水害が気になる土地に新築するとき、
「1階の床を道路より何cm高くすればいい?」
「50cmあれば十分?」
「1mくらい上げればかなり安心?」
と考えることがあります。
道路より1階床が高いことには、水害対策として意味があります。
ただし、新築住宅について全国一律に、
道路+50cmなら安全。
道路+1mなら浸水しない。
という基準があるわけではありません。
まず確認したいのは、
道路
↓
完成後の地盤
↓
1階床
という3つの高さです。
例えば同じ「道路から床まで80cm」でも、
道路から宅盤50cm+宅盤から床30cm
と、
道路から宅盤0cm+宅盤から床80cm
では、水害時に守れる範囲が違います。
新築で床を高くするときは、「床が道路より何cm高いか」だけでなく、その高さを土地側と建物側のどちらで確保しているかまで確認します。
道路から1階床までの高さは2つに分ける
まず、高さを一つの数字で見ないことが重要です。
例えば、
前面道路 0cm
完成後の宅盤 +30cm
1階床 宅盤+50cm
なら、1階床は道路から約80cm高い位置になります。
一方、
前面道路 0cm
完成後の宅盤 -20cm
1階床 宅盤+80cm
なら、1階床は道路から約60cmです。
後者は床自体は高くても、庭や駐車場などの敷地は道路より低いままです。
そのため道路冠水が起きると、
庭へ水が入る。
駐車場へ水が入る。
床下へ水が入る。
しかし居室床までは届かない。
という状態になることがあります。
「床が高い住宅」と「敷地が高い住宅」は同じではありません。
建築基準法の「45cm」は道路からの高さではない
新築の床高を調べると「45cm」という数字が出てきます。
建築基準法施行令22条では、一定の例外を除き、最下階の居室の床が木造である場合、直下の地面から床上面まで45cm以上とする規定があります。
ここで重要なのは、
道路から45cm
ではなく、
直下の地面から床上面まで45cm
という点です。
例えば宅盤が道路より30cm高ければ、
道路+30cm
+
地盤から床45cm
で、道路から床までは75cm程度になります。
逆に宅盤が道路より20cm低ければ、
道路-20cm
+
地盤から床45cm
なので、道路から床までは25cm程度です。
同じ45cmでも、道路との関係はまったく違います。
また床下をコンクリート等で覆う場合など、同条には例外があります。
45cmを「新築住宅の水害安全基準」として使わないことが重要です。
フラット35の「基礎40cm」も水害基準ではない
もう一つ検索で見かけるのが「基礎40cm」です。
フラット35の木造住宅に関する耐久性基準では、地面から基礎上端または土台下端まで40cm以上とする基準があります。
しかし、これも、
道路より40cm高くする
という基準ではありません。
主に住宅の耐久性、防湿・点検等に関係する住宅性能上の基準です。
さらに「基礎上端」と「1階床上面」も同じ高さではありません。
基礎の上に土台や床組などがあるため、完成した1階床面はさらに高くなる場合があります。
水害について知りたいなら、
基礎高40cm
という仕様だけでなく、
「前面道路から完成した1階床まで何cmありますか」
と確認します。
道路より床が高ければ浅い道路冠水には意味がある
道路より1階床を高くする効果が分かりやすいのは、道路が浅く冠水した場合です。
例えば道路上に20cmの水がたまったとします。
1階床が道路面とほぼ同じ高さなら、玄関や開口部から室内へ水が届きやすくなります。
一方、1階床が道路より80cm高ければ、水面と床との間にはまだ高さがあります。
その意味で、
道路+20cmの床
と
道路+80cmの床
は水害に対する条件が違います。
実際に現在販売されている新築住宅にも、道路面から1階床面まで1m以上の高さを確保し、水害へ配慮している物件があります。
ただし、道路から床までの高さだけで住宅全体の浸水を判断することはできません。
道路+50cmだから「50cmまで大丈夫」とは限らない
例えば、
道路から1階床まで50cm
だったとします。
すると、
「道路が50cm冠水するまで床上浸水しない」
と考えたくなります。
単純な水平な水面だけを考えれば、床へ達するまでの高さの余裕を示す材料にはなります。
しかし実際には、
道路と敷地の高さ。
敷地への水の入口。
河川氾濫時の水位。
道路勾配。
周辺の地形。
水路や排水施設。
などによって水の動きが変わります。
また玄関、換気口、配管貫通部など、1階床より低い位置に水の入口がある場合もあります。
「道路+50cm」は高さの情報であって、「50cmまで完全防水」という意味ではありません。
ハザードマップ0.5mと道路+50cmは同じ数字でも意味が違う
ここは特に混同しやすいところです。
洪水ハザードマップなどで「浸水深0.5m」と表示されることがあります。
国土交通省では浸水深0.5m以上を一般住宅で床上浸水相当の目安として扱う資料があります。
この0.5mと、
道路から床まで50cm
は同じ50cmでも意味が違います。
浸水深は、その場所の地面から水面までの高さです。
道路から床までの50cmは、建物と道路の高さ関係です。
したがって、
ハザード0.5m
=
道路+50cmの床なら安全
とは単純換算できません。
新築設計では、ハザードマップの浸水想定を確認したうえで、測量した道路高・宅盤高・床高を同じ基準高さで比較します。
床を30cm高くする意味
同じ土地・同じ宅盤なら、1階床をさらに30cm高くすれば、水面が居室へ達するまでの高さは30cm増えます。
浅い道路冠水や内水に対しては、その30cmが被害を床下で止められるか、床上まで達するかを分ける場合があります。
ただし床だけを30cm上げても、
駐車場。
庭。
室外機。
給湯設備。
床下。
は自動的には30cm高くなりません。
守れる対象は主に居室です。
そのため床を上げる意味は、
敷地への浸水そのものを防ぐ
というより、
浸水しても居室まで届きにくくする
ことにあります。
床を50cm上げると水面との余裕は大きくなる
同じ条件なら、床高を50cm上げれば、30cmの場合より居室まで水が達するまでの余裕は大きくなります。
葛飾区の住宅浸水対策ガイドラインでも、高床化を「基礎の立上りを高くし床上への浸水を防ぐ方策」として位置付けています。
モデルケースでは、一般的な基礎立上り高さ30cm程度に対し、浸水対策案として80cm程度まで高くする例を示しています。
ただし、これは「全国どこでも基礎80cmにすればよい」という基準ではありません。
対象地域の浸水条件を前提とした一つの設計例です。
重要なのは、50cm上げるという数字ではなく、想定する水位より床をどこまで遠ざけられるかです。
道路+1mの床にも意味はあるが「1m安全」ではない
道路から1階床まで1mあれば、浅い道路冠水に対しては大きな高さの余裕になります。
実際の新築分譲住宅でも、水害対策として道路面から1階床まで1.1m、1.2m、1.3m以上を確保している例があります。
ただし販売情報でも「100%浸水を防ぐものではない」とされています。
河川洪水で2m、3mといった水位が想定される土地なら、床を道路から1m上げても1階が浸水する可能性があります。
また床が1m高くても、
駐車場は道路±0cm。
庭も道路+10cm。
という計画なら、車や屋外設備は先に浸水します。
道路+1mは水害に対する強い材料ですが、安全保証ではありません。
床を高くしても床下浸水は残る場合がある
1階床を高くする目的は、主に床上浸水を遅らせることです。
そのため高基礎住宅でも、水が基礎周囲まで上がれば床下部分が水の影響を受ける可能性があります。
住宅の浸水対策では、
基礎換気口。
配管貫通部。
基礎の打継ぎ。
玄関。
掃き出し窓。
など、水が入り得る場所を別に確認します。
住宅生産団体連合会の浸水対策手引きでも、高基礎だけでなく、基礎の止水、換気口対策、配管周囲のシーリングなどを組み合わせています。
つまり、
床を高くする
=
床下にも水が入らない
ではありません。
床上浸水と床下浸水を分けて考えます。
玄関が低ければ床高だけでは決まらない
例えば1階床が道路から90cm高い住宅でも、玄関ポーチから室内へ低い位置でつながっている場合があります。
水は必ず床面全体から均等に入るわけではありません。
低い開口部が入口になります。
新築で床を高くするなら、
リビングの床面。
玄関の敷居。
掃き出し窓。
勝手口。
基礎換気部。
の高さも確認します。
「1階床GL+○○」という図面上の一つの数字だけでは、水防ライン全体は分かりません。
車を守りたいなら床高ではなく駐車場高を見る
床を道路より1m高くしても、駐車場が道路と同じ高さなら車には1mの余裕はありません。
例えば、
1階床 道路+100cm
駐車場 道路+10cm
なら、大雨で道路が30cm冠水した際、
居室床にはまだ大きな高さがある。
一方、駐車場には水が入る可能性がある。
という違いが出ます。
水害対策で新築の高さを考えるとき、
住宅内部。
車。
屋外設備。
を別々に守る必要があります。
「床を高くしたから家族の財産全体を守れる」とは考えない方がよいでしょう。
室外機や給湯器は床より低い場合がある
新築時にもう一つ確認したいのが設備です。
床上浸水を免れても、
エアコン室外機。
給湯器。
蓄電池。
パワーコンディショナー。
電気設備。
などが低い位置にあれば先に水の影響を受ける場合があります。
国土交通省と経済産業省の建築物における電気設備の浸水対策でも、想定浸水深を踏まえ、重要な電気設備を高い位置へ設ける考え方を示しています。
戸建住宅へそのまま同じ設備基準が適用されるという意味ではありません。
ただ、水害対策を床高だけで終わらせず、
水面より上へ何を置いておきたいか
と考える参考になります。
床を高くするほど玄関階段も増える
水害だけを考えれば、床は高いほど有利な方向へ働きます。
しかし家は毎日使います。
道路から床まで1m以上あれば、その高さを玄関まで上がる必要があります。
階段。
長いスロープ。
玄関アプローチ。
車椅子。
ベビーカー。
高齢になった後の移動。
などへ影響します。
葛飾区の浸水対策ガイドラインでも、高床化によって道路から玄関まで階段・スロープが必要になること、高さ規制との関係が生じる場合があることを注意点として挙げています。
「最大限高くする」ではなく、日常生活とのバランスを取ります。
建物全体が高くなると高さ制限も確認する
1階床を高くすれば、その上に建つ2階や屋根も高くなります。
敷地条件によっては、
道路斜線。
北側斜線。
高度地区。
日影規制。
など、建物高さに関する条件へ影響する場合があります。
住宅生産団体連合会の浸水対策設計例でも、高基礎化によって高さ制限との関係が生じ、建物配置等を調整したケースがあります。
希望する床高を決めるときは、
水害だけなら1m上げたい
という希望が、実際の敷地で建築可能かまで設計者に確認します。
床を上げる前に宅盤を上げた方がよい土地もある
例えば候補地が道路より30cm低いとします。
このまま床だけを1m高くすれば、
道路
↓30cm
敷地
↑1m
床
なので、床自体は道路より約70cm高くできます。
しかし敷地は低いままです。
道路冠水すると、
庭。
駐車場。
建物周囲。
へ水が集まる問題は残ります。
この場合、
まず宅盤を道路付近まで盛土する。
そのうえで床高を確保する。
という方が合理的な場合があります。
床高は、水害対策全体の一部分です。
逆に宅盤を大きく上げなくても床高で対応できる場合がある
反対に、
敷地は道路よりすでに高い。
敷地内の排水にも問題がない。
駐車場への浅い浸水は別に対応できる。
主に床上浸水を避けたい。
という土地なら、敷地全体をさらに大量に盛土するより、高基礎などで床を高くする方法が合理的な場合があります。
盛土と床高を二者択一にする必要はありません。
例えば、
宅盤+30cm。
さらに建物側で床を+60cm。
というように、必要な高さを分担する考え方もあります。
どちらで何cm取るかは、想定水位、排水、駐車場、擁壁、建築費などから決めます。
「道路+何cm」ではなく想定水位から逆算する
最終的にはここが一番重要です。
新築時に、
道路+50cm。
道路+80cm。
道路+1m。
から選ぶのではありません。
まず確認するのは、
洪水。
内水。
道路冠水。
過去の浸水実績。
小河川・水路。
などから、その土地でどの水位を設計上意識するのかです。
そのうえで、
想定する水位
↓
入れたくない1階床
↓
必要な床高さ
を考えます。
さらに、
宅盤を上げるのか。
高基礎にするのか。
両方を組み合わせるのか。
へ進みます。
道路面は分かりやすい基準点ですが、水害対策の答えではありません。
新築前に断面図へ5本の線を入れてもらう
住宅会社と打合せするときは、
「床を高めにしてください」
だけではなく、断面図で確認すると分かりやすくなります。
少なくとも、
前面道路。
完成後の宅盤。
駐車場。
1階床。
想定する水位。
を同じ図面に入れます。
例えば、
道路 ±0cm
宅盤 +30cm
駐車場 +10cm
1階床 +90cm
想定する道路冠水 +20cm
と表示すれば、何をどの高さで守っているかが見えます。
さらに洪水・内水などの想定水位も同じ基準へ置き換えられるか設計者へ確認します。
「床GL+600」という建築図面上の数字だけではなく、「道路から何cmなのか」まで確認することがポイントです。
何cm上げればいいかより「最初に水が入る場所」を見る
道路から1階床まで十分な高さを確保したら、最後に確認したいのが最初の水の入口です。
玄関。
掃き出し窓。
勝手口。
基礎換気部。
配管周囲。
駐車場から地下・半地下へ向かう入口。
などがあります。
住宅全体で一番低い入口が、床高より大幅に低ければ、その部分が先に浸水します。
国・自治体の浸水対策資料でも、高床化だけでなく、止水板、防水、開口部対策等を組み合わせています。
新築の水害対策は「床を高くする」で終わりません。
床を高くしたうえで、どこに水防ラインを作るのかまで確認します。
まとめ
新築住宅の1階床を道路より高くすることには、水害対策として意味があります。
同じ土地条件なら、床を30cm高くするより50cm、50cmより1m高くする方が、居室へ水が達するまでの高さの余裕は大きくなります。
ただし、
道路+50cmなら安全。
道路+1mなら浸水しない。
という全国共通の基準はありません。
また建築基準法施行令の床45cmや、フラット35の基礎40cmも、道路からの水害安全高を示した数字ではありません。
新築時には、
道路
↓
完成宅盤
↓
1階床
の高さを分けます。
そのうえで、洪水・内水・道路冠水などで想定する水位と比較します。
さらに、玄関、駐車場、床下、給湯器などは別の高さとして確認します。
「床を道路より何cm高くすればよいか」から考えるのではなく、
どこまで水が来る可能性があるか
↓
何を水から守りたいか
↓
そのために宅盤と床を何cm上げるか
という順番で決めることが、新築時の水害対策では重要です。
出典
国土交通省・e-Gov法令検索|建築基準法施行令 第22条「居室の床の高さ及び防湿方法」
建築基準法施行令 第22条
国土交通省・e-Gov法令検索|建築基準法 第19条「敷地の衛生及び安全」
建築基準法 第19条
住宅金融支援機構|フラット35 在来木造等の耐久性基準
在来木造、枠組壁工法及び丸太組構法の耐久性基準
住宅生産団体連合会|住宅における浸水対策の設計の手引き
住宅における浸水対策の設計の手引き
葛飾区|住宅浸水対策ガイドライン
住宅浸水対策ガイドライン
国土交通省・経済産業省|建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン
建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン
国土交通省|浸水深と床上・床下浸水の考え方
氾濫シミュレーションQ&A