新築の浸水対策では、玄関や掃き出し窓は確認しても、24時間換気の給気口までは見落としやすいところです。
しかし、外壁に開いている換気口も、水位がそこまで上がれば屋内へつながる開口部になります。
建築前に確認したいのは、「室内の給気口を何cm高くするか」ではありません。
外気と直接つながる給気口・排気口のうち、一番低い外壁開口がどこにあり、その位置が自宅で想定する浸水より高くなっているかです。国土交通省・経済産業省の浸水対策資料でも、換気口などの開口部を設定浸水深より高い位置へ設ける考え方が示されています。
24時間換気の「室内側」だけ見ても浸水経路は分からない
部屋の壁にある丸形や四角形の給気口を見ると、そこが水害対策の対象に見えます。
実際には、その裏側を確認する必要があります。
第3種換気の戸建住宅では、各居室の自然給気口から外壁を貫通し、屋外フードにつながる構成があります。三菱電機の戸建住宅向けプランでも、LDK、和室、洋室などに自然給気ユニットを設け、外壁側にフードを配置しています。 (三菱電機)
このような住宅では、1階外壁に複数の給気用開口ができます。
一方、第1種のセントラル換気では、各室に見える給気口から直接外気を取り込むのではなく、屋外の外気取入口から換気設備へ取り込み、ダクトで各室へ送る方式があります。 (三菱電機)
この場合、水害対策として見るべきなのは室内給気口の高さではなく、屋外にある外気取入口や排気口です。
「給気口を高くする」と一言で決めず、外壁のどこが外気と直接つながっているのかを換気図面で確認する必要があります。
防雨フードが付いていても冠水対策とは別
外壁の給排気口には、通常、雨水の侵入を抑えるフードなどが使われます。
建築基準法施行令でも、機械換気設備の外気取入口や直接外気へ開く給排気口には、雨水などの侵入を防止するための設備を設けることが求められています。 (e-Gov)
ただし、ここでいう雨対策と、水位が換気口まで上がる冠水は分けて考えます。
換気部材メーカーのメルコエアテックも、外壁用部材について風雨の侵入を抑える製品を用意していますが、台風などの強風雨では雨水が侵入する場合があると注意しています。 (メルコエアテック)
住宅会社の取扱資料にも、強い雨風では24時間換気の給気口から雨が吹き込む可能性があることが記載されています。 (TOEI)
したがって、「防雨フードだから水位がそこまで来ても大丈夫」とは判断できません。
水害対策では、浸水する可能性のある高さそのものに外壁開口を設けない方向を先に検討します。
高さは「地面から○cm」ではなく浸水ラインとの関係で決める
今回確認した一次資料では、戸建住宅の24時間換気について、水害対策として全国一律に「地面から○cm以上へ設置する」という数値基準は確認できませんでした。
国土交通省・経済産業省の浸水対策ガイドラインが示しているのは、換気口などを「設定浸水深よりも高い位置」に設けるという考え方です。
この資料は主として受変電設備を持つ建築物を対象としたもので、戸建住宅の24時間換気口にそのまま適用される設置義務ではありません。
ただ、外壁開口からの浸水を防ぐという設計原理は、住宅の換気計画を確認するときにも参考になります。
自宅では、まず洪水や内水などのハザード情報、敷地の高低差、周辺の冠水履歴などから、設計者と「どこまで水が来ることを想定するか」を決めます。
そのラインより下に、24時間換気の外気取入口や排気口が残っていないかを見る方が、「地面から80cmなら安全」「1mなら十分」と数字だけで決めるより合理的です。
第3種換気では1階外壁の給気口を全部確認する
第3種換気では、排気をファンで行い、給気は壁の自然給気口などから行う方式があります。
戸建住宅のプラン例を見ると、居室ごとに給気口が配置されるため、1階外壁に複数の低い開口ができる可能性があります。 (三菱電機)
そのため、リビングの給気口だけ高くしても十分とは限りません。
寝室。
和室。
書斎。
廊下につながる換気口。
それぞれの屋外側フードの高さを立面図で確認します。
一つでも想定する浸水ラインより低い外壁開口が残れば、そこが別の経路になります。
第3種換気を採用する住宅では、「24時間換気の給気口は何個ありますか」ではなく、「1階外壁に外気と直接つながる開口が全部でどこにありますか」と聞いた方が確認しやすくなります。
第1種換気では室内給気口より外気取入口を見る
第1種のダクト式換気は考え方が少し違います。
各部屋の天井や壁に給気口があっても、そこから直接外へ穴が開いているとは限りません。
セントラル換気の例では、屋外の給気・排気フードから換気装置へ接続し、そこからダクトを使って各室を換気します。 (三菱電機)
この場合、
「室内の給気口を高い位置にしました」
だけでは水害対策の確認になりません。
屋外の外気取入口は何階のどの壁にあるのか。
排気口はどこにあるのか。
そこから換気装置までダクトがどう通っているのか。
こちらを見る必要があります。
換気方式によって、水害対策で高くする対象そのものが違います。
高くするだけで済む家と、換気計画から見直す家がある
想定浸水ラインより少し低い位置に外壁給気口があり、窓や構造体との干渉もなく、換気性能やメーカーの施工条件を守ったまま高い位置へ変更できるのであれば、高所化で対応できる余地があります。
一方、想定する浸水が高く、1階外壁に第3種換気の給気口が何か所も配置され、そのすべてを十分な高さへ移すのが難しい場合は話が変わります。
そこで無理に一つずつ上へ移すだけではなく、外気取入口を設ける場所、ダクト経路、換気方式そのものを含めて設計者に見直してもらう地点です。
これは「水害地域なら第1種換気の方がよい」という意味ではありません。
第1種にも外気取入口と排気口があり、そこが低ければ同じ問題があります。
判断基準は方式名ではなく、「外壁で外気とつながる開口を、想定浸水より上へまとめられるか」です。
給気口だけを上げても低い排気口が残れば終わらない
タイトルでは給気口を取り上げていますが、水害対策では給気口だけを見ない方がよいでしょう。
国の浸水対策資料も「換気口等の開口部」を浸水経路として扱っています。 (国土交通省)
24時間換気の排気口。
浴室換気の外壁フード。
トイレ換気。
そのほか外壁へ直接つながる換気開口。
こうしたものが1階の低い位置に残れば、給気口だけを高くしても建物全体としての水防ラインは完成しません。
すべてを同じ高さにする必要があるという意味ではありません。
建築前に「設定した浸水ラインより下に外部へ開いた穴が何個残っているか」を確認することが重要です。
高くしすぎれば換気設計に影響することもある
水害だけ考えれば、外壁開口は高いほど有利に見えます。
しかし24時間換気は、必要な換気量と空気の流れを成立させる設備です。
国土交通省は、住宅について原則として0.5回/h以上の機械換気設備をシックハウス対策として示しています。 (国土交通省)
給気口と排気口の位置関係、ダクト抵抗、家具による閉塞、点検・フィルター交換のしやすさなども換気計画の一部です。
実際、住まいるダイヤルの相談事例でも、給気位置は単純に低い・高いで決めるものではなく、換気性能や積雪など地域条件を踏まえて判断する考え方が示されています。 (Chord)
したがって、水害が怖いから施工途中で給気口だけを勝手に高く移すのではなく、換気計算やメーカー施工条件を維持できる位置を設計段階で決める必要があります。
建築前は立面図に「浸水ライン」を重ねてもらう
給気口の水害対策は、平面図だけでは分かりにくい問題です。
確認しやすいのは外壁の立面図です。
住宅会社や設計者には、1階外壁にある24時間換気の給気口・排気口と、そのほか低い位置にある換気開口を立面図上へすべて示してもらいます。
そのうえで、自宅で対策対象にする浸水ラインも同じ図面へ重ねます。
相談するときは、次のように伝えれば意図が明確です。
「水害時に換気口が浸水経路になることを避けたいので、1階外壁にある24時間換気の外気取入口・排気口をすべて立面図で示してください。想定している浸水ラインより低い開口があれば、換気性能とメーカー施工条件を維持したまま高くできるか確認し、難しい場合は換気方式やダクト経路を含めて別案を検討してください。」
これなら「給気口を1mにしてください」という数字だけの打合せになりません。
止水板でふさぐより、建築前なら最初から高くする方が考えやすい
浸水対策では、低い開口部を止水板などで塞ぐ方法もあります。
ただし、豪雨のたびに準備が必要な方法は、人が不在だった場合や設置が間に合わなかった場合に機能しません。
国の浸水対策ガイドラインでも、換気口を設定浸水深より高い位置へ設ける対策は、浸水発生時の操作を必要としない方法として示されています。 (国土交通省)
完成した住宅の換気口を移すには、外壁、防水、断熱、ダクトなどの改修が伴う可能性があります。
これから建てるのであれば、外壁に穴を開ける前の図面段階で高さを検討する方が選択肢を取りやすくなります。
24時間換気の浸水対策は「一番低い外壁開口」を探す
24時間換気の給気口を高くする目的は、単に通常より高い位置へ付けることではありません。
まず自宅で想定する浸水ラインを決めます。
次に、24時間換気の給気口・排気口を含め、外気と直接つながる外壁開口を図面上で確認します。
その中で一番低いものが浸水ラインより下にあるなら、高所化できるかを検討します。
換気性能を維持したまま高くできるなら位置を変更する。
すべての開口を上へ移すのが難しいなら、外気取入口の場所やダクト経路、換気方式まで設計段階へ戻って見直す。
「給気口は地面から何cm」という数字ではなく、「浸水ラインより下に外壁開口を残さないようにできるか」。
ここが、24時間換気を水害対策の視点から見るときの判断線です。
出典
出典リンク:
国土交通省「住宅等における換気等に関する情報提供について」
e-Gov「建築基準法施行令」
国土交通省・経済産業省「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」
三菱電機「第3種換気 戸建住宅プラン」
三菱電機「第1種ロスナイセントラル換気」
メルコエアテック「外壁用部材」