポンプはいらない」
とも一律には言えません。
排水高さと配管方式からセットで決めます。
停電したらポンプも止まることを忘れない
ポンプ方式にも弱点があります。
電源が失われれば、通常の電動排水ポンプは動きません。
国交省の浸水対策ガイドラインでも、洪水時に停電などでポンプが停止すると、排水設備を通じて逆流が生じる可能性を指摘しています。そのため逆止弁、止水弁、配管の立上げなどを組み合わせる考え方を示しています。
半地下の浸水対策を考えるときは、
「ポンプが正常に動く平常時」
だけで設計を終わらせないことが重要です。
大雨と停電が同時に起きても逆流しない構成になっているか、停電中に半地下設備の使用を中止する運用なのかも確認しておきます。

自宅は「トイレの高さ」から確認する
自宅で逆流防止弁だけでよいのか、ポンプ槽まで必要なのかを判断するとき、最初に設備の商品を選ぶ必要はありません。
まず、半地下にある最も低い排水設備を確認します。
トイレ。
浴室の床排水口。
洗濯機排水。
洗面。
半地下車庫やドライエリアの雨水ます。
次に、その高さと道路面、宅地内ます、公共ますへの排水経路を図面で確認します。
特に半地下のトイレや排水口が排水先道路面より低い場合は、「晴れた日に流れているから大丈夫」で終わらせず、豪雨で下水管内の水位が上がったときにも自然流下できるのかを確認した方がよいでしょう。
東京都の技術資料でも、晴天時には正常に自然流下していても、豪雨時に下水管水位が上がることで半地下から逆流する仕組みが示されています。 (東京都水道局)
工事業者には「逆流防止弁を付けたい」から始めない
相談するときに、
「逆流防止弁を付けたいのですが、いくらですか」
だけで始めると、設備選びだけの話になる可能性があります。
半地下なら、次のように伝えた方が本来の判断につながります。
「半地下にトイレと浴室があります。最も低い排水口と道路面・公共ますとの高さを確認して、豪雨時にも自然流下で問題ないか見てください。逆流防止弁だけの場合、弁が閉じたときにどの設備が使用できなくなるか、汚水用排水ポンプ槽が必要ならその理由も説明してください。また、道路から入る雨水については別系統の対策が必要か確認してください。」
これなら、「弁を付けられるか」ではなく、「この半地下をどう排水すれば浸水しにくいか」という設計の話になります。
なお、排水設備に関する具体的な基準は下水道管理者によって異なります。
東京都のように自然流下が十分でない地下等へポンプ施設を求める規定もあるため、最終的には所在地の自治体・下水道管理者と指定排水設備工事店に確認します。 (東京都水道局)
排水ポンプまで必要になる家は「弁が閉じた後」を考える
逆流防止弁だけで足りるかを判断するときは、平常時ではなく豪雨時を想像します。
弁が閉じたら半地下の排水を止められる。
豪雨時にも自然流下が十分に確保されている。
道路から半地下へ入る雨水は別の方法で防げる。
この条件なら、逆流防止弁を中心に検討できる余地があります。
反対に、排水先より低い位置にトイレや浴室などがあり自然流下に不安がある、または豪雨中も半地下から排水する必要があるなら、逆流防止機能を備えた排水ポンプ施設まで検討する地点です。
さらに道路から雨水が流れ込む半地下なら、汚水ポンプだけで終わらせず、止水板や入口の高さ、雨水排水まで別に考える。
この三つを分けると、「逆流防止弁だけでよいのか、ポンプまで必要なのか」が判断しやすくなります。