1階が床上浸水しても、浸水していない2階で照明やコンセントを使えるようにする方法として、1階と2階の電気回路を分けておく対策があります。
佐賀県も、コンセントが浸水すると漏電ブレーカーが作動して家全体の電気が使えなくなることへの対策として、「回路を1階と2階で分ける」方法を示しています。
ただし、ここで注意したいのは、「1階用・2階用とブレーカーを分けて表示すれば、1階が漏電しても自動的に2階だけ使える」という意味ではないことです。
一般的な住宅用分電盤では、主幹の漏電ブレーカーで複数の分岐回路をまとめて漏電保護している構成があります。この場合、1階側で漏電が起きれば主幹が遮断し、いったん家全体が停電することがあります。
新築時に確認したいのは、「階別に回路を並べられますか」ではありません。
「1階が浸水したとき、その回路だけを安全に切り離し、2階側を使える回路構成にできますか」です。
まず確認|回路を分ける目的は「1階だけ切り離せること」
1階と2階の回路を分ける目的は、単に分電盤の中を見やすくすることではありません。
浸水した側を使わず、浸水していない側だけを使えるようにすることです。
新築時には、次の状態になっているかを確認します。
| 電気設備の状態 | 新築時に確認したいこと |
|---|---|
| 1階と2階の回路が混在している | 階別に切り離せる回路構成にできるか |
| 階別にブレーカーは分かれている | 1階の漏電で主幹まで落ちる構成か |
| 分電盤自体が低い位置にある | 想定浸水深より上へ配置できるか |
| 1階浸水後も2階で生活したい | 2階に残したい照明・コンセント等を整理する |
| どのブレーカーがどこにつながるか分からない | 階・部屋・設備名を分電盤に明記する |
「1階」「2階」と回路名が分かれていることと、1階の異常が2階へ影響しないことは別です。
ここを新築時の電気打合せで確認しておくことが、この対策の中心になります。
同じ主幹漏電ブレーカーの下なら、1階の漏電で全部止まることがある
住宅用分電盤には、主幹ブレーカーと複数の分岐ブレーカーがあります。
分岐ブレーカーは、リビング、キッチン、エアコンなどの回路ごとに分かれています。一方、住宅用分電盤には、主幹の漏電ブレーカーで複数の分岐回路をまとめて漏電保護する製品があります。
この構成では、1階の浸水したコンセントなどで漏電すると、主幹の漏電ブレーカーが作動して2階を含めて停電する可能性があります。
東京電力パワーグリッドも、ある分岐回路を入れたときに漏電ブレーカーが切れる場合、その回路に漏電の可能性があるとして、問題のある回路を切ったまま、それ以外の回路を復旧させる方法を案内しています。
つまり、水害対策として必要なのは「最初から絶対に主幹が落ちない家」にすることだけではありません。
1階側で異常が出たときに、その回路を明確に特定して切り離し、浸水していない回路だけを安全に復旧できる構成にしておくことも重要です。
そのため、住宅会社や電気工事業者には、
「1階のコンセント回路が漏電した場合、どのブレーカーが落ちますか」
「1階をすべて切り離した状態で、2階だけ通電できますか」
と聞くほうが、単に「階別に分けてください」と伝えるより具体的です。
「回路を分ける」と「分電盤を2台付ける」は同じではない
水害対策の記事には、「1階と2階で分電盤を分ける」と説明しているものもあります。
しかし、公的資料で示されているのは、必ずしも各階に分電盤を1台ずつ設置する方法だけではありません。
佐賀県は「回路を1階と2階で分ける」としており、建築行政情報センターが公開する水害対策資料では、スマートメーターと分電盤を2階へ設置したうえで、電気回路を1階と2階に分け、分電盤内に階別・室別・設備別の名称を表示する方法を紹介しています。
大事なのは分電盤の台数ではなく、浸水した回路をほかの回路から切り離せることです。
一つの分電盤内でどのように回路を構成するのか、階別の分電盤を設けるのか、漏電保護をどう構成するのかは住宅の配線計画によって変わります。
ここは「2台にすれば安心」と設備の形を先に決めず、1階浸水時に2階を残したいという目的を電気工事業者へ伝えて設計してもらいます。
分電盤が浸水すれば、階別に分けても2階は使えない
回路分けには前提があります。
回路を切り分ける分電盤そのものが浸水しないことです。
1階と2階の回路をきれいに分けても、分電盤やその上流側の設備が水に浸かれば、「1階だけ切って2階を使う」という計画は成立しません。
浸水想定区域の住宅について、建築行政情報センターが公開する資料では、電気メーターと分電盤を2階へ設置し、回路を1階と2階に分ける方法を紹介しています。
そのため、新築時には回路分けと分電盤の位置を別々に決めないほうがよいでしょう。
先に建設地の想定浸水深を確認し、
「分電盤や必要な電気設備をどこまで上げるか」
「そのうえで1階と2階をどう切り離すか」
の順で考えます。
2階で何を使いたいのかまで決めておく
1階浸水後に2階を使えるようにするといっても、必要な電気は家庭によって違います。
最低限、夜間の照明を残したいのか。
スマートフォンやモバイルバッテリーを充電できればよいのか。
2階のエアコンを使いたいのか。
2階に冷蔵庫や生活設備を置き、一定期間生活できるようにしたいのか。
ここを決めないまま「1階と2階を分ける」とだけ依頼すると、完成後に必要な設備が別の回路につながっていたということも考えられます。
経済産業省・国土交通省の電気設備浸水対策ガイドラインでも、浸水区域の電気回路を切り離し、機能継続に必要な設備へ電力を供給できるよう、あらかじめ回路構成や切離し方法を把握しておく考え方が示されています。
住宅でも考え方は同じです。
「2階を通電できること」をゴールにするのではなく、「浸水後に2階で何を使いたいか」を先に決め、それに必要な回路を残せるようにします。
浸水した1階の回路は、水が引いただけで再通電しない
回路を分けておけば、1階浸水後に2階を残しやすくなります。
ただし、水が引いたからといって、浸水した1階の回路を自分の判断ですぐ元へ戻すことは避けます。
関西電力送配電は、浸水や漏水によって電気器具や配線類が水につかった場合には、そのまま使わず電気店などへ連絡して点検するよう案内しています。
水に混じった泥や塩分などが内部へ入り込んだ電気設備は、見た目が乾いていても絶縁不良や腐食につながる場合があります。
回路分けの目的は、「水が引いたら自分で1階をオン・オフしながら使い分けること」ではありません。
浸水した範囲を使わずに切り離し、点検・復旧が終わるまで浸水していない側で生活を続けやすくすることです。
新築時には電気工事業者へ3つ聞く
電気配線の打合せでは、難しい回路図を自分で作る必要はありません。
次の3点を伝えれば、確認したいことがかなり具体的になります。
「1階が床上浸水した場合、1階の回路だけをまとめて切り離せますか」
「1階で漏電したとき、2階まで停電する構成ですか。2階だけ復旧するにはどんな操作や構成が必要ですか」
「分電盤と、2階で残したい回路は想定浸水深より上で安全に使える計画になっていますか」
あわせて、分電盤には「1階リビング」「2階寝室」「2階エアコン」など、どこにつながるブレーカーか分かる表示をしてもらいます。
実際の回路変更や分電盤工事は電気工事に当たり、一般用電気工作物等の電気工事は、原則として第一種または第二種電気工事士でなければ作業できません。
水害に備えるためでも、完成後に自分で分電盤や配線を組み替えるのではなく、新築時に住宅会社や電気工事業者へ設計条件として伝えておくほうが安全です。
まとめ|「階別に分ける」より、1階だけ切り離せるかを確認する
1階と2階の電気回路を分ける対策は、1階が床上浸水したあとも、浸水していない2階の電気を残すために役立ちます。
ただし、分電盤の中で1階用・2階用のブレーカーを並べるだけでは十分とは限りません。
確認するのは、1階で漏電したときにどこまで停電するのか、1階側だけを切り離して2階を通電できるのか、分電盤自体が浸水しない位置にあるのかの3点です。
新築時には、「回路を1階と2階で分けてください」だけで終わらせず、「1階が浸水した状態で2階のどの設備を残したいか」まで伝えて、回路構成を決めてもらいます。
出典
「浸水に備えた住まいづくり」のパンフレットを作成しました|佐賀県、自然災害に備えて 住まいづくりの勘どころ|一般財団法人建築行政情報センター、建築物における電気設備の浸水対策|経済産業省、住宅用分電盤|日本配線システム工業会、住宅分電盤の主幹漏電ブレーカによる漏電保護について|Panasonic、急に電気が消えたとき|東京電力パワーグリッド、災害時の電気の安全ポイント|関西電力送配電、電気工事士法|e-Gov法令検索