水害が気になる土地に新築するなら、
「土地を30cmくらい上げればいい?」
「50cmあれば十分?」
「せっかくなら1m盛土した方が安心?」
と考えることがあります。
結論からいうと、新築住宅の土地を全国一律で「○cm上げればよい」と決められる基準はありません。
30cm、50cm、1mは、それぞれ水害対策として意味のある高さです。
しかし、先に高さを決めるのではなく、
どの水害を想定するのか。
そのとき水面はどこまで上がるのか。
家のどこまで水を入れたくないのか。
を決め、その結果として必要な宅盤高や床高を考えます。
新築では、
現在の地盤
↓
造成後の地盤
↓
1階床
↓
電気・給湯など重要設備
を別々の高さとして考えることが重要です。
30cm・50cm・1mに全国共通の安全基準はない
インターネットで調べると、
道路より30cm高くする。
50cm程度盛土する。
浸水想定より高くする。
といった目安が出てきます。
しかし、建築基準法に、
「住宅は道路より30cm高くする」
「水害区域では50cm盛土する」
という全国一律の数値基準があるわけではありません。
建築基準法19条では、建築物の敷地は接する道路の境より高くすること、建築物の地盤面は周囲の土地より高くすることを原則としています。
ただし敷地内の排水に支障がない場合などには例外があります。
また、湿潤な土地や出水のおそれが多い土地では、盛土・地盤改良など安全上必要な措置を講じることを求めています。
つまり法律でも重要なのは「30cm」という固定値ではなく、土地の排水と安全性です。
まず「何cm上げるか」ではなく「何cmの水を想定するか」
土地の高さを決める前に確認したいのが水害側です。
洪水。
内水。
高潮。
過去の浸水実績。
道路冠水。
小さな水路からの溢水。
などを確認します。
例えば洪水ハザードでは0.5m未満でも、過去に前面道路が30cm程度冠水した地域かもしれません。
反対に普段の道路冠水はほとんどなくても、想定最大規模の洪水では1m以上になる場所もあります。
最初から、
「50cm盛る」
と決めるのではなく、
「どの水位を住宅設計で意識するのか」
を先に決めます。
ハザードマップ0.5mなら50cm盛ればよい、ではない
ここは特に注意したいところです。
国土交通省では、浸水深を「浸水した場所の地面から水面までの高さ」としています。
一般的な住宅では、浸水深0.5m未満を床下浸水、0.5m以上を床上浸水のおそれがある一つの目安として扱っています。
しかし、
ハザードマップ0.5m
-
盛土50cm
=
浸水0cm
と単純計算するものではありません。
ハザードマップは一定の地形データ・計算条件で作られたものです。
自分の一筆だけを50cm高くした場合に周辺の水位がどうなるかまで、その表示から直接分かるわけではありません。
浸水想定深は、水害リスクを知る資料として使います。
実際の新築計画では、測量した現在地盤高、道路高、予定宅盤高、想定する水位を同じ高さの基準で比較して設計します。
30cm嵩上げする意味
道路とほぼ同じ高さだった土地を30cm上げるだけでも、道路からの浅い雨水流入に対しては有利になります。
例えば短時間の雨で道路に10~20cm程度水がたまるケースなら、
道路と同じ高さの敷地
より、
道路+30cmの敷地
の方が水は入りにくくなります。
また、道路より敷地が高くなることで、敷地内から道路側の排水施設へ自然勾配を取りやすくなる場合もあります。
ただし30cmは、
「内水に安全な高さ」
ではありません。
道路冠水が30cmを超えれば敷地へ達する可能性があります。
河川洪水で1m以上の水位になる土地なら、30cmだけでは住宅への浸水を防げないこともあります。
30cmは「浅い水に対する余裕」と考える方が分かりやすいでしょう。
50cm嵩上げすると浅い浸水への効果はさらに大きくなる
50cmまで宅盤を上げれば、道路と同じ高さの宅地より、浅い道路冠水・内水に対する高さの余裕はさらに大きくなります。
宅地を嵩上げすること自体は、国土交通省も水害による被害対象を減らす対策の一つとして位置付けています。
また国総研等が検討してきた住宅の浸水対策でも、一定の浅い浸水に対して宅盤や建物を高くする方法は有効な選択肢です。
ただし、
50cm
=
水害対策の完成
ではありません。
例えば洪水時に1m以上の水が想定されるなら、宅盤50cmだけでは水位が上回る可能性があります。
また、宅盤は50cm高くても駐車場だけ道路面まで下げれば、車にはその高さがありません。
何を守る50cmなのかを分けて考えます。
1m嵩上げすればかなり安心、でも単純ではない
30cmや50cmに比べれば、1m嵩上げした土地は浅い浸水に対して大きな高さを確保できます。
しかし1mになると、単に土を多く入れるだけでは済まないことがあります。
道路から玄関までの高低差。
車の乗入れ勾配。
隣地との高低差。
土を保持する方法。
擁壁・土留め。
敷地排水。
盛土そのものの締固め。
元の地盤への影響。
などをまとめて設計する必要が出てきます。
土地だけ高くした結果、雨水を隣地へ流す形にならないよう排水も計画しなければなりません。
さらに地域や工事規模・形状によっては盛土規制法、都市計画法の開発許可、自治体の条例・基準などの確認が必要になります。
愛知県では2025年5月9日から盛土規制法に基づく規制区域の運用が始まっています。西三河でも審査窓口は市によって異なります。
1m上げるから許可が必要、でもない
「1m盛土」という数字だけで、盛土規制法の許可が必要かどうかを判断することもできません。
盛土規制法では、
盛土によって一定高さを超える崖が生じるか。
盛土全体の高さ。
盛土・切土する面積。
規制区域の種類。
などを組み合わせて許可対象を判定します。
愛知県の資料でも、宅地造成等工事規制区域では、盛土により高さ1mを超える崖を生じる場合や、一定面積を超える造成などが許可対象になる基準として示されています。
そのため、
平坦な宅地を50cm上げる。
道路際だけ1m近い高低差ができる。
150㎡程度の敷地全体を1m上げる。
500㎡を超える造成を行う。
では確認内容が変わります。
新築計画で大きく宅盤を変える場合は、高さだけから自己判断せず、計画図を作った段階で自治体へ確認します。
「土地を上げる」と「床を上げる」は別の対策
水害対策では、土地全部を上げる方法だけではありません。
例えば、
現在の土地
↓
30cm盛土
↓
造成後地盤
↓
基礎
↓
1階床
とすれば、居室は道路からさらに高くなります。
逆に土地をほとんど上げず、建物の基礎や床だけ高くする設計も考えられます。
住宅生産団体連合会の「住宅における浸水対策の設計の手引き」も、浸水を完全に一つの方法だけで防ぐのではなく、宅地・基礎・開口部・設備など複数の対策を組み合わせる考え方を示しています。
そのため、
土地を50cm上げる
と
1階床を50cm上げる
は意味が違います。
前者は敷地・庭・建物周囲も高くなります。
後者は建物内部を守りやすくなりますが、駐車場・庭・屋外設備は低いままです。
土地全部を1m上げる必要がないケースもある
例えば購入予定地の問題が、
前面道路が大雨時に20~30cm程度冠水する可能性がある
というもので、河川洪水の深い浸水想定はないとします。
その場合、
土地全体を1m上げる
より、
宅盤を道路より一定程度高くする。
1階床をさらに高くする。
玄関・掃き出し窓の入口を守る。
給湯設備・電気設備を高くする。
という組み合わせの方が現実的な場合があります。
逆に数m規模の洪水が想定される土地では、50cmや1mの盛土だけで「浸水しない家」を作ろうとする発想自体を見直す必要があります。
国総研も、戸建て住宅側の対策だけでは生命・財産の確保が難しい災害があるため、立地選択を含めて考えることを推奨しています。
30cm・50cm・1mは「守れるもの」が変わる
高さを比べるなら、「何cmなら安全か」ではなく、守りたい対象で分けると分かりやすくなります。
30cm程度の嵩上げは、浅い道路冠水や道路からの雨水流入を減らす方向に働きます。
50cmになると、浅い内水に対してさらに高さの余裕を持たせやすくなります。
1mなら住宅地盤を大きく高くできますが、外構・擁壁・車の出入り・隣地・排水・造成工事への影響も大きくなります。
一方、洪水想定が2m、3mという土地では、どれも「完全に水を防ぐ高さ」とはいえません。
高さの数字だけでなく、想定する水位との関係から考えます。
1m上げても駐車場を下げれば車には1mの効果がない
新築で特に見落としやすいのが駐車場です。
宅盤を道路から1m上げると、そのままでは車を出入りさせにくくなります。
そこで、
住宅部分 道路+1m
駐車場 道路+10cm
のように駐車場だけ掘り下げることがあります。
この場合、
住宅には約1mの高さがある。
車には約10cmしか高さがない。
という状態です。
水害対策として「1m嵩上げした家」と表現できても、敷地全体が1m守られるわけではありません。
車まで守りたいなら、駐車場の高さと道路からの水の入口を別に検討します。
玄関まで1m上げると日常生活への影響も出る
水害対策では高いほど有利に見えます。
しかし住宅は毎日使います。
道路から玄関まで1m上がれば、
階段。
スロープ。
車椅子・ベビーカー。
自転車。
荷物の運搬。
高齢になった後の移動。
などにも影響します。
土地が狭ければ長いスロープを取るスペースがない場合もあります。
そのため水害だけを理由に「できるだけ高く」するのではなく、
水害リスク。
敷地面積。
車。
バリアフリー。
外構費。
を一緒に設計します。
高くした分だけ隣地との雨水関係も確認する
例えば現在は隣地とほぼ同じ高さの土地を1m上げるとします。
完成後は自分の敷地が高い側になります。
すると、
屋根からの雨。
庭へ降った雨。
駐車場からの雨。
を隣地側へ流さない排水計画が必要になります。
建築基準法19条も、建築物の敷地に雨水・汚水を排出または処理する適切な施設を設けることを求めています。
土地を上げる水害対策と、敷地から水を出す排水対策はセットです。
盛土は高さだけでなく施工方法も重要
同じ50cm、1mの盛土でも、土を置けば完成というものではありません。
盛土後には住宅を支える土地になります。
愛知県の開発許可基準では、盛土する場合、おおむね30cm以下ごとに土を盛り、各層をローラー等で締め固めることなどを求めています。地下水の影響がある場合には排水施設などの措置も必要です。
個人住宅のすべての工事にこの開発許可基準がそのまま適用されるという意味ではありません。
しかし、嵩上げでは完成した高さだけでなく、
どんな土を使うのか。
どのように締め固めるのか。
元の地盤はどうか。
建物基礎との関係はどうするのか。
まで設計・施工側で確認する必要があります。
「1m高くなった」という完成後の数字だけを見ないことが重要です。
嵩上げ後に地盤調査する位置・時期も確認する
元田んぼなど軟弱地盤が疑われる土地に盛土する場合、
地盤改良と盛土を別々に考えない方がよいでしょう。
盛土をすると、その土自体の重量が元地盤へ加わります。
また実際の建物は、造成後の地盤の上に建てます。
そのため住宅会社・地盤会社には、
造成前に何を調査するのか。
盛土後に改めて調査するのか。
盛土の荷重をどう考えるのか。
地盤改良が必要ならどの地盤を支持するのか。
まで確認します。
「元田んぼだから1m盛れば地盤も良くなる」という関係ではありません。
水害のための嵩上げと、建物を支える地盤対策は別です。
嵩上げする高さは道路だけを基準にしない
「道路より50cm高く」
という考え方は分かりやすいですが、道路だけを基準にすると不足する場合があります。
例えば、
道路+50cm。
しかし隣の住宅地はさらに1m高い。
候補地周辺が地域全体の窪地。
という場所もあります。
反対に前面道路より大きく高くても、河川洪水の想定水位がさらに高い場合もあります。
新築時には、
前面道路。
隣地。
周辺地形。
過去の浸水水位。
洪水・内水の想定。
を重ねます。
道路との高低差は、その中の一つです。
何cm上げるかは「水防ライン」から逆算する
最終的には、この考え方が分かりやすいです。
現在の地盤から、
「30cmにするか50cmにするか」
を選ぶのではありません。
先に、
ここまでは水が来る可能性がある
↓
ここから上は水を入れたくない
という高さを決めます。
その水防ラインに対して、
宅盤を何cm上げるか。
基礎・1階床をどこまで高くするか。
玄関・掃き出し窓をどこに置くか。
給湯器・分電盤・室外機をどこまで上げるか。
を配分します。
建築物の電気設備に関する国の浸水対策でも、想定浸水水位に対して重要設備を高い位置へ設けるという考え方が採られています。
住宅でも「盛土だけですべて守る」のではなく、土地と建物を合わせて高さを作ります。
新築なら3案を同じ図面で比較すると分かりやすい
候補地が決まったら住宅会社に、
30cm案。
50cm案。
1m案。
を言葉だけで比較してもらうより、同じ断面図にしてもらうと分かりやすくなります。
例えば、
前面道路
↓
現在地盤
↓
造成後宅盤
↓
駐車場
↓
玄関
↓
1階床
を断面で表示します。
その横へ、
過去の道路冠水水位。
想定する内水。
洪水浸水想定。
を重ねます。
すると、
30cmで十分なのか。
50cmにすると何が変わるか。
1mにすると住宅は守りやすいが擁壁が必要になるか。
駐車場は結局低くなるのか。
が見えてきます。
土地購入前なら、その3案の造成・外構費まで確認すると比較しやすくなります。
1m上げる費用より土地を変えた方がよい場合もある
水害対策として土地を高くすることには意味があります。
しかし嵩上げ量が増えるほど、
土工。
土留め・擁壁。
地盤対策。
排水。
階段・スロープ。
外構。
道路乗入れ。
などへの影響が増える可能性があります。
さらに高くしても深い洪水想定が残る土地なら、対策費を掛けるより別の候補地を選ぶ方が合理的なこともあります。
土地価格だけを比較せず、
土地価格
+
必要な水害対策
+
造成・外構
+
地盤対策
まで含めて土地同士を比較します。
安い低地へ1m盛る案と、最初から周囲より高い土地を買う案では、総額が逆転する可能性もあります。
まとめ
新築で土地を何cm嵩上げすればよいかに、全国共通の答えはありません。
30cm、50cm、1mにはそれぞれ水害対策として意味がありますが、安全・危険を分ける数字ではありません。
先に確認するのは、
洪水・内水・道路冠水などでどこまで水が上がる可能性があるのか。
そして、家のどこまで水を入れたくないのかです。
そのうえで、
宅盤。
1階床。
玄関。
駐車場。
電気・給湯設備。
の高さを組み合わせます。
30cmか50cmか1mかを先に選ぶのではなく、
想定する水位
↓
守りたい高さ
↓
宅盤と建物へ高さを配分
という順番で決めるのが新築時の考え方です。
土地を高くするほど水害には有利な方向へ働きます。
ただし、高くするほど擁壁・排水・車の乗入れ・隣地・地盤・法規制への影響も増えます。
「何cm盛れば安心か」ではなく、「この土地で必要な高さを、土地と住宅のどこで確保するか」まで決めてから購入・建築を進めることが重要です。